文=鴫原盛之

 本稿では「前編」に続き、今や「消えた文化」となってしまった、1980~90年代の初頭に登場したサッカーゲームの面白さについて考察する。

 「前編」においては、初期のサッカーゲームが面白かった要因のひとつとして、「目まぐるしく攻守が切り替わる、スピード感とスリル感」をテーマに書かせていただいた。今回は、「ゴールが絶対に決まる『必勝パターン』の存在」をテーマに、昔の作品ならではの独特の面白さや魅力について考えてみたい。

サッカーゲーム黎明期ならではの「必勝パターン」

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1993年3月にコナミが発売したアーケード用サッカーゲームの「プレミアサッカー」より。うまくパターンを作ると、キックオフからわずか6秒でゴールが決められる

©1985 Nintendo

セットプレイを利用した「必勝パターン」の一例。任天堂のファミリーコンピュータ版「サッカー」では、写真のように矢印をファーサイドに合わせてシュートを放つと、直接ゴールを決めることができる

「今の『FIFA』や『ウイイレ』にだって、必ずゴールが決まるパターンがあるのでは?」と、思った人もおそらくいることだろう。だが本稿における「必勝パターン」とは、それよりもずっと前の段階からパターン化できることを指し、ゲームによってはキックオフからゴールまでの一連のプレイを全部パターン化できることを意味する。今では想像がつかないことかもしれないが、昔の作品にはそんな「必勝パターン」が少なからず存在したのである。

「そんな簡単にゴールが決まったら、ゲームが大味になってつまらないのでは?」と思われるかもしれないが、けっしてそんなことはない。なぜならば、「必勝パターン」をプレイヤー自身の手で発見し、完成させるまでのプロセスが楽しいからだ。

 まずは相手選手(コンピューター)の動きの特徴やクセを見抜き、「キックオフしたら、最初は一番近くの味方にワンタッチで横パスを出して、次は前方に3歩ドリブルしてから、左のウイングに縦パスを出せば必ず通るな……」などというように、1プレイごとに細かくパターン化していく。そしてシュトーレンジまで侵入したら、どのタイミングで、どの位置から、どのコースにシュートを撃てばゴールキーパーが反応できないのかを発見できれば、晴れて「必勝パターン」の完成となる。試行錯誤の末に独自の攻略パターンを開発し、相手に何もさせずにゴールを決めたときの爽快感は格別だ。

多くの子どもたちが経験した「100円玉を巡るスリル」

「必勝パターン」が完成したら、今度はそれを百発百中で成功させられる、操作テクニックのマスターを目指すことが新たな面白さとなる。とりわけアーケードゲームにおいては、試合に負ければ即ゲームオーバーとなってしまうので、慣れないうちはメンタル面でもプレッシャーが掛かり、単純な操作でも思わぬところでミスが出たりする。つまり、プレイヤーは相手チームだけでなく、機械に100円を取られるかどうかというプレッシャーとも戦うことになる。アーケード用の新作タイトルがめっきり少なくなった昨今、この100円玉を巡るスリルも、今や「消えた文化」になりつつあると言えるだろう。

 昔からアーケードゲーム業界では、儲けるためには「3分でゲームオーバーにさせる」よう難易度を調整する(※筆者もゲームセンター店長の経験があるので、こうしないと店が儲からないのは痛いほどよくわかる)のが定石とされているため、勝ち進むごとに相手チームがどんどん強くなってプレイヤーを負けさせようとする。よって、プレイヤーは「必勝パターン」を覚えればプレイ時間が長くなる、すなわちゲームの腕が上達したことが実感でき、同時にそれが面白さにもつながっていたのだ。

 アーケードゲームと言えば、こちらもほぼ「消えた文化」となってしまったが、ゲーム雑誌を通じて全国のプレイヤー間でハイスコアを競う文化が1980年代から存在する。サッカーゲームにおいては、主にゲーム終了時点での得失点差を対象としてハイスコアを集計していた(※)。つまり、最も優れた「必勝パターン」の使い手は誰なのかを競うという、独特の遊び方が(盛んだったとは言えないが)確かにあった。

※筆者注:昔のゲームセンターでは、サッカーゲームで2人対戦を日々楽しむプレイヤーは極めて少数派だった。また、ゲーム雑誌においては1人プレイ時のハイスコアが集計の対象で、対戦プレイでの連勝数は対象外だった。

昔ながらのサッカーゲームの醍醐味

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初期のアーケード用サッカーゲームでは、勝利数や合計ゴール数、得失点差などのランキングを集計し、上位に入ると名前を書き込めるネームエントリー機能を使用してプレイヤーが腕を競っていた。(写真は上から順に「ハットトリックヒーロー」「ワールドカップ」「プレミアサッカー」)

 また、プレイヤーのランキングをインターネットで集計するシステムが今では当たり前に存在するが、昔のアーケードゲームでは画面内に名前を書き込む機能(※ネームレジスト、またはネームエントリーなどと呼ぶ)を使用して腕を競っていた。店によっては、ホワイトボードを使用した手作りの「ハイスコアボード」を設置し、プレイヤーの栄誉を称えるサービスもよく行われていた。

 手前味噌でたいへん恐縮だが、実は筆者も若い頃に某サッカーゲームで全国1位のハイスコアを獲得したことがある。当時は従来の「必勝パターン」からゴールが決まるまでの時間を1秒短縮できる、新たなパターンを開発しただけでも大喜びしたものだ。他のプレイヤーはおそらく知らないであろう、自分だけの「必勝パターン」と、自身の名前が掲載された雑誌は、プレイヤーの言わば掛け替えのない財産のようなものだった。

 ボールを蹴る、または走るだけの単純なアクションしかできない状況下で、いかに効率よくゴールが決まる技を編み出せるのか。そして素早く、かつ正確に「必勝パターン」を遂行できるテクニックをマスターできるのか? 昔ながらのサッカーゲームの醍醐味はここにあるのではないかと、筆者は長年の経験から考えている。

定番野球ゲームの知られざる大ヒットの秘密

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NBA・NFLも狙う1000億円市場! リアルとリンクするeスポーツの可能性

プロのリーグやチーム、プレーヤーが続々と誕生するなど、世界中で急成長を遂げているeスポーツ市場。日本がこの分野で大きく出遅れているといわれる中、アメリカではNFLやNBAといったプロスポーツリーグが、eスポーツと連携する事例が増えている。その狙いはいったい何だろうか――?(文=川内イオ)

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鴫原盛之

1993年にアーケードゲーム雑誌の攻略ライターとしてデビュー。その後ゲームセンター店長、メーカー営業などの職を経て2004年よりフリーライターに。これまでにゲーム関連・攻略書籍を多数執筆し、ゲーム関連の学会にてゲーム史の収集・記録なども手掛ける。主な著書は『ファミダス ファミコン裏技編』『ゲーム職人第1集』(共にマイクロマガジン社)などがあり、近刊では『日本ゲーム産業史』(日経BP)にも寄稿。趣味はサッカー観戦で、1980年代からACミランとオランダ代表の大ファン。