リーグ優勝候補「以上」の輝きを放つ千葉ジェッツふなばし
今年のB1は開幕から混戦で、各クラブが4試合を終えた時点で全勝が消えている。優勝候補を一つに絞るのは難しく、チャンピオンシップまでには多くの「予想外」が起こるはずだ。ただ千葉ジェッツは単なる優勝候補という「以上」の存在感を見せている。船橋アリーナに足を運べばコートの内外から彼らの強みを発見できるだろう。
千葉はここまで3勝1敗。14日、15日には昨季のBリーグ王者・栃木との対戦を控えている。昨季はジェッツにとって躍進の1年で、1月のオールジャパン(天皇杯)は栃木、シーホース三河、川崎ブレイブサンダースを連破して初優勝。40年以上に渡って実業団系チームが独占していたタイトルを、市民クラブのジェッツが奪ってみせた。
「ネクストスター」富樫勇樹が引っ張る
©CHIBA JETS FUNABASHI/Take-1Bリーグが初年度を迎えるにあたって「ネクスト田臥は誰か」というのは一つの注目点だった。ジェッツの富樫勇樹は167センチのポイントガードだが、昨季はチームの躍進とともに彼自身もブレイク。11月から始まるワールドカップアジア予選でも、代表の主力として大きな期待を受けている。
ピック&ロールと呼ばれるオフェンスは現代バスケの「超基本形」だが、富樫はインサイドの選手が近づいてかける「ピック」のスクリーンを利用して、得点につなげるプレーが抜群に上手い。距離を空けると3ポイントシュートを打ち、不意に近づくとドリブルで抜く。二人で寄るとフリーの選手にパスを出す--。富樫はそうやって相手を「ジレンマ」に追い込める選手だ。
ジェッツには「速攻」「スリーポイントシュート」といった昨季からの強みもある。外国籍選手は2名入れ替わったが、チームのスタイルに合わせて選手を選んだ。ギャビン・エドワーズはシーホース三河からの移籍で、206センチ・110キロという体格はセンターとしては小柄。トニー・ガフニーも203センチ・97キロとインサイドプレイヤーにしては細身だ。しかしこの二人はよく走れて、跳べる選手。特にエドワーズは速攻からのダンクで場内を沸かせられる「絵になる」選手で、自らが打たなくても富樫や小野龍猛が3ポイントを打ちやすいような中からのラストパスも出せる。
「世界観」を作り出す仕掛けに溢れた船橋アリーナ
©CHIBA JETS FUNABASHI/Take-18日に京都ハンナリーズ戦の取材で船橋アリーナを訪れたが、そこでちょっとした変化に気づいた。どのクラブもフロアの入口には案内、チケット確認の係員を配置している。そういう係員は一般客と区別がつくウエアを着ていて、例えばシミズオクトの青いジャンパーはサッカーや野球でもよく見かける。ジェッツはクルーがカフェ店員のようにシックな黒いシャツを着用していた。
普通のクラブならコートサイドに控える「清掃係」に過ぎないモッパーも、ジェッツではキャラが立っている。「高速モッパーガールズ(KMG)」というユニット名を与えられ、今季からは赤いつなぎの上下を着るようになった。
ジェッツの島田慎二代表はエンターテイメント性、ホスピタリティに対するこだわりが強い。過去の取材で何度か「世界観」という他のスポーツクラブ経営者が使わない表現を口にしていた。ゲームやフィクションの世界においてはよく使われる概念で、全体の調和を作り「冷め」を避けるためのコンセプトというくらいの意味だろう。
バスケットの試合はノンフィクションだが、観客の満足度を高める要素は試合に限らない。コート外に来場者を魅了する、陶酔させる「仕掛け」が用意されていていい。熱が高まっていないのに強力な音響や光で煽ることは逆に「冷め」を誘う手法だが、「平熱」が高いジェッツはそういう無理をする必要が無い。ジェッツのホーム戦からは「アリーナ全体をコーディネートする」意識が見て取れた。
かつて在籍した岡田優介も驚く古巣の進化
ジェッツのスタッフは「バスケ以外」からも学んでいる。慰労を兼ねた社員による研修旅行は、ディズニーランドに足を運んでいた。目に入るもの、音、コミュニケーションといった様々な要素から「居心地の良さ」は生まれる。もちろん主役の選手たちが着るユニフォームは大切だし、マスコットの魅力もアリーナの良いアクセントになる。加えてジェッツはアルバイトスタッフやモッパーまで隙がない。
ジェッツは今季からコートに映像を映し出す「プロジェクションマッピング」を導入している。選手入場でもスモーク、BGMをバックに階段から降りてくるK-1やPRIDEのような演出を取り入れた。そういった「イケイケ」の部分だけでなく、今季は専門のスタッフを配置した託児室を設置するなど、きめ細やかなサービスも開始している。
15-16シーズンは千葉に在籍し、現在は京都でプレーする岡田優介にとっては初の「古巣戦」だった。彼にアリーナの変化について尋ねると、「演出面も含めて非常にパワーアップしていて、流石だなと思いました」という答えが返ってきた。
バイスチェアマンに就任した島田代表が描く未来図は?
ジェッツは2016-17シーズンにBリーグでも断トツの1試合平均4,501名という観客数を記録した。栃木ブレックスや琉球ゴールデンキングスの新アリーナができれば「断トツ」とはいかなくなるだろう。ただ千葉は一歩先に動き出している。開幕節の2試合も合計1万人を超える観客が来場し、集客面では好スタートを切った。
昨季のジェッツは9億円を越す収入を挙げているが、現状に満足せず、攻めの投資を続けている。Bリーグの中で、おそらくもっとも「興行原価」をかけているクラブだろう。もちろん「お金を使えばいい」という話でなく、しっかりと狙いを持った演出、観客へのサービスができている。
ジェッツはBリーグのみならずスポーツエンターテイメント界のお手本となる要素をいくつも秘めている。島田代表は「島田塾」を通して他クラブ、特にB2の経営者にノウハウを伝授する取り組みを行い、この秋からはBリーグのNO2に相当するバイスチェアマン(副理事長)も兼務している。そういった試みがどう実を結ぶかも含めて、今後が楽しみだ。
旧NBLチームによるリーグ支配を認めない琉球、優勝を目指す「大勝負」に
bjリーグで4度の優勝を誇る琉球ゴールデンキングスは、大企業のサポートを受ける旧NBL勢とも十分に戦える、B.LEAGUEでも優勝を狙えると意気込んでいた。しかし、初年度は勝率5割を切る屈辱の結果に。旧NBLと旧bjリーグの間には歴然たる実力差があった。これを黙認して、安定中位のクラブに甘んじることも可能だったが、琉球は1年目のオフに「大勝負」に出る。日本代表のレギュラー2名を始めとする大型補強を実施。「沖縄色」というクラブのアイデンティティを曲げてでも、日本バスケ界の頂点に立つ強烈な意欲を見せている。B.LEAGUE2年目、琉球の戦いに注目だ。
2年目のBリーグ開幕 主力流出の初代王者・栃木で田臥勇太にかかる大きな期待
Bリーグ初代王者に輝いた栃木ブレックスだが、2シーズン目は厳しい戦いが予想されている。そんなチームの中で、期待を一身に集めるのがベテランの田臥勇太だ。日本バスケットボール界の顔である男の変わらない姿は、何よりもチームに自信を与える。
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