井岡も26試合目となる世界タイトルマッチ。最軽量ミニマム級から順に4階級でチャンピオンとなり、世界戦だけで22勝(11KO)をあげた。これは同数(22勝20KO)の井上尚弥(大橋)とともに歴代日本最多である。
二人の数字がいかにすごいか。過去に日本からはざっと100人の世界チャンピオン(日本ボクシングコミッション公認)が生まれているが、最多連続防衛記録保持者の具志堅用高でも世界戦通算勝利数は14で、この具志堅と寺地拳四朗(BMB)が第3位タイとなる。井岡と井上の勝利数が群を抜いているのがわかる。
世界でみても、22勝したのは現在まで20人のみである。ちなみにトップは31勝のフリオ・セサール・チャベス。メキシコ最大の英雄は1980年から2005年まで戦い続け、最多世界戦出場37試合という大記録も持っている。3階級制覇を果たしたチャベスは終身戦績が115戦107勝85KO6敗2分ととてつもなく、1993年2月の防衛戦でアステカスタジアムに13万6000人もの観衆を集めたこともある。
2位は世界戦通算28勝のオマール・ナルバエス。日本では井上にスーパーフライ級王座を明け渡し引き立て役となったが、フライ級で16度、スーパーフライ級で11度もタイトルを守った名ボクサーだ。
アルゼンチンからの刺客
さて、このたび「23勝目」を目指す井岡が対戦するマルティネスはナルバエスの後輩王者となる。こちらは世界タイトルを獲ってまだ浅いものの、井岡の並立チャンピオンとして意欲満々で来日を果たす。数々の名ボクサーを輩出してきたアルゼンチンで、現在唯一の男子世界チャンピオンである。
井岡戦の3日後に33歳になる好戦的な右ボクサーファイター。アマチュア時代はリオデジャネイロ五輪代表となり、2017年8月にプロデビューして16戦全勝9KO。一昨年2月、長期安定王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に勝利する番狂わせを起こし、IBFチャンピオンとなった。
今回の一戦に向けて、「統一チャンピオン」とともに「アルゼンチンのボクシング再興」も誓っている。パスカル・ペレスをはじめ、同国を代表したボクサーの系譜に連なることが目標という。こと日本からタイトルを奪い去ったアルゼンチン・ボクサーとなると、ペレス、オラシオ・アカバロ、ニコリノ・ローチェの3人しかいない。最後のローチェも56年も前のことである(もっとも、逆にアルゼンチンで世界タイトル奪取を果たした日本人ボクサーはまだいない)。
井岡−マルティネス戦は中身も期待できる。というのも、プーマが異名のマルティネスは攻撃型のチャンピオンで、のっけからガンガン攻めてくるのは容易に予想できる。これに井岡が「相手の距離で打ち勝って止める」と語っているから、まずおもしろい試合になりそうなのである。
左ジャブを当てて正確な距離感で自らのボクシングを展開する井岡が、出てくるマルティネスから離れるのではなく「打って止める」という。互いのパンチが当たる距離での攻防はスリリングで見ごたえがあるに違いない。KO(TKO)決着もあり得よう。
統一チャンピオンを目指して
同じスーパーフライ級では、井岡−マルティネス戦の1週間前にアメリカ・フェニックスでWBC(世界ボクシング評議会)タイトルマッチも挙行される。こちらは王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)−ジェシー・ロドリゲス(アメリカ)のカード。軽量級のビッグネーム、エストラーダにスター候補ロドリゲスが挑む一戦は大きな注目を集めている。
エストラーダはローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との激闘から1年7ヵ月ぶりのリング。19戦全勝ですでに世界2階級制覇を成し遂げている24歳のロドリゲスをここで迎えるのはリスクも大きいが、プロ47戦の経験を生かして撃退すれば、そのぶん見返りもある。
井岡にすれば、WBA&IBFチャンピオンとなってエストラーダ−ロドリゲスの勝者に対決を迫りたいはず。ビッグマッチがさらなるビッグマッチを呼ぶ。そういう期待をもって観戦すれば、なおさらマルティネス戦は興味深いものとなる。