[対談・前編]経営人材の公募を始めたBリーグ、求める人材像とは? Bリーグ・大河チェアマン×ビズリーチ・南社長 対談

2016年、長きにわたりNBLとbjリーグという2つのリーグの併存していた日本バスケットボール界が待ち望んだ新プロリーグ、「B.LEAGUE(Bリーグ)」が開幕した。開幕戦では全面LEDコートの演出を実施し、試合情報の入手からチケット購入までをスマホで手軽に利用できる仕組みを導入するなど、1年目から“攻めの姿勢”を見せてきた彼らが次に打つ手、それが、広報部長およびマーケティング部長の公募だ。 なぜ今、経営人材を公募するのか。その背景にある想いを、Bリーグの大河正明チェアマンと、今回の公募を実施する即戦力人材向け転職サイト「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチ代表取締役社長、南壮一郎氏が語り尽くした。そこには、人材公募にとどまらない、Bリーグが掲げる壮大な夢があった――。(インタビュー・構成=野口学 写真=荒川祐史)

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居酒屋でやる友達4人の飲み会を、どうすればアリーナでやってもらえるか

――バスケットボールという競技、Bリーグの可能性をどのように考えておられますか?

大河正明(以下、大河) 日本のスポーツを考えたとき、プロ野球はだいたい4月から10月にリーグ戦を開催していて、年間約2500万人が球場に見に行きます。Jリーグもだいたい同じ時期に開催して、年間約1000万人。

 バスケはほぼその逆、秋から春のシーズンにリーグ戦をやっていて、入場者数は今のところ、プロ野球の10分の1ほどです(年間約226万人)。この時期、フィギュアやスキーなどのウィンタースポーツの大会はありますが、リーグ戦のように同じ場所で定常的に行われているわけではないですよね。そう考えると、バスケやバレー、ラグビーといったウィンターシーズンにやるスポーツには、プロ野球とJリーグを合わせた約3500万人が見に来る素地があるんじゃないかと思っています。

南壮一郎(以下、南) 確かにそうですよね。その発想はありませんでした。その方々は冬に何をして過ごしているのでしょうね。

大河 例えば、仙台の楽天イーグルスの試合を見に行っていた人たちが、プロ野球のシーズンが終わった後、地元が大好きだからという理由で、次はバスケの仙台89ERSを見に行こう、と。それで楽天の試合を見に行けなくなるわけでもありませんし、そうなる可能性は十分にあると思っています。

南 バスケのライバルは、野球なのか、サッカーなのか……。楽天イーグルスで働いていたころ(※)にも、実はプロ野球の最大のライバルは、サッカーや他のプロスポーツではなくて、平日夜は居酒屋やカラオケ店、そして週末はテーマパークだったりするのではないかと、球団の仲間たちと話していました。また、人々の余暇の時間を奪い合うという観点からすると、実は一番の脅威がインターネットなのではないかと思ったりもします。余暇の時間の使い方や価値観が多様化している時代にあって、どうすれば他の娯楽と勝負できるのか。娯楽に使えるお金は決まっているわけですから、どうすれば居酒屋の飲み会を、アリーナでやってもらえるのか。

 居酒屋での飲み会と野球観戦を比較してみると、一つの大きな違いは、席が全て横並びであったことでした。つまり、横並びの席は、一緒に行った友達同士、また家族同士で話しにくいですよね。当時、上司だった小澤さん(現・ヤフー株式会社執行役員コマースグループショッピングカンパニー長)とアメリカへ出張に行った際、いくつかマイナーリーグのスタジアムを訪問したのですが、外野でバーベキューしながら、ピクニックベンチみたいなものに座って観戦できるようになっていました。今でも覚えていますが、小澤さんがその光景を大変面白がって見ていて、翌年には、ボックスシートという3人座れるベンチシートとその前にテーブルを挟んでクルクル回せる2つの席が導入されました。試合中でも、フィールドに背中を向け、友達と向き合って話ができる、一緒にビールを飲めるようになる。発売当初からその席はどの席よりも売れました。ちなみに、その後、ジュビロ磐田のアドバイザーを務めていたときにも、楽天イーグルスでのアイデアをそのままお借りして、もともと稼働率が低かった座席をそっくりそのまま楽天式のボックスシートに変えたところ、稼働率が大幅に上がったということがありました。
(※南氏は楽天イーグルスの創設、および球団運営に携わっていた)

