ヨーロッパでも高く評価されている鎌田に対し、フランクフルト側は鎌田の残留交渉をしていると言われていたが、鎌田側が移籍を望んでいるともいう。鎌田には、同じドイツのボルシア・ドルトムント、イングランドのトッテナム・ホットスパー、スペインのFCバルセロナ、ポルトガルのSLベンフィカなど、欧州トップクラスのチームが関心を持っているというが、真偽が怪しいのも含めて情報が錯綜している。

 欧州主要リーグの冬の移籍市場は1月末まで。鎌田のような数十億円と評価されている選手、その上、シーズン終了後には契約満了してしまう選手であると、所属チーム側は多額の移籍金の獲得を狙って1月末までになんとか交渉をまとめようとすることがある。ただ、選手側からすると、契約期間終了後の移籍はお金が発生しないので、より移籍先のチームの選択肢が増えやすくなる。鎌田側は契約満了のシーズン後の移籍を考えているとも言われている。

モウリーニョ監督による「If it is cheap.」

 個人的に、鎌田の移籍に関する最近の報道を見るたびに思い出すのが、ポルトガルの名将ジョゼ・モウリーニョ監督の言葉だ。モウリーニョ監督が率いるASローマは昨年11月下旬に、ワールドカップ・カタール大会の中断期間を利用して来日し、Jクラブとの親善試合を2試合行いながら、ファンとの交流イベントも開催した。来日直後の11月24日にはメディア向けの公開練習があり、その練習後のモウリーニョ監督の記者会見で、鎌田の名前が出たのだ。

 筆者が「中田英寿以降、ASローマでプレーする日本人選手がいません(※)。監督のもとで日本人選手を指導する機会はありますか?」と尋ねた。(※2000年1月にシーズン途中でローマに移籍し、翌シーズンまでローマでプレー。女子チームでは日本代表の南萌華が2022年から所属する)

 すると、モウリーニョ監督はすかさず、「If it is cheap(安ければ).」とニヤリと返した。あまりのキレ良いジョークに会見場内に笑いが起こり、質問をした筆者も「これがあのモウリーニョ節か〜」と返答に満足し、司会者から「(追加質問は)もういいですか?」と聞かれても「大丈夫です」と遠慮した。

 ところが、モウリーニョ監督は逆に、こんな回答で良いのかと思ったのか、気を遣ってなのかわからないが、自ら「フランクフルトの鎌田をローンで貸してくれるなら頂きます」と言ってくれたのだ。取材陣からすると、記事の見出しがたちやすいコメントに感謝である。

 ただ、この時に現場にいた人達は、誰もがリップサービスと感じたはず。直後には、「ローマが鎌田に関心か?」といった記事が当然出たが、その後は何も出ていない。

現状のローマには鎌田獲得は魅力的なはず

 筆者にはこの時のモウリーニョ監督が引っかかっている。モウリーニョ監督のASローマはシーズン前にはイタリア・セリエAで100ゴール以上決めているアルゼンチン代表FWパウロ・ディバラをユベントスから獲得し、熱狂的なサポーターたちからの期待が高まっていた。シーズン折り返しの段階で20チーム中7位だったものの、1月24日時点ではチャンピオンズリーグ出場権獲得圏内の4位内を狙える位置にいる。だが、これまで何度もリーグ優勝やチャンピオンリーグ制覇を達成しているモウリーニョ監督からすると、決して満足できる位置ではないはず。コロナ禍の影響でクラブ経営がひっ迫しているローマは、他のビッグクラブほど選手獲得の予算規模は大きくない。

 だからこそ、モウリーニョ監督が自ら「カマタ」という名前を挙げ、「安ければ」と言ったのはもちろんリップサービスの意味合いとはいえ、機会があれば案外現実的に考える可能性はあるのではと感じさせられた。

 鎌田のプレースタイルを考えると、ローマのイタリア代表ロレンツォ・ペッレグリーニとポジションがかぶる。たとえ、ローマに移籍しても出場機会が限られてしまう可能性はあるが、歴戦の名将モウリーニョ監督のもとで鎌田がさらにどう進化していくのか見てみたいと個人的には思う。

真剣な眼差しで選手たちをみつめるジョゼ・モウリーニョ監督

 そして、ローマが日本人選手たちを注視していること自体は事実だろう。チアゴ・ピントGMは、筆者がモウリーニョ監督に当てた同じ質問に対して、「具体的な名前は出せないけど、私たちのスカウト陣からは若いプレイヤーの良い評判は聞いている。私たちも日本市場をわかっている。日本代表、U-21、U-19、U-17代表についても把握している。ただ、名前を出したら価格が上がってしまう(笑)」と答えていた。

 中田英寿以来再び日本人選手がローマのユニホームに袖を通す機会が訪れるのか、それが鎌田である可能性はあるのか、鎌田の動向を見逃せない。

渋谷交差点そばにポップアップストア

 余談だが、ローマは日本でのツアーに合わせて、東京・渋谷にポップアップストア「CASA ROMA」を短期開設していた。店舗面積自体は狭かったものの、とにかく場所が良かった。渋谷の交差点近く、SHIBUYA109の向かいにあった。日本人や日本在住イタリア人のローマサポーターが大挙していたが、渋谷でたまたま通りがかり、サポーターやカメラマンが集まっているこの店舗は何だと入ってきていた人達もいた。

「CASA ROMA」のイベントに登場したレオナルド・スピナッツォーラ選手(奥)とジャンルカ・マンチーニ選手(手前)

 とても普段はサッカーやローマに関心があるとは思えない2人組のオシャレな10代女性に話を聞いてみると、案の定「何だろうと思って、気になって入ってみました」と答えてくれ、グッズも購入していた。昨夏にはパリ・サンジェルマンが、同じく渋谷でポップアップストアを開いていたが、場所がやや渋谷の人通りから離れた落ち着いた場所にあった。サッカーファン、ローマファン以外にもASローマというブランドを知ってもらうという点では、ローマのポップアップストアの取り組みは興味深かった。

 ローマはチアゴ・ピントGMだけでなくダン・フリードキン会長も来日して、Jリーグクラブとのパートナーシップ契約の会見に登場するなど、これから日本市場に力を入れていくことは間違いないだろう。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。