欧州の他のリーグ、特にイングランドのプレミアリーグに差をつけられるという危機感はだいぶ前からドイツにあり、ドイツサッカー界の重鎮たち、特に2021年6月までバイエルンCEOを務めたカール=ハインツ・ルンメニゲも、チャンピオンズリーグにおけるバイエルンの競争力が弱まると懸念していた。
そして今月、欧州チャンピオンズリーグでバイエルンがマンチェスター・シティに完敗。準々決勝での敗退が決まり、これで今季、欧州のカップ戦に残っているドイツ勢は欧州リーグを戦うレバークーゼンだけとなった。
国際舞台での勝敗が100%補強額で決まるわけではないにせよ、良い素材が揃わなければ、いくら監督や戦術が優れていても厳しい。
これ以上水をあけられないためにどうしたらいいか。もうすぐDFLで、歴史的な決定が下されるかもしれない。
それは、放映権を扱う子会社を作り、その会社の株の一部を資本家に売却するというものである。不透明な部分が多いが、今言われているのは株の12-15%、20億から30億ユーロ相当になる見込みだという。この収入を国際化とデジタル化に使い、残りを1部ブンデスリーガと2部ブンデスリーガの36クラブに分配する。デジタル化に関しては、DAZNのように試合を選んで観ることができるストリーミング・プラットフォームを自分たちで作るという話も聞こえてくる。
そもそも50+1のルールがあるブンデスリーガでは、チェルシーのトッド・ボーリー、マンチェスター・ユナイテッドのグレーザー家、ニューカッスルのサウジアラビア投資ファンド『PIF』、パリ・サンジェルマンのカタール投資会社『QSI』のように、個人や一つの会社がオーナーになることができない。そして国外放映権収入も、プレミアリーグが1シーズンにつき10億ユーロ以上であるのに対して、ブンデスリーガは約2億ユーロだけである。
近年の移籍金の高騰もあって、ワールドクラス、トップクラスの選手たちをイングランドのクラブに持っていかれ、ブンデスリーガや他のリーグは将来のスター選手候補の供給源にとなっている。いやそれどころか、近年では選手だけでなく、優秀な監督やスカウト、スポーツディレクターなどもイングランドのクラブに引っ張られていく。
世界のサッカーファンたちにとっても、特にスター選手が勢揃いするプレミアリーグは魅力的で、各国のテレビ局やストリーム・プラットフォームも放映権を巡って競い合う。選手たちは最高峰の舞台でスター選手たちと一緒にプレーしたいし、年俸も大幅に上がる。選手を動かして仲介料を受け取る選手代理人としても、プレミアリーグに選手を移籍させた方が割がいい。
この流れを変えたいDFLは、50+1ルールに触れることなく、各クラブの収入を増やすための方法を考えたわけだ。もっとも、投資会社に入ってもらうこのやり方は、既にラ・リーガの一部(レアル・マドリーとバルセロナ、アスレティック・ビルバオは除外)とリーグ・アンで行われているのであるが。
DFLは既に、これまでに応募のあった約50の投資会社から6社を選んでおり、その6社が24日までにオファーを提出することになっている。その6社とは、『アドベント』、『ブラックストーン』、『ブリッジポイント』、『CVC』、『EQT』、『KKR』。DFLがこのうちのどこを選ぶかは、オファーの金額だけでなく、国際化やデジタル化におけるノウハウや、スポーツ分野での経験値やネットワークも判断材料になるという。1社を選んだ後、5月か6月に行われるDFLの総会で投票を行い、3分の2の票が得られれば実行に移される。
しかし、思ってもみなかった追加収入が得られるのだからどのクラブでも歓迎するだろうというと、そうでもないようである。DFLを構成する36クラブの置かれる状況は様々で、それぞれの事情と思惑がある。特に、金の分配がテレビ放映権料の分配と同じやり方、順位表で決まるとしたら、毎年チャンピオンズリーグに参加するようなバイエルンやドルトムントはますます強くなり、マインツなどの中堅クラブは1部ブンデスリーガでいっそう定着、残留競争をするボーフムやシャルケはさらに苦しい戦いを強いられ、2部のクラブは1部に上がってくるのがますます難しくなる恐れがある。CLやELとは無縁のほとんどのクラブにとっては、国際競争力の問題は直接関係ないし、それより国内での格差が広がることを心配している。全てのクラブ代表者が立場を表明しているわけではないが、批判的な意見も少なくない。
そしてクラブの首脳陣の考えはさておき、4月に入ってから各地のスタジアムで「DFLへの資本家参入にノー!」、「お前たちは俺たちの心を売るつもりか」「リーグは私たちすべてのものだ」といったメッセージの書かれた横断幕が掲げられている。これからシーズン終盤にかけて、抗議は広がりを見せそうである。
バイエルン現CEOのオリバー・カーンは『シュポルトビルト』誌で、「路線変更が必要だ。特に海外放映権において、我々はプレミアリーグだけでなく、すでにスペインリーグにさえ負けている。この低迷を止める道は、ノウハウを持つ外部パートナーとの協力かもしれない」と理解を求めている。
一方でザンクトパウリのオケ・ゴットリッヒ会長が、懐疑的なクラブの声を代弁するように、「一般的に、競争を面白くするためには、収入を公平に分配することが決定的になる」と発言しているが、その「公平」とはいったい何なのか。36クラブのうち少なくとも24クラブが納得するような「公平」は、果たして見つかるのだろうか。ブンデスリーガで歴史的な変化があるかどうかは、その辺にかかっていそうである。
ドイツ・ブンデスリーガに転換期 平等か格差か、リーグ成長の鍵を握る分配比率
2023年1月、冬の移籍市場でチェルシーが移籍金1億ユーロクラスの選手たちを次々に買い集めていた頃、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)の総会の新年の挨拶の中で、ヨアヒム・ヴァツケ相談役会会長(ドルトムントのCEOでもある)は、「どぶネズミのレースに参加する必要はない。私たちはもっと自分達に自信を持つべきだ」と語りつつも、ブンデスリーガのさらなる国際化の必要性を唱えていた。
バイエルンCEO オリバー・カーン氏 (C)共同通信