取材をすべてシャットアウトした清宮の父・克幸氏

 甲子園では高校球児たちによる熱戦が連日繰り広げられています。

 早稲田実業の清宮幸太郎選手は西東京大会の決勝で敗れて甲子園出場を逃しましたが、今年の高校野球の最大の注目選手であることに変わりありません。ドラフト会議の行われる秋にかけて、彼の進路がどうなるのか、まだまだ大きな関心を集めることになるでしょう。

 私がベイスターズの球団社長を務めていたころから、スカウト陣との会話の中で清宮選手の話題はよく出ていました。彼の場合は、ラグビー界で名を残した清宮克幸氏を父にもつという特殊性もあります。

 高校1年生だった清宮選手が甲子園に出場した2015年、私は現地で試合を視察しました。克幸氏は一般の客席ではなく、関係者用の席で試合を見ていました。普通のお父さんなら、アルプススタンドから声援を送り、記者からの質問にも答えていたかもしれませんが、克幸氏は取材をすべてシャットアウトするという方針を貫いていました。

 一部では、一人の父親として取材に対応し、野球界の盛り上がりに協力すべきではないかと批判的な見方をする人もいたようです。ただ、私はそうは思いませんでした。

 第一に、メディアにどう対応するかということは各人の自由です。ましてや克幸氏はラグビー界で生きてきた方であり、現役の指導者(ヤマハ発動機監督)という立場もあります。そして何より、主役は選手たち本人であって、親が出しゃばるものでもないと私は思います。

アマチュアの道に進むのもありなのでは?

 清宮選手の素質をどう見るか。当時のスカウトの見立ては決して楽観的なものではなかったと記憶しています。振りが大きく、実力としてはまだまだプロで通用するレベルにはないと考えられていたようです。特に、高校野球のレベルにあって一塁手であるということがネックになっていました。

 それから2年、3年と学年が上がるごとに成長し、高校通算本塁打数は歴代最多タイの107本まで伸びてきました。私はすでに野球界から離れた身であり、彼のスイングをニュース番組などで目にする程度ですが、こすった当たりが金属バットのおかげでホームランになったというケースもあるように見受けられ、スラッガーとしてはまだ粗削りなのかなと感じたりもします。

 一方で、人気や注目度といったスター性は文句なし。斎藤佑樹選手や田中将大選手、大谷翔平選手に続く、高校野球が生んだスター選手であることは間違いありません。

 そこで注目の進路として挙がっているのは3つの選択肢です。

 1つはプロ志望届を提出し、ドラフトにかかり、日本のプロ野球に進む道。
 2つ目は大学(早稲田大学)に進学する道。
 そして3つ目が、アメリカの大学に進学する道。

 あくまで私の主観ですが、即プロ野球入りの期待の声は高いものの、アマチュアの道に進むのもありなのではないかと思います。

 金属バットの恩恵を受ける高校野球ではホームランを量産できても、木製バットに持ち替えるプロでは誰しもが苦労するものです。清宮選手の体つきは高校生にしては立派ではありますが、どこかぽちゃっとして、まだまだ鍛えて絞っていくべきようにも見えます。

 また2020年の東京五輪出場を目指すという意味でも、大学進学はプラスにはたらく可能性があると思います。

 清宮選手が来年プロ入りしたとして、入団3年目の東京五輪で、並みいるプロ野球選手を押しのけて代表メンバー入りできるかというと、なかなか厳しいものがあるのではないかと思います。

侍ジャパンに「アマチュア枠」ができる可能性も

 先日、侍ジャパンの新監督に稲葉篤紀氏が就任しました。それと合わせて、GM的な役職といえる強化本部本部長に山中正竹氏が就任。山中氏はプロとアマチュアの団体を橋渡しする全日本野球協会副会長であり、アマチュア側にも一定の目配りをしたメンバー選考になる可能性を含んでいるように感じました。

 となると、「アマチュア枠」のようなものの中で、国民の期待に応える意味でも、大学生の清宮選手がそこに入る道が開けるように思います。五輪を経験するということは一つのブランディングでもあり、その後のキャリアにも生きてきますし、まずはアマチュアでよりたしかな実力をつけたうえでプロ入りするのも悪くないのではないかと思います。

 そういう意味では、昨今取りざたされているアメリカの大学入りはおもしろい選択肢なのではないでしょうか。

 ベイスターズの筒香嘉智選手も、プロ入り後にアメリカでトレーニングをしたり、ドミニカ共和国へ武者修行に行ったりしたことで刺激を受け、大きく成長しました。それと同じように、清宮選手も野球の本場へ飛び込むことで得るものは少なくないのだろうと思います。大学卒業後、即メジャーというのは厳しいにしても、メジャーのスカウト陣の前でプレーして一定の評価を得ておくことは悪いことではありません。また、アメリカの大学を経てドラフト1位で日本のプロ野球に入団することができれば、これまでにない道を切り開いたパイオニアとしての価値も付け加わります。

 これは推測に過ぎませんが、清宮選手が進路を選択するうえでは、やはり克幸氏の影響力は大きいはずです。甲子園でも出しゃばらず、控えめな姿勢に徹していた克幸氏の姿を思い起こすにつけ、周囲の期待に乗せられる形でプロ野球入りを目指すような判断は下さないのではないか。そんな気がしてなりません。

第六回に続く

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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。