大河 そういう発想ですよね。スポーツを見に行っているのか、それとも友達と一緒にビールを飲みに来ているのか、どちらが主目的なのかわからない。それがいいんだと思います。

南 各リーグやクラブは、他のリーグやクラブの成功事例を貪欲に真似すべきだと思いますし、キャパシティのある空間を埋めなくてはいけない他業界での成功事例も、もっと検討して柔軟に取り入れるべきだと思います。それは一般的なビジネスの世界では当たり前のように行われていることなので、スポーツももっとビジネス感覚で捉えていけば成長の余地が大きいことを、今回の公募を通じて伝えることができればと思っています。

(C)Getty Images

地域密着を掲げ、裾野を広げていくことが大事

――Jリーグは創設当初から地域密着を掲げ、今や日本中にサッカーが根付いています。Bリーグでもやはり地域密着を掲げられていますね。

大河 そうですね。地域に根差したスポーツクラブをつくろうというのは、Bリーグ創設に尽力された川淵(三郎)さんが目指していたものでもありますし、僕らの経営理念でもありますから、これからも継続してやっていきたいと考えています。

――野球やサッカーのスタジアムをつくるのは建設費用の問題からも簡単ではありませんが、こだわりさえしなければ体育館はどこにでもありますし、チームの運営規模も比較的小さくて済むことを考えると、多くの自治体にとってプロスポーツチームを持つチャンスが広がったように思います。

大河 Bリーグとしてはアリーナにこだわっているんですが、保有する選手数が少なくて済むというのは、経営的には大きな要素だといえるでしょうね。プロスポーツ経営において選手人件費は最もお金のかかる項目で、野球は70人、サッカーは30人ぐらいのところ、バスケは12人ほど。それで年間リーグ戦60試合を戦います。同じスポーツとはいえ、こうした事業構造の違いがあります。こうしたことからも、アリーナビジネス、ローカルコンテンツとしての可能性を感じています。

――裾野が広がっていく可能性は十分にあると。

大河 そうですね。当然、全てのクラブがB1に在籍するというのは無理ですが、B2でも、あるいは働きながらプレーするような形でチャレンジするチームがあってもいいでしょう。そこはサッカーと一緒で、J3やJFLでプレーしていても、選手自身はJ2、J1へと移籍する可能性はありますよね。一時は経営危機に瀕した大分トリニータには、清武(弘嗣)選手、金崎(夢生)選手、西川(周作)選手といった日本代表選手がプレーしていました。もし大分にクラブが無ければ、こうした選手も生まれてこなかったかもしれません。裾野が広がっていくということは、日本のスポーツの発展において非常に大事なことだといえるでしょうね。

(C)荒川祐史

アリーナとは街づくりそのもの

――今後のBリーグの中長期的な目標をお教えください。

大河 クラブ間に経済格差が生まれることは仕方のないことだと考えています。競争原理を生み出していくことがリーグ全体の発展のために必要なことだと考えていますし、護送船団方式には限界がある。むしろ、リーグが発展していくなかでトップクラブだけを集め、B1の上にスーパーリーグをつくるという構造もあっていいと思っていますが、それはまだまだ先の話でしょうね。

 近いところとしては、もっと海外のチームと試合する機会を増やしていきたいですね。日本代表はもちろんですが、クラブレベルでもそうした機会を増やしていくことで、日本の競技レベルを上げていきたいと考えています。それと同時に、やはりアリーナスポーツとしての価値を十分に生かしていくには体育館では限界がありますから、アメリカやヨーロッパのような1万人、2万人を収容できるアリーナを国内20カ所ぐらいにつくっていきたいですね。バスケだけではなく、コンサートやいろいろなイベント、あるいは災害対策の拠点としても使えるような。そういった世界を10年、20年で目指していこうと、日々努力してやっています。

――今年の9月、茨城ロボッツが運営主体となっている「まちなか・スポーツ・にぎわい広場(M-SPO)」という施設が、水戸の中心街にオープンしました。ホームアリーナではありませんが、ロボッツの選手が練習として使用したり、ユースチームの活動拠点、バスケスクールとして使用するアリーナだけではなく、スタジオやカフェ、広場が併設されていて、ある意味ではBリーグの目指している姿を具現化しているようにも感じます。

