高校年代でも明治神宮大会、国体などで導入済み

 今回、2試合続けて15回まで戦った末に引き分け再試合となったことで、選手の体調管理について改めて考えさせられたファンも多いのではないだろうか。その解決策として注目を集めているのがタイブレークだ。日本高等学校野球連盟の竹中雅彦事務局長も次のように語り、検討の可能性を示している。

高野連の竹中事務局長は「(タイブレークについて)今は継続審議という形でとどまっている。委員会では質問が出てくると思うし、こういう事象が起きているので議論しないといけないでしょう」と話した。
選抜高校野球 技術振興委員会がタイブレーク導入検討を示唆/野球/デイリースポーツ online

 予め走者を配置した状況からプレーを開始し、試合の早期決着を図るタイブレーク。この制度は現在の野球界においてどのように位置づけられているのであろうか。

 先日閉幕した2017WBCでは、延長10回で勝負がつかない場合、11回以降は無死一、二塁から攻撃を始めるというタイブレーク制度が大会規定で導入されていた。3月12日に東京ドームで行われた2次ラウンドの日本とオランダの試合では、そのタイブレークの末に延長11回で日本がオランダを8対6で降したのは記憶に新しい。WBCでは09年の第2回大会からタイブレーク制度が実施されている(このときは13回以降に無死一、二塁でスタートだった)。

 社会人野球でのタイブレーク制度の導入は早く、都市対抗野球大会では03年から実施されている。現在は延長12回以降、1死満塁から攻撃が始まる形だ。大学野球でも11年の全日本大学野球選手権大会から導入され、決勝戦を除き延長10回以降は1死満塁からスタートしている。11年の全国大会から実施されるようになったのは、この年の3月に起きた東日本大震災による電力事情に配慮した結果だった。

 同様に明治神宮大会でも11年から決勝戦を除いて導入されているのだが、実は、この大会では大学の部だけでなく、高校の部でもすでにタイブレークが採用されている。当初は大学の部も高校の部も10回以降1死満塁からのスタートだったが、現在、高校の部は10回無死一、二塁から攻撃を始める形になっている。

 高校野球ではこの11年の明治神宮大会で導入されたのを皮切りに、国体では13年から、一部の地区大会や都道府県大会では14年から実施されている。国体及び一部の大会において高校野球でも行われるようになった一つのきっかけが、13年の選抜高等学校野球大会で準優勝した愛媛・済美高校の2年生エース安樂智大(楽天)の投球だった。初戦で延長13回を完投するなど、3連投を含む5試合で772球を投げた彼のプレーが、特にアメリカのメディアによって強く批判されたためだ。

アンケートでは約半数がタイブレークに賛成

©共同通信

 こうした状況を踏まえ、高野連は14年の夏に加盟校に対して選手の健康管理に関するアンケートを行っている。当時の全加盟校に当たる4030校に依頼し、3951校が回答。その中に、「選手の健康管理に関して、以下のどの方法を導入するのが良いか?」という質問があった。結果は以下のとおりだ。

①投手の投球数制限を実施:硬式・474校(12.0%)、軟式・44校(9.9%)
②投手の投球回数制限を実施:硬式・423校(10.7%)、軟式・96校(21.6%)
③タイブレーク制度を実施:硬式・1964校(49.7%)、軟式・238校(53.6%)
④その他の方法を実施(現状維持という回答も含む):硬式・1090校(27.6%)、軟式・66校(14.9%)

 14年の時点で、硬式・軟式ともに約半数がタイブレーク制度の実施が良いと答えている。

 ちなみに全国高等学校軟式野球大会では、引き分け再試合制度のなかった14年の第59回大会で、崇徳対中京の準決勝が3度のサスペンデッドゲーム(一時停止試合)の末に4日間にわたる延長50回までもつれ込むという大熱戦があった。試合は50回表に3点を取った中京が、3対0で崇徳を降している。崇徳のエース石岡樹輝弥の投球数は689球、中京のエース松井大河は709球にも及んだ。これをきっかけに全国高校軟式野球大会では、決勝戦を除いて延長13回以降は無死一、二塁から攻撃を始めるタイブレーク制度が翌15年の大会より導入されている。

 このように高校野球でも、現在では明治神宮大会、国体、一部の地区や都道府県大会等でタイブレーク制度は広く実施されている。軟式では全国大会でも導入された。行われていないのは春の選抜甲子園大会とその出場校を選ぶ際に大きな影響を与える秋季地区大会、それに夏の甲子園に繋がる予選大会と本大会程度となっており、今やこちらが例外のような存在になっているのだ。

 タイブレークで機械的にチャンスが演出されることにより、延長戦独特の緊張感やドラマチックな展開が幾分損なわれてしまう感は否めない。だが、それはあくまで見る側の都合だ。特に育成年代においては、選手の身体的保護は大人の責務である。“少数派”となった今、甲子園でのタイブレーク導入はもはや論をまたないのではないだろうか。

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BBCrix編集部