【第一回】ダルビッシュ有のプロ野球改革論「いつか、日本球界に戻りたいなって思っています」

日本球界が生んだ最高の投手、ダルビッシュ有。メジャーリーガーとして圧巻のパフォーマンスを披露する傍ら、SNSを活用してしばしば球界に対する問題提起も行ってきた。今回、トークゲストに前DeNA球団社長の池田純氏を迎え、数少ない“主張するアスリート”への独占インタビューが実現。彼があえてメディアを通じて発したかったオピニオンとはーー。日本球界への熱い思いが伝わるプロ野球改革論、必見のインタビューだ。

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【第三回】ダルビッシュ有のプロ野球改革論「メジャーの中でもトップのピッチャーになりたい」

日本球界の至宝にして“主張するアスリート”であるダルビッシュ有の独占インタビューもいよいよ後半戦。今回のテーマは“質”。プロ野球の評価の質やTwitterでのファンの質についての思いを語った。さらには、日本球界のためにイチローのすごさを伝えたいという思いもこぼれる。

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【第四回】ダルビッシュ有のプロ野球改革論 「引退したら大学で経営を学びたい」

日本球界の至宝にして“主張するアスリート”であるダルビッシュ有の独占インタビュー。最終回は、ダルビッシュが引退後のセカンドキャリアを考える。すべては「プロ野球改革」のためにーー。GM就任への意欲も見せた彼のビジョンとは。

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インタビュー=岩本義弘、トークゲスト=池田純、写真=早瀬将大

メジャーリーガーにとってのWBCの価値

©早瀬将大

池田 WBCは見ましたか?

ダルビッシュ 見ました。全部は見られていないんですけどね。

池田 私は現地に見に行っていたんですけど、正直あまり盛り上がっていないですね。

ダルビッシュ 2013年の大会の時は、こっちの選手たちも全然気にしていなかったです。でも、今年になって前回優勝したドミニカ人たちが「結局自分たちが優勝しているから、オレたちのほうが強い」って、アメリカ人たちに冗談を言ったりして。メジャーリーガー同士はそうやって盛り上がっていましたね。それでアメリカ人も「今年は絶対にうちが勝つ」みたいな、そういう話でクラブハウスはすごく盛り上がっていました。それ以外のファンの人たちというのは、ちょっとわからないんですけどね。

池田 ロサンゼルスの街全体はそんなに盛り上がっていなくて、税関で「何をしに来たんだ」って聞かれて、「WBCを見に来たんだ」って言ったら、「昨日は何対何だったの?」って聞かれました。そのくらいの感じなのかって思いましたね。

岩本 準決勝は仕事の都合で見られなくて決勝だけだったんです。だから日本戦は見ていません。そういう状況だったので、より違和感を感じるんですよね。

池田 そう。それで今日『サンスポ』さんにちょっと寄稿したら、「池田が提言! もっと日本で盛り上げるべきなんじゃないか」って書かれていました。

ダルビッシュ まあ、でもこれからですかね。今年やっとアメリカが勝った。アメリカ人たちは自分たちが負けると「いや、オレらは本気出してないし……」って言いがちです。実際に、アメリカは全然ベストメンバーではありません。今回勝って、もうちょっと気持ちを入れてくれるかなという気はしています。ですが、オリンピックくらいになるか、サッカーのワールドカップくらいになるかって言ったら、やっぱり難しいですね。

岩本 選手の視点からすると、どういう世界一決定戦だったら、それにふさわしい大会になっていくと思いますか?

ダルビッシュ 結局、日程の問題がやっぱり大きいですね。シーズン前だと、みんなはシーズンのことを考えてしまいます。こっちは年間162試合あります。ただでさえきついので、最初はちょっと軽めにやろうかな、みたいな感じになっちゃいます。何かがあればいいんですけど、馬でいう人参になるようなものがあれば……難しいですね。

岩本 シーズン後に開催すべきという意見もありますけど、シーズン後はシーズン後で相当疲れていますよね。

ダルビッシュ そうですし、みんな一度は絶対に“切り”ますね。日米野球みたいな感じでMLBが来日しますけど、みんなは完全に観光気分なんですよね。ピッチャーだって、こっちで155キロとか連発しているヤツが、145キロとかになります。そういう面ではやっぱり……と思いますよね。たぶん日本がもっと多くチームを作って、そのうち2チームくらいをMLBの中に入れてシーズンを戦ったら、一番面白いと思います。

岩本 ポストシーズンのところからは入る枠があるとかですかね?

