12球団随一のファーム施設を誇るソフトバンクに対する問題提起

「1軍は試合が終わってすぐ食事を提供してもらえるが、2軍にいる選手はナイターが終わった後、食事をするタイミングがない。寮でコンビニ弁当を食べている姿を目にすることがあった」

日本一に輝いたソフトバンクホークスの4番で主将の内川聖一選手が14日、契約更改後の会見でこんな話をしました。自身は5000万円アップの年俸4億円プラス出来高で2年契約を交わし、キャプテンとしてチームを引っ張る内川選手の発言だけに、一部メディアでは「球団に問題提起」とセンセーショナルに報じられました。

ソフトバンクは昨春、ファームの本拠地を2つの球場のほかに室内練習場、寮とクラブハウスを備えた『HAWKSベースボールパーク筑後』に移したばかりです。12球団一充実した施設を有する球団の“内部告発”に球界では驚く声も少なくありません。

「私もこの施設にお邪魔したことがありますが、素晴らしい施設ですよ」

横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏は、ソフトバンクが有するファーム施設を絶賛した上でこう続けます。

「ソフトバンクはそれこそ育成に力を入れている球団の一つですし、施設も素晴らしい。しかし、いくら素晴らしい施設を造ってもすべてが万全になるわけでは決してありません。ベイスターズでもそうでしたが、足りない部分はどうしてもあり、今回のように内川選手のような影響力のある選手が発言するとメディアも放っておきません。それで『コンビニ弁当なんてとんでもない!』となるわけですが、これは内部告発でも何でもなくて、もう少し冷静に見た方がいいのではないですか?」

自身も球団社長として球団寮改革、選手の育成強化に取り組んだ池田氏は、2つの点で内川選手の発言の報じられ方に違和感を覚えていると言います。

プロである以上1軍と2軍の待遇差には意味も意義もある

「一つはコンビニ弁当の是非ですよね。たしかに栄養価の面でいえば、コンビニ弁当ばかりというのはよくないと思います。でも、2軍選手の環境としては1軍に劣るのは当たり前なんですよ。アメリカだってルーキーリーグ、シングルA、ダブルAはもちろんトリプルAの選手だってハンバーガーばかりになるような生活をしている選手だっています。そういう部分からもマイナーリーグからメジャーに上がろうという気持ちも強くなる。プロ野球と単純比較はできませんが、日本の各地にある独立リーグの選手たちの環境にはもっと厳しいところもあります」

この点に関しては内川選手も「1軍の方が待遇が良いのはあるべきことなのかもしれない」と断った上で、「今から出てきてもらわないといけない選手がたくさんいる」「若い時の方が基盤をつくる上では大事。その基盤をつくるために、やってあげてほしい」と発言しています。

「内川選手の言葉はものすごく理解できますよ。やっぱり日本球界はアメリカとは違うので、きちんと球団が選手を育てていかなければいけない。それは間違いないので、選手の管理やしつけなど最低限のものはきっちりやるべきだと思います。でも、ホテルや移動の手段は差別化しますよ。そうやって、1軍っていいなぁとハングリー精神を養うのです」

球団側が把握し切れていない問題はたくさんある

もう一つ、池田氏が挙げたのは、選手たちが実際に体感している現場感と球団経営者サイドの距離が遠いことです。ソフトバンクのように十分な環境を有する施設=ハードウェアを整えていても、そこで運用されているソフトウェアの部分に関して、球団側が選手の声を全部把握し、応えるのが十分ではないと言います。

「球団を問わず、社長でも経営陣、首脳陣でもいいんですが、トップが現場に行って見ているのか?ということですよね。シーズンオフの11月に若手を集めて開催されているフェニックスリーグという大会があるんですが、そこに足を運ぶ球団社長はまずいません。それこそビジネスホテルのような宿泊施設に缶詰で、毎日お弁当を食べている。そういう生活を見ているのと見ていないのとでは全然違いますよね」

球団側が把握していないことでも、選手の間では当然話題になります。池田氏によれば、選手の間では球団に関係なく待遇の話をフランクにしたりするもので、「あの球団のホテルはあそこで待遇が良い」とか「ウチはこういうところが他の球団に比べて扱いが悪い」という会話が日常的に交わされているそうです。

だからこそ球団のトップは足を運んで現場を見て、選手の意見を煙たがるのではなく、良いことはどんどん取り入れる姿勢でいなければいけないと池田氏は語ります。今回の発言は、頸椎捻挫や左手親指の骨折でファーム暮らしが長かった内川選手ならではの指摘だったといえるでしょう。

求められる選手が球団に意見を言える環境づくり

「選手と球団という立場でしっかり話ができるのが理想ですよね。ファームの施設管理の人たちはコスト削減に努めるようとしているでしょうし、何時までには寮で働く人を帰さなくては、というのも現場の努力ともいえるでしょう。トップがすべてを把握していて、『ここにはコストをかけよう』と方針を打ち出せば、すぐに改善できる部分も多いと思います」

池田氏が球団社長を務めていたベイスターズの寮には名物の「いつでも食べられるカレー」が常設されていたことは以前のコラムでも触れましたが、ソフトバンクでも同じようなケアを取り入れることは難しいことではないと池田氏は言います。

「もしかしたらすでにいろいろな工夫がされているんじゃないですかね。あれだけ大きな施設を造っているわけですから、夜食を用意するコストをケチるという話じゃないと思います」

事実、ソフトバンクでは今季シーズン途中で、1軍選手への食事提供を独身者限定から希望者全員へ、弁当から定食へと内容を変更し、環境改善を図っています。

「メディアの前で話をしなくても球団が変えることはもちろん、選手が意見することでどんどん変わっていくのが健全な姿ですよね。しかし、残念ながら日本にはそういう文化が根付いていません。また日本では、メディアが選手の発話を大きく扱います。契約更改でこういうことを言ったら年俸に影響があるとか。選手が忖度してしまっていることも多いように感じます」

実は今回の内川選手の発言は、会見の場でメディアに向けて発せられたわけではなく、契約更改での球団との折衝の中身として報道陣に公開されたものでした。この要望に球団側は「考えなければいけないことだ」と返答したそうです。問題の部分だけが大きく報じられたことで、「メディアを介した告発」と受け取られてしまった感もある今回の発言ですが、選手と球団、当事者同士の気兼ねない話し合いで解決することが、本来のあるべき姿なのかもしれません。

<了>

取材協力:文化放送

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