文=浅田真樹

アジア枠初のウズベキスタン代表選手が磐田に加入

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 ジュビロ磐田にウズベキスタン代表の経験を持つMFフォジル・ムサエフの新加入が決まった。出生地ではなく国籍でのウズベキスタン人選手のJクラブ入りは初めてのケースだという。Jリーグでは、1試合につき外国籍選手、いわゆる「外国人枠」の3名とは別に、アジアサッカー連盟(AFC)加盟国の国籍を有する選手について、「アジア枠」として1名の出場が認められている(ただし、Jリーグ提携国の国籍を有する選手についてはこの制限を受けない)。

2016年12月21日、ジュビロ磐田はウズベキスタン代表MFフォジル・ムサエフら3名の選手を完全移籍で獲得したことを発表した
磐田 ウズベキスタン代表MFムサエフら3選手加入を発表― スポニチ Sponichi Annex サッカー

 アジア枠が採用された2009年当初は、この新制度によりアジア各国の選手が日本でプレーすることになるかと思われた。だが、実際のところ、現状のアジア枠は韓国とオーストラリアの寡占状態にある。特に(外国人枠での登録も含めた)韓国人選手の増加は近年著しい。高校や大学からKリーグを経ずに日本にやってくる選手も多く、あたかもJリーグが若手の韓国人選手を育てているのではないかと感じるほどだ。

 しかし、アジア全体に視野を広げれば、才能ある選手が現れるのは言うまでもなく韓国やオーストラリアに限らない。例えば、昨年開かれたアジアU−23選手権や同U−19選手権を見ても、サウジアラビア、イラク、イラン、UAE、カタールなど、有望な若手はアジア中に散らばっているのだと実感できる。

ヨーロッパに近いフィジカル能力を持つウズベキスタン

 なかでもウズベキスタンは、常に高いレベルで選手を輩出し続けるアジアの強国だ。前述した昨年の大会では結果的にU−23(リオデジャネイロオリンピック予選)もU−19(U−20ワールドカップ予選)も、組み合わせの不運もあって世界大会出場を逃したが、どちらの大会でもウズベキスタンは強かった。2つの大会で優勝した日本と比べても、勝るとも劣らない力を持っていた。

 ウズベキスタンの育成年代で特に印象深いのは、2013年U−20ワールドカップに出場したチームだ。左利きのプレーメーカーだったジャムシド・イスカンデロフを中心に能力の高い選手がそろったタレント軍団は、同大会でベスト8に進出した。その後、イスカンデロフが21歳で一昨年のアジアカップに出場したのをはじめ、彼らは活躍の場をA代表に移している。

 磐田入りが決まったムサエフにしても、2008年アジアU−19選手権に出場していた選手だ。当時の取材ノートを引っ張り出してみると日本との対戦はなかったが、2ボランチの一角として主にアンカー的な役割を担っていたことがわかる。

 つまり、すでにA代表に選ばれるような完成された選手は獲得できるなら言うことなしだが、そうでなくても育成年代に少し目を向けるだけで、同年代の日本人選手以上に魅力的なタレントは数多く見つけられるということだ。もちろん、いい選手が見つかったからと言って、それを必ずJリーグに連れてこられるわけではない。UAEやカタールの選手であれば、Jクラブは待遇面で自国クラブに劣るだろう。あるいは、アジアの選手全体に言えることだが、ピッチ内外であまりにも環境面の違いが大きすぎ、日本に適応できない可能性も十分にある。超えるべきハードルは決して少なくない。

 しかし、せっかくのアジア枠が無難な選択よって埋められ、事実上の「韓国・オーストラリア枠」になってしまったのではおもしろくないし、もったいない。ウズベキスタンであれば、ヨーロッパの選手に近いフィジカル能力を持ち、球際の争いは少々ラフなくらいに激しいが、それでいて技術も高い。タイプの異なる選手が数多くプレーすることで、Jリーグは間違いなく活性化されるはずである。だからこそ、初めて日本にやってくるウズベキスタン人MFの活躍が楽しみだ。ムサエフの磐田入りがマンネリ化する制度にクサビを打ち込み、アジアのポテンシャルの高さをJリーグに気づかせるきっかけとなることを期待している。


浅田真樹

1967年生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て、フリーライターとしての活動を開始。サッカーを中心にスポーツを幅広く取材する。ワールドカップ以外にも、最近10年間でU-20ワールドカップは4大会、U-17ワールドカップは3大会の取材実績がある。