ダルビッシュ それも面白いですし、レギュラーシーズンに入らせてもいいのかなと思います。ですが、それは日本人選手のチームにかなり不利ですね。

池田 確かに、今回最も私に響いてきたのは「侍ジャパンvsカブス」。その言葉を聞いた時には流石に気分が盛り上がりましたよね。「おー、見たい!」と思いました。

ダルビッシュ 自分もそれですね。2009年にWBCでこっちに来た時、ジャイアンツ、カブスと試合をしました。その時のジャイアンツには、サイ・ヤング賞を取るくらいのリンスカムが投げていました。カブスとも試合をして、すごく良い経験になったんですよ。WBCがどうとかじゃなくて、メジャーのチームと選手を相手に、メジャーのユニフォームを着た相手に投げたという経験が、すごく大きかったんです。だから、今回は絶対に良い経験になっているなと思いましたね。

岩本 実際のWBCの試合とは、また別の刺激をもらったのでしょうか?

ダルビッシュ 全然違いました。どちらかというと練習試合のような気分で臨めました。そこまでのプレッシャーもありませんでした。逆に、WBCの準決勝や決勝になっちゃうと失敗できないから、それどころじゃないという感じになってしまいます。

池田 メジャーで投げる感覚はやはり違いますか? 投げた時の(バッターの)威圧感とかですか?

ダルビッシュ それは違いますね。こっちのバッターはみんなホームランを打てるので、それはやっぱり違うと思います。抜きどころがない。

池田 ちょっとでも甘いと「カポッーン」っていかれます?

ダルビッシュ はい。僕がカブスを相手に投げた時、相手の9番バッターはピッチャーだったんですよ。バッティングが得意だったザンブラーノという選手でした。ピッチャーなのに代打で出てきてホームランを打っちゃうような選手。1番から9番までが、そんなバッターばかりでした。そういえば、2009年大会の準決勝で戦ったアメリカも、みんなホームランバッターだったので大変でしたね。

パワーだけじゃない日本とアメリカのフィジカルの違い

©Getty Images

岩本 日本球界とMLBとの違い、グラウンド上の違いもそうですし、それ以外のところも教えてください。

ダルビッシュ もう本当に、絶対的にフィジカルが違いすぎると思います。そのフィジカルのところ、内野手の送球の速さとかもそうですし、肩の強さとかもそうですし、一塁まで走る速さ、外野の選手も取れなさそうなボールを取る。日本人も取れるんですけど、背面キャッチとかで取れないんですよね。これがなかなか難しくて、日本人選手にはそういう感覚があまりないんですよ。こっちの人たちって、小さい頃からアメフトをやっているからですかね。

岩本 空間把握能力ですかね。

ダルビッシュ そう、全然違うんですよ。背面で行ってから違ったジャンプをして取るというのができちゃうんですよ。だから、見ていても華があります。そういうところがすごく違う。もちろんパワーも違いますけどね。

岩本 エンターテインメントとしても、そのようなスーパープレーが出やすい環境?

ダルビッシュ そうですね。怖がらないですね。普段の生活を見ていてもそうですけど、日本人は食事とか行っていろんな料理を頼んでも、最後の1個はほとんど残るじゃないですか。アメリカではそういうことがない。「オレが取るんだ」って決めたら、そこに壁があっても取りに行きますね。メンタル的に日本人はちょっと怖がりながら行くから、違うプレーに見えてしまいます。

池田 送球とかも全員すごく肩強いですもんね。ベイスターズでグリエルというキューバの選手を取った時も、すごかった。一塁のバルディリスが怒っているんですよ。送球が速すぎて(笑)。

