今回のメンバーを見て分かるとおり、主力選手は代わっていません。冨安はケガから復帰しただけで当然レギュラーメンバーと考えていいでしょう。復帰そのものも決して驚きではありません。

 もちろん多少の入れ替わりはあります。たとえば旗手などは招集されてもなかなか適正ポジションが見つからず、今回は外れたのだと思います。ですが、ベースの部分の入れ替わりはなく、つまり森保一監督としてもチームの基本の選手はほぼ決まったということだと思います。

 9月の試合はヨーロッパで2試合戦うということで当然ですが、チームはアジアを向いていません。2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップのアジア予選に向けたメンバー選考ではなく、本大会出場、そしてそこでどれだけ勝ち上がっていくかを考えています。

 そうなると、必然的に海外組が中心になります。今回ヨーロッパでの試合だからということではなく、やはり海外組でないと世界とは戦えないということなのです。

 もちろんJリーグでプレーしていても成長することはできます。ですが日常的に高いインテンシティとスピードの中で戦っていたほうが、強豪チームと対戦するときに有利です。ですから、今回Jリーガーは大迫敬介(広島)、森下龍矢(名古屋グランパス)、毎熊、伊藤敦樹(浦和レッズ)と4人入っていますが、今後は2、3人になるのではないでしょうか。

 9月1日にはU-23アジアカップ予選のメンバーが発表されました。その中にはすでに海外でプレーしている選手がすでに8人います。小久保玲央ブライアン(ベンフィカ/ポルトガル)、鈴木彩艶、山本理仁、藤田譲瑠チマ(いずれもシント=トロイデン/ベルギー)、内野貴史(デュッセルドルフ/ドイツ)、斉藤光毅(ロッテルダム/オランダ)、小田裕太郎(ハート・オブ・ミドロシアン/スコットランド)、鈴木唯人(ブレンビー/デンマーク)はもう海外に飛び出してプレーしているのです。

 他にもパリ五輪世代が何人も海外でプレーしていることを考えても、かつての「五輪経由海外行き」というのは、すでに「海外経由五輪行き」に変わっているのが分かります。そして今後はそういう選手でないと世界大会で勝っていけないでしょう。

 現状のままではJリーグでプレーしていても世界には追いつけないということになります。2022年カタールワールドカップでも帰国組を除くと活躍できたJリーガーは谷口彰悟だけでした。その谷口もすぐにアル・ラーヤン(カタール)に移籍することになり、やはり海外基準のプレーをしていたことは分かりましたが、通用したJリーガーは1人だけだったという現実は受け止めなければなりません。

 現状は現状として受け止めつつ、今後どうしていくのかきちんと考えなければこのままになってしまうということが如実に分かったメンバー選考だったと思います。

 さて試合に話題を移すと、今回のドイツ戦は本当に楽しみです。カタールワールドカップでは日本に逆転負けし、しかも2大会連続グループリーグ敗退とドイツは屈辱にまみれました。

 今回は本国のファンの前で前回の雪辱を果たさなければならないということで、再び本気のドイツを見ることができるでしょう。中立の国で行う試合とは違うでしょうし、ましてや強豪といっても時差惚けのあるチームを日本に招くのとは違います。今回素晴らしいマッチメイクができたことは評価しなければなりません。

 カタールでは3バックにして、守備時は両サイドが下がり5バックで守備を固めてカウンターを仕掛けて勝ちました。今回も力が上のドイツが試合を支配するでしょう。その意味では日本はまた守備に重点を置いた戦いをしたほうが勝利を収めやすくなると思います。

 でも、そうやって勝利しなければいけない試合でしょうか。ただ、ワールドカップと同じような戦いをしていいかというと、それは違うと思います。

 僕は0-3や1-4という敗戦になってもいいから、日本がワールドカップ後に取り組んできたこと、もっとボールを保持する時間を長くし、攻撃できる形を増やすことにチャレンジしてほしいと思います。

 前から相手にプレッシャーをかけてボールを奪いに行き、奪取したボールをしっかりとつないでいろいろな攻撃のパターンにつなげる。カタールでできなかったことが急にできるとは思いませんが、そこで出てきた問題点を解決していくことこそ、次のワールドカップに生きるでしょう。

 特に今回から、セビージャ(スペイン)でヨーロッパリーグを2回制覇したときのテクニカルスタッフ、若林大智氏が代表チームに加わっています。世界で活躍した人が加わったのは、問題点の分析に非常に大きな進化をもたらしてくれるのではないでしょうか。

 ドイツ相手に果敢に立ち向かう、そんな戦いを期待しています。

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。