世界戦を超える闘いも生まれる

 1989年1月22日の高橋ナオト−マーク堀越戦(日本スーパーバンタム級)は、いまも語り草の伝説的試合。倒し倒され、また倒しの壮絶なファイトで、2人あわせて5度のダウンがあり、最後は高橋が9ラウンドKOでマークを下した。高橋は“ミスター・カーニバル”ともいうべき名選手で、3年連続でカーニバルに出場し、自身がKO負けを喫した試合も含めていずれもチャンピオンカーニバルのMVP賞に絡んだ。しかもマーク戦と今里光男戦(87年2月1日)はカーニバルの枠を超えてその年の年間最高試合に選ばれたほどだった。

 また、世界初挑戦でドローだった畑山隆則がコウジ有沢の日本スーパーフェザー級王座に挑んだ一戦(98年3月29日)は「史上最大の日本タイトル戦」と銘打たれ、会場も両国国技館という世界戦規模のイベントになった。結果は畑山が有沢に9ラウンドTKO勝ちを収め、世界再挑戦へ堂々駒を進めた。この試合も日本ボクシング界の年間を通じての最高試合に選出されている。

 時代が下って2011年、山中慎介−岩佐亮佑の日本バンタム級戦。これも忘れられない劇的名勝負だ。勝った山中に続き、この試合で負けた岩佐ものちに世界チャンピオンの栄光をつかみ、両者の試合の価値が一層高まったものだ。

見どころだらけの今年の闘い

 さて今年は、2月13日のスーパーウェルター級戦、チャンピオン出田裕一(三迫)−1位挑戦者小林柾貴(角海老宝石)が開幕戦。約2ヵ月半かけて13階級の日本タイトルマッチが行われていく。

 中でも注目を集めそうなのは4月9日に行われるスーパーライト級戦。チャンピオン藤田炎村(三迫)が強打の攻撃型、挑戦者の李健太(帝拳)はサウスポーのスマートなボクサー型と、対照的なスタイルの両者であるだけに興味深い組み合わせである。

 この2人の対照的な部分はまだある。李は早くからボクシングを始め、アマチュアの高校(大阪朝鮮高)時代には日本記録となる62連勝の偉業を達成。アマ102勝10敗の戦績を残し、B級デビューしたプロでは7戦6勝2KO1分と無敗をキープしている。

 一方、チャンピオン藤田(本名は裕崇)がボクシングを始めたのは大学進学後のことだ。早稲田大ボクシング部に入り、小学生のころから好きだった競技に取り組みだした。スタートが遅いことは承知していたというが、ここまで来るのには相当な努力と研究を続けたに違いない。大学でもすぐさま花開いたのではなく(アマ7勝3敗)、プロでは新人王戦から上を目指した。

 昨年4月、決定戦で青木クリスチャーノ(角海老宝石)を2ラウンドKOで破り、日本スーパーライト級王座を奪取。2度の防衛戦をともにKOで片付けた。12勝10KO1敗の右ファイター。大企業に勤めるサラリーマンでもあったが、こちらは昨年いっぱいで退社し、今年からボクシング一本の生活を送っている。もちろんこれは世界を狙うため。ボクシングにすべてを注げる環境を整えたのである。

 藤田−李戦の予想は拮抗している。いま乗りに乗る藤田が防衛して先をアピールするのか、それともアマチュアエリートの李がさっそうと日本タイトルを獲得するのか。「王者×最強挑戦者」のチャンピオンカーニバルにふさわしいカードといえよう。

 これ以外にも、松本圭佑(大橋)−前田稔輝(グリーンツダ)のフェザー級戦や、仲里周磨(オキナワ)−三代大訓(横浜光)のライト級戦など、ハイレベルな攻防が期待できる。ボクシングファンの記憶にずっと残るような名勝負を今年も見たい——。


VictorySportsNews編集部