準々決勝、スウェーデン戦は熱戦でした。そして、なでしこジャパンのウイークポイントとストロングポイントがはっきり出ていた試合だったと思います。

 32分に先制点を奪われたシーンは、FKからゴール前にハイボールを入れられるとなかなかクリアできず、4回跳ね返ったところでアマンダ・イレステトに決められてしまいました。51分に追加点を取られた場面は、CKからの競り合いの中でボールが手に当たってしまってPKになりました。

 それぞれの場面は「少し改善すれば」防げると見えるかもしれません。ですがそうではないと思うのです。

 そもそもなでしこジャパンは世界の強豪チームの中に入ると体格でハンデを抱えています。たとえばスウェーデンとの身長差は歴然としており、なでしこジャパンは登録23人中、身長170センチ以上が全部で5人なのに対し、スウェーデンは先発メンバーのうち170センチ以上が7人でした。

 この身長差、リーチの差はきっとこれからも埋まらないでしょう。となると、これからもパワーで押し込まれてクロスボールを入れられる局面になると日本はどうしても不利です。体を当てられて弾き飛ばされる場面がきっと今後も出てくるはずです。

 だから日本はそうさせない戦い方が必要になってきます。それではどうすればそういう戦い方ができるのか。それは「判断力」を上げることです。状況に応じて最善の判断を素早く、そして連続で行うことによって相手は日本人選手の体に触ることもできなくなりますし、そうやってボールをうまく回せることで相手は前に出てきにくくなります。

 ディフェンスラインからのビルドアップでは、相手のハイプレスを冷静に切り抜けていた場面と、相手のプレスに狙われてボールを奪われ守備に追われる場面とがありました。狙われているときに、もう1つ、2つの選択肢を用意することでプレスを回避できる場面がたくさんありました。そういった状況に応じた正しい判断が必要になります。

 もっとも、なでしこジャパンの戦いにはよさもたくさんありました。パスの連動性は出せていましたし、74分に植木理子がPKを誘発したドリブルや、87分に清家貴子がペナルティエリア内で振り向いてシュートを放ち、林穂之香のゴールに結びついたプレーなど、攻撃のスキルでも高いものを見せていました。

 ですから、その日本のストロングポイントを高さで押し込まれないように、判断の「速さ」を今後もっと上げていかなければいけないと思うのです。それが達成できなければベスト8以上は難しい、というのがこの大会で見えてきたことでした。

 なでしこジャパンは2011年ドイツ女子ワールドカップで優勝を果たしたため、どうしてもその後は当時のチームと比較されます。チャンピオンに輝いたチームに比べればどうか、という議論が起きがちです。

 ですが、そもそもチームは別物ですし、12年も経ってサッカーも進化しました。12年前の日本の躍進を見て各国が日本の戦術を取り入れ、緻密さが上がっています。2011年当時のなでしこジャパンはダークホースでしたが、現在は分析される立場に変わりました。単純に当時のチームと比べることはできないと思います。

 それに今回は熊谷紗希以外、若い選手が中心となりました。経験不足が心配されていましたが十分やれたと思いますし、強豪相手に歯が立たないというゲームは1試合もなく、今後の伸び代を感じることができました。しかも今回、選手たちは貴重な経験と、それから自信も手に入れたでしょう。

 今回のなでしこジャパンから確実に次につながる選手は育っていますし、戦い方も構築できてきていると思います。順調に強化を続けられれば、2024年パリ五輪、2027年女子ワールドカップ(開催国は2024年5月17日にFIFAの総会で決定)でさらに上位が望めるのではないかと思いました。

 では池田太監督はどうでしょうか。

 池田監督は2017年にU-19女子代表の監督に就任すると、2018年フランスU-20女子ワールドカップで優勝を果たし、2021年になでしこジャパンを率いることになりました。現在活躍している多くの選手を長い時間観察し、指導してきて、それが花開きつつあると思います。

 よくチームはまとまっていたと思いますし、雰囲気よく戦えていました。何より、2022年カタールワールドカップの日本代表よりも上の成績を出したのです。当然ながらパリ五輪までは指揮を執ると思いますが、僕は次のワールドカップまで続投でいいと思います。

 女子ワールドカップ前のなでしこジャパンに対する期待は、決して大きいと言えるものではありませんでした。直前までテレビ放映が決まらなかったのはその象徴でしょう。ですがそんな世間の風を気にすることなく、選手たちは日本のよさを力の限りだしてくれました。

 準々決勝で敗れてはしまいましたが、そんな彼女たちの健闘をたたえ、今後にますますの期待を寄せたいと思います。なでしこジャパンのみなさま、お疲れ様でした!

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。