与那覇はプロ17戦(12勝8KO4敗1分)、個性的な右のファイタータイプ。直近の試合は日本タイトル挑戦者決定戦で判定負けを喫していたが、それまでは2019年10月にブランクから復帰して以来5連勝1分で日本ランキングをアップさせてきた。何より、那須川のデビュー戦の舞台で食ってやろうという野心に満ちていた。決して与しやすい相手ではない。
実際、与那覇は6ラウンドの間なんとかして那須川に強打を当てようとした。が、那須川はその上を行き、危なげなく試合を進めた。ほとんど与那覇にパンチを当てさせなかった。
サウスポーの打たせず打つボクシング・スタイル——が、この日ベールを脱いだボクサー那須川の姿だった。もっとも、これには“現時点”の但し書がつく。当の那須川が「これが全部(の力)じゃないので」と繰り返すのが印象的だった。
「まだちゃんとボクシングをして半年」と日本上位を完封した大物ルーキーは強調していた。昨秋から、ラスベガス合宿を含む実戦的なトレーニングでボクサーとして腕を磨いてきた那須川。長いキック経験で培った格闘センスとともに、その成長速度もまた資質ということだろう。
敗れた与那覇は「クリンチ際が慣れている」「打ち分けなどのボクシング技術もあった」と那須川を評し、「吸収力がすごいので、どんどん上に行くと思います」と語った。
与那覇に勝った那須川には、さっそくオフィシャルな評価が下されている。まずOPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)が月例のランキングを更新し、那須川をスーパーバンタム級8位とした。そしてさる4月26日にJBC(日本ボクシングコミッション)が発表した4月度の日本ランキングでは、那須川はスーパーバンタム級7位に入った。
大物ボクサーたちのプロデビューは
過去の注目新人の例をみてみると、いまを時めくモンスター井上尚弥(大橋)はプロデビュー戦でOPBFランカーを4ラウンドKOで下し、日本6位(ライトフライ級)にランキングされた。またロンドン五輪金メダリストからプロに転向したミドル級の村田諒太の場合は、OPBF王者に2ラウンドTKO勝ちして日本1位。ボクシング・デビューの那須川が、アマチュア・ボクシングで顕著な実績を残した井上や村田同様にプロ1戦で日本ランキング入りを決めたのは、やはり異例である。
まずは日本タイトルに向かって
メディアもこれを受けて大きく報道した。「日本王座挑戦資格獲得」とフライング気味に書くスポーツ紙もあったが、厳密にいうと現行のルールでは、キャリア1戦の那須川は6回戦をもう1試合行い、勝って8回戦に昇格し……と順を踏まねばならない。さらに日本タイトルマッチ(10回戦)に出場するには8回戦を一度は経験(勝ち負け問わず)しておくべし、というものだから、これが改訂されない限り、少なくとも次で日本タイトル挑戦とはいかないのである。
それでも、大きな重圧に潰されず順当にデビューを果たした那須川の将来が楽しみであるのは間違いない。ターゲットになる日本スーパーバンタム級タイトルは現在空位だが(王座決定戦も未定)、OPBF同級のほうはK−1王者からプロボクシングに転向して6戦全KO勝ちの武居由樹(大橋)がベルトを持っている。那須川とのライバル対決もクローズアップされそうだ。また那須川の場合、今後バンタム級を視野に入れることもあり得るだろう。
まずは8月頃に計画されるプロ第2戦に注目。今度はどれぐらいレベルアップした姿を見せてくれるか。