大河 あれはロボッツの共同オーナーとなったグロービスの堀義人さんが関わった案件ですね。先ほどお話したように、バスケは比較的、運営規模が小さく、起業家やベンチャーの方がオーナーとして参画しやすいスポーツでもあると思います。あの場所はもともと空き地だったようで、水戸が発展していくうえで中心街がこれではいけない、人が集まってくる賑わいのある場所をつくりたい、ということから始まったようです。バスケをやっているのか、スクールやチアダンスをやっているのか、カフェをやっているのか、何が主目的なのかわからない。それが一番いいんだと思います。こうしたユニークな発想が、Bリーグをもっともっと発展させていけるのかなと思いますね。

――人が集まる場所をつくることが大事だということですね。

大河 アリーナというのは、街づくりそのものです。アリーナを中心にどのようにして人が集まるのか。そこには“民”のニーズはもちろん、いざというときの災害対策拠点にすることも考えれば“官”のニーズもある。現状、官と民の二者択一のようになっていますが、両者をうまく組み合わせたようなものだってできるのではないかと思います。

――ビズリーチとしては、どのようにしてBリーグの発展を支えていきたいとお考えでしょうか?

南 私たちが掲げている「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」という企業理念のもと、スポーツ産業の在り方、Bリーグの在り方というものを、採用を通じて後方支援していきます。今後、日本の社会と経済が発展していくためには、個々人が人生における適切なキャリアを、選択肢と可能性の中から主体的に決めるということ、「これがやりたいからやるんだ」という能動性が必要だと思っています。その一つのきっかけとして、例えば子どものころからバスケをやっていて昔は好きだったとか、あるいはBリーグのあるチームを応援しているとか、そういったことから今回の取り組みを知って、「今度は仕事でもバスケのために頑張ってみようかな」と感じてもらうことで、多くの人の人生に影響を与えるようなことができればと、私たちも大きなやりがいを感じています。

(C)荒川祐史

スポーツを“文化”にするために……

――南さんは以前ある講演で、「いつかスポーツ界に戻る」と宣言していましたが……。

南 そうですね(笑)。大河チェアマンがいつも言っていることで、私もずっと思っていることですが、スポーツって“文化”なんですよね。これまで何度も言ってきたように、スポーツにはビジネス的な要素がとても大事だと思っていますし、日本のスポーツ界は今、体育からスポーツエンターテインメント、スポーツビジネスに変わっていく岐路に立たされていると感じています。そんななかで、“文化”って何なのかと。どの国、どの時代を見ても、文化と呼ばれるものは応援する方々がいて成り立ってきました。それは、アートだろうが、スポーツだろうが同じ。先ほどお話に出ていた堀さんがまさにそうで、水戸市のために、バスケのためにやっていることは一つの社会貢献だと思うんですよね。これからの時代の一流のビジネスマンというのは、自分の時間や資産の一部を社会に返していくということが大事になると思っています。

 私がいつかスポーツ界に戻るときは、今、自分自身が携わっているビジネスをしっかりと成功に導いて、そのうえで自分自身だけでなく周りの方々も巻き込んで、何らかの形で戻っていきたいなと。子どものころに親の仕事の都合で海外の学校に転校もしたのですが、それでも僕にはスポーツがあった、スポーツに育ててもらった。キャリアに関しても、楽天イーグルスやジュビロ磐田に携わることで多様な価値観と視点を育んでもらった。その恩返しをするために、自分のキャリアの集大成として、いつか必ずスポーツ界に戻りたいと思っています。ここまで言ってしまったからには、有言実行しないとカッコ悪いですよね(笑)。

大河 何が面白いかですよね。ぜひ南社長には、FIFA(国際サッカー連盟)とかFIBA(国際バスケットボール連盟)といった国際スポーツ組織の事務総長なんかを目指してほしいですね。国際組織の中心に日本人があまりいないですから。

南 Jリーグの村井(満)チェアマンもそうですし、ビジネスの第一線で活躍されてきた方々がスポーツ界に来て、文化づくりをしていくのが理想的な形だと思いますね。スポーツはただお金を稼げばいいものではないので。半分ビジネス、半分文化で。

大河 文化という話でいうと、地方に行っても立派な音楽ホールやミュージアムがありますよね。そうした施設を建てたからといって、税金の無駄遣いとはいわれません。それは自分たちの街の文化だと感じてもらえているから。でもそれがアリーナとなると、話は変わってきます。建設や維持管理にかかるコストを最適化し、収益性を向上させ、サステナブルなアリーナにすることで、住民の方にとっても愛される地域のシンボルになっていかないと、文化になっていかないのかなと。

