難しいけど楽しい

 茨城GCは名匠上田治氏の設計で、バンカーや池を巧みに配した伝統と格式を誇る名門だ。その上で、主催する日本女子プロゴルフ協会は、世界で通用する選手を育成するとのコンセプトに従い、高い難度に設定。硬くて速いグリーンはもとより、特に今回はラフに特徴が見られた。茂木宏美コースセッティングディレクターによると、長さは昨年の70㍉よりも長い100㍉となり、密度を濃くした。茨城GCの青木則明支配人は「春先の気温上昇が早かったため芝草の萌芽が例年より早く、生育も春先にしては旺盛でした」と気象面での追い風を説明した。いいショットを打てばバーディーチャンスを狙える代わりに、ミスショットにはペナルティーを覚悟しなければならないという、見応えのあるコースに仕上がった。

 やみくもに難しくするだけでは選手の間から不満の声が頻発するパターンもあるが、今回は様相が違った。岩井明愛は第1ラウンドを終え「久々にこのコースセッティングでグリーンも速いですし、難しかったけど楽しかったです」と評した。小祝さくらは第2ラウンド後、やりがいを感じる設定かと問われ「そうですね。難しい、メジャーらしいセッティングだなと思いました」と話し、さまざまな技術が必要な大舞台らしさを体感していた。

 第2ラウンドを終えての予選カットラインは大会最多ストロークの通算9オーバーだった。これを受けてコメントした茂木ディレクターは、特別なゴルフ場と大会名を挙げて、意図を明かした。「今年の全米女子オープンがペブルビーチで開催されます。私は1度回ったことがあって、その時に雨、風がすごくて、難しさに衝撃を受けました。そこに2カ月後には選手が出ていくときに、この舞台を戦い抜いたから私はやれるんだと自信の一つになってほしいなという思いもあります」。そのゴルフ場こそ、米カリフォルニア州に存在し、世界のゴルファーがプレーを夢見るペブルビーチ・リンクスだ。

女王感激の特別な地

 サンフランシスコから南へ車で約2時間半。ペブルビーチ・リンクスはモントレー半島にあり、「世界ゴルフ場100選」などで毎年必ず上位にランクインする。太平洋に面して自然の地形を生かしており、名物ホールの7番は106ヤードしかないが風の影響を受けやすくて味わいがあり、世界で最も有名なパー3の一つに数えられる。2000年に男子の全米オープン選手権の第100回大会が開かれ、タイガー・ウッズ(米国)が2位に15打差をつけて圧勝した場所としても知られる。一方、全米女子オープン選手権は現在五つある女子のメジャー大会の中でも、規模や伝統などの面で女子の頂点に位置付けられる。昨年の優勝賞金は180万㌦(約2億5千万円)で、第78回を迎える今年は7月6~9日の開催。大会史上初めてペブルビーチ・リンクスが選ばれ、例年以上の盛り上がりを見せている。

 まず、出場申し込みが初めて2千件を超え、2107件をマークした。従来は昨年の1874件が最多だっただけに大幅増加となった。主催する米国ゴルフ協会(USGA)によると、60カ国以上から応募があり、最年少はブラジルの9歳のアマチュア、最年長は米メリーランド州在住の60歳のプロと、「オープン選手権」の名称にたがわぬ門戸開放ぶりだ。また決勝ラウンドが米三大ネットワークの一つ、NBCがプライムタイム(夜の高視聴率帯)に中継する。これは女子メジャー史上初と画期的で、注目度の高さをうかがわせる。

 さらに、過去3度優勝のアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)が特別承認を受けて参戦することが決まった。米ツアー通算72勝、メジャー10勝を誇る元女王は2008年に一度を引退。2021年に競技へ復帰した。「プレー機会を与えてくださったUSGAに心より感謝します。ペブルビーチでの初の全米女子オープンは女子ゴルフ界にとって決定的瞬間で、忘れることのできない週になるでしょう」と感激を隠さなかった。

常日頃の向上心と信念

 かつて、日本選手がメジャー優勝から遠ざかっていた頃、プロのトーナメントやアマチュアの大会のコース設定が欧米に比べて簡単な傾向にあるとの論調があった。その一因として、日本のゴルフ場は企業の接待向けが多い傾向にあるとの分析もあった。実際、アマチュアを統括する日本ゴルフ協会関係者が十数年前に米国へ視察に赴いたとき、現地の強豪大学の監督に強化の秘けつを尋ねたところ「コースを見てください。この環境が選手を強くするんです」と断言されたことがあるという。指導者のレベルアップとともに、多彩な技術を引き出させるような場をつくることは選手の実力向上に直結する。

 難度が高く、公平性の高いセッティングを実現する上で、対応できるゴルフ場側の技量は必須となる。ワールド・サロンパス・カップで見事な舞台を用意した茨城GCの青木支配人は「トーナメント期間中のコースは普段と異なる、ある意味特別なコンディションになりますが、これは付け焼き刃的な管理作業でつくれるものではなく、日常のコースコンディション、メンテナンス内容に深く関係しています。コース管理スタッフが常日頃から向上心と信念を持って業務に向き合う姿勢を持つことが大切だと思いますし、それを有する当倶楽部のスタッフを誇りに思います」と語った。

 コース側と主催者の情熱の融合。ワールド・サロンパス・カップの際、元世界ランキング1位の宮里藍さんは「久しぶりにこれだけ厚みのある深いラフのセッティングで、選手にとってもまた違うタフさのあるメジャーになったと思います。すごくいい1週間になったと思います」と総括した。2019年に渋野日向子が全英女子オープン、2021年には笹生優花が全米女子オープン選手権を制し、近年は日本女子のメジャー制覇が相次ぐ。その状況下で選手育成を加速させる節目になるような、ゴールデンウイークの大一番となった。


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事