ダルビッシュ 肩が強いですもんね(笑)。

池田 あんな肩ばかりですもんね。

ダルビッシュ でも、グリエルでも目立たないくらいで、オランダのシモンズは一番肩が強いんじゃないですかね。ショートの一番奥から、ピッチャーより速いんじゃないかっていう球を投げてくるので、すごいですよ。

岩本 ファーストの能力がより高くないと無理ですね。

ダルビッシュ そうですね。しかも、こっちのファーストはショートバウンドとかを取るのがうまいんですよ、また。なんでかは、わからないんですけど。

池田 こっちの外国人投手を獲得して、150キロ出ているという話だったけど、日本に行くと146キロくらいしか出ない。なんか5キロくらいはいつも落ちるんですよね。あれはなんでだと思いますか?

ダルビッシュ マウンドもあると思うんですけど、アドレナリンとかもあるのかなと思いますね。僕も昨日マイナーの試合で投げていたんですけど、音もないしファンもいないし、本当にのどかなんですよね。天気も良くて、寝るんじゃないかってくらいでした。そんな状態でスピードは出ないですよ。

岩本 やっぱり、あれじゃ出ないですよね(笑)。

ダルビッシュ マックスで97マイル(約156キロ)が出たんですけど、平均で91から93くらい(約146キロから150キロ)なんですよ。いつもはもうちょっと速い。だからみんなが、ハメルズとかもそうですが、マイナーの試合は全然スピードが出ないって言っていますね。僕はたぶん日本にいるほうが出ると思います。ああいう応援歌とかに興奮して、いけるんですよ。こっちにはそれがない。違う文化でやっている分、ちょっと違うところに来ると出なくなります。アドレナリンの部分がちょっと違うのかなと思いますね。

池田 ボールとかマウンドの問題じゃないんですね。

ダルビッシュ マウンドももちろん(日本のマウンドは)柔らかい。こっちの人は(硬いマウンド)に慣れています。足を着いたら、ガン、ガンっていう感じで投げるから、スピードが出やすいというのもあると思います。でも、アメリカから日本に行っても、逆にスピードが変わらない選手もいます。ちょっと難しいですね、そこの部分の話は……。

池田 だいたいね、選手獲得はうまくいかないことも多いし、あまり視察も繰り返さないで獲得するので、失敗するケースが多いんですよ。

ダルビッシュ 本当にそうですよ。あと、日本ってマイナーの、3Aの選手とかを取ることが多いじゃないですか。3Aって、どこもめちゃくちゃ速く投げられます。3Aで102マイル(約164キロ)を投げていましたっていう左投手で巨人にいたポレダは、日本に来たら98マイル(約158キロ)。速いんですけど、100マイル(約161キロ)は出ないんですよ。だけどマイナーだったら、101マイル(163キロ)、102マイルが出るっていう感じです。みんなもマイナーに行くと、本当に100マイルとか投げちゃいます。ちょっとスピードガンの違いもあったりするのかなと思いますね。

第1回:「いつか、日本球界に戻りたいなって思っています」第3回:「メジャーの中でもトップのピッチャーになりたい」第4回:「引退したら大学で経営を学びたい」

[プロフィール]
ダルビッシュ有
メジャーリーガー/テキサス・レンジャーズ投手
1986年8月16日、大阪府生まれ。右の本格派投手として早くから注目を集め、東北高校時代は春夏4度の甲子園出場。2年の夏には準優勝を経験している。2005年の北海道日本ハムファイターズ入団後は2年目から6季連続二桁勝利を挙げ、最優秀防御率とMVPに各2度、沢村賞に1度輝くなど球界を代表する投手となった。2012年にMLBテキサス・レンジャーズに移籍。いきなり16勝を挙げると3季連続二桁勝利をマーク。2015年は右肘の手術とリハビリに費やしたが、翌年見事に復帰して7勝を挙げると、今季は開幕からフル稼働。6月19日時点ですでに6勝を記録している。体調管理やトレーニング方法の追究、またストイックな取り組みでも知られ、SNSを駆使してその模様をファンに届け、交流している新時代のアスリート。196cmの長身から繰り出される最速150キロを超える直球と多彩な変化球は超一級品だ。


岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。