 僕は子どものころからスポーツを見るのが大好きでしたし、中学3年生のときにバスケの全国大会に出場したときのことは、今でも鮮明に覚えています。僕なんかよりももっともっと素晴らしい選手がたくさんいました。そういった人たちが、スポーツ選手になることが社会的なステータスが高い。そんな社会、そんな文化にしていきたいと思っています。その一つの象徴として、スポーツに携わる人たちの地位を上げていき、十分な報酬をもらえるようにしていきたい。Bリーグがその旗印になりたいというのが、僕の想いですね。


経営人材公募の背景にある「スポーツ界全体を変革したい」という想い。2年目を迎えたBリーグは、これからどのような姿を見せ、発展していくのだろうか。彼らの挑戦は始まったばかりだ。

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<了>


[PROFILE]
大河正明(おおかわ・まさあき)
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 理事長
1958年生まれ、京都府出身。中学でバスケットボールを始め全中4位。京都大学卒。81年三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。95年日本プロサッカーリーグ出向、総務部長。鎌倉・町田等の支店長を経て、2010年退行。同年日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に入局し、12年に理事、14年に常務理事就任。15年日本バスケットボール協会専務理事、事務総長(現任は副会長)、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事長。

南壮一郎(みなみ・そういちろう)
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
1976年生まれ。99年米タフツ大学を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に従事。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーに。チーム運営や各事業の立ち上げをサポートした後、GM補佐、ファン・エンターテイメント部長、パ・リーグ共同事業会社設立担当などを歴任。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年に即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」(https://www.bizreach.jp/)を開設。現在は戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」(https://hrmos.co/)や求人検索エンジン「スタンバイ」(https://jp.stanby.com/)なども展開し、インターネットの力で、日本の雇用流動化と生産性向上の支援に取り組む。

[対談・前編]経営人材の公募を始めたBリーグ、求める人材像とは? Bリーグ・大河チェアマン×ビズリーチ・南社長 対談

2016年、長きにわたりNBLとbjリーグという2つのリーグの併存していた日本バスケットボール界が待ち望んだ新プロリーグ、「B.LEAGUE(Bリーグ)」が開幕した。開幕戦では全面LEDコートの演出を実施し、試合情報の入手からチケット購入までをスマホで手軽に利用できる仕組みを導入するなど、1年目から“攻めの姿勢”を見せてきた彼らが次に打つ手、それが、広報部長およびマーケティング部長の公募だ。 なぜ今、経営人材を公募するのか。その背景にある想いを、Bリーグの大河正明チェアマンと、今回の公募を実施する即戦力人材向け転職サイト「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチ代表取締役社長、南壮一郎氏が語り尽くした。そこには、人材公募にとどまらない、Bリーグが掲げる壮大な夢があった――。(インタビュー・構成=野口学 写真=荒川祐史)

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スポーツ好きではなく、真のビジネスパーソンを。ビズリーチ・南社長が語る人材育成

さる7月5日、『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』(東邦出版)の出版を記念し、同書に登場するスポーツビジネスのキーマンが出演するイベントが行なわれた。モデレータとなったのは、UEFAチャンピオンズリーグに携わる初のアジア人として知られる岡部恭英氏。この記事では、04年、楽天イーグルスの立ち上げに関わり即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」 (http://bizreach.jp)や求人検索エンジン「スタンバイ」(http://jp.stanby.com)などを運営する株式会社ビズリーチの代表取締役南壮一郎氏代表取締役社長・南壮一郎氏のパートをほぼ全文お届けする。火の出るような、ほとばしる情熱を感じる圧倒的な熱量。テキストからでも、その熱さを体感いただきたい。

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「世界観」の演出で観客を惹き付ける 千葉ジェッツが示すBリーグの可能性バスケを“文化”にできるか。Bリーグの現状と課題Jはアメリカに倣って空席を埋める努力を!

野口学

約10年にわたり経営コンサルティング業界に従事した後、スポーツの世界へ。月刊サッカーマガジンZONE編集者を経て、現在は主にスポーツビジネスの取材・執筆・編集を手掛ける。「スポーツの持つチカラでより多くの人がより幸せになれる世の中に」を理念とし、スポーツの“価値”を高めるため、ライター/編集者の枠にとらわれずに活動中。書籍『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』(東邦出版)構成。元『VICTORY』編集者。