かねてから評価されてきた才能 過去にはスペインリーグも経験

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12月13日、タイの大手スポーツメディアのサイアムスポーツが、タイリーグの強豪ムアントンユナイテッドに所属するタイ代表FWティーラシンに対して、Jリーグのサンフレッチェ広島が正式に獲得のオファーを出したことをウェブサイト上で報じた。記事によると詳細はティーラシンを交えて話し合うとのことだが、チームを訪れた広島側の幹部とムアントンの幹部が並んだ写真をわざわざ掲載するという熱の入れようだった。

ティーラシンは1988年6月6日生まれの現在29歳。今年はAFCチャンピオンズリーグでJリーグ勢とも対戦しており、記憶に残っている日本のサポーターもいるだろう。グループステージのアウェーでの鹿島アントラーズ戦では、前半終了間際に鹿島DFをかわして強烈な右足の同点ゴールを叩き込んだ。ベスト16に進出したホームでの川崎フロンターレ戦でも、鋭く右足を振り抜いて先制ゴールを奪い、アウェーの試合でも高い打点のヘディングゴールを決めている。

それらが表すように、正確な足元のテクニックに加え、181cmの身長と抜群のボディーバランスを活かしたヘディングの強さを誇り、ポストプレーも得意。スピードも併せ持った万能型のストライカーとしてタイで長く活躍し、今年に入って1部リーグ通算100ゴールを突破、同リーグのタイ人最多得点記録保持者になっている。

才能は早くから評価され、17歳の時に2部リーグでプロデビュー。3部のラチャプラチャFCを経て、2007年にやはり当時3部だったムアントンユナイテッドに加入した。同年にはタクシン・チナワット元タイ首相が買収したイングランド・プレミアリーグのマンチェスターシティーにタイ人選手2人と共に加わるも、労働許可証の問題からスイスのグラスホッパーにレンタルに出され、復帰後にオーナーが代わるとタイに帰国することになった。

2009年からは一部に昇格したムアントンで再びプレーし、ゴールを量産して数々のタイトル獲得に貢献。2012年にはリーグ戦で24ゴールをあげ得点王とMVPに輝いている。日本を含め海外移籍の噂は常につきまとった。そして2014年、ついにスペインのリーガ・エスパニューラのUDアルメリア(当時1部)にリーガ初のタイ人プレイヤーとして1年間のレンタル移籍が実現した。

アルメリアではリーグ開幕戦に途中出場するなど、序盤はコンスタントに起用され、スペイン国王杯ではレアル・ベティス相手にスペイン初ゴールも決めた。裏に抜け出してGKとの一対一を決めたシーンを振り返ってティーラシンは後に「人生で一番緊張した。浮かした方が良いのか、外したらどうしよう、股を抜いた方が良いのか、スペインのGKは…など色んなことを考えたけど、最後は普通に打った」とメディアに語っている。

ただ、チームは低迷。監督交代もあって出場機会を失っていき、半年のレンタル期間を残して古巣ムアントンに戻っている。その後、調子を一時崩すも再びチームの主力として活躍を続け、昨年には2020年までの4年契約を更新。オプション含め総額1億バーツにも及ぶ大型契約だったと伝えられている。代表キャップは91試合で42ゴール。名実共に現在のタイを代表する選手だ。

チャナティップは「シャツを交換したい」 タイでの論調は移籍間違いなし 

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ティーラシンを巡っては今年、水面下で川崎や鹿島なども関心を示したとされるが、現実にオファーに至ったのは広島だけと見られている。チームからの公式発表が待たれるが、移籍の形態はともかく、タイ国内ではJリーグ入りはほぼ決定的という論調だ。

まず広島のオファーを報じたサイアムスポーツは、ムアントンの親会社的な位置付けにあたり、サイアムスポーツの社長がムアントンのトップを兼任している。そのサイアムスポーツが広島側幹部も交えた写真も掲載するとなれば、その時点で両チームの順調な交渉が伺える。

さらにサイアムスポーツは広島のオファー記事を掲載した同じ日、“ティーラシンがスタメンに割って入る見込みは”といった切り口でネイサン・バーンズやパトリック、アンデルソン・ロペス、皆川佑介ら広島FW陣の2017年の得点数などをまとめた記事をすぐさまアップ。続けて、“ティーラシンの新チーム”として広島のチーム紹介記事を載せ、過去の優勝経験や今年の不調、得点力不足、さらにはマツダや広島の気候、タイサポーターの広島への行き方にも触れている。既に日本へ送り出す気は満々といえる。

翌日には、オフでタイに帰国している元チームメイトのチャナティップがティーラシンの移籍について「少し前から知っていました。同じリーグでプレーできるのはうれしい。機会があれば、ぜひユニフォームを交換したい」と地元メディアの取材に答え、同じくタイサッカー協会のソムヨット・プンパンムアン会長は「日本での経験を必ず代表でのプレーに生かしてくれるはず」と期待を表明。タイ代表のミロヴァン・ライェバツ監督も「彼の能力は良く分かっている。とても良いニュースだ」と移籍を歓迎している。

つい先日も、タイでJリーグを放送している有料放送トゥルービジョン傘下の地上デジタルチャンネルで、今年、札幌の試合を多数放送したトゥルー4Uの関係者が「今年、Jリーグ中継はトゥルー4Uのスポーツ中継でもトップ5に入る視聴率だった。来年は放送カードが増えるかもしれない」と意味深長に語っていた。余談だが一番視聴率が高かったのは、チャナティップ移籍後リーグ初戦の札幌対浦和レッズの試合だったという。ともあれ、もはや移籍は既成事実の感がある。

チャナティップが“ジェイ”と呼ばれるように、ティーラシンのニックネームは“ムイ”。プライベートでは、家族は妻と息子が一人。ちなみに父親も元サッカー選手で、妹はサッカーの女子タイ代表の選手だ。タイ人記者たちに聞いたティーラシン評は「もの静か」「記者とはあまり話さない」「自分の世界を持っている」といったもの。どちらかといえば内向的な人物で、チームのいじられキャラとして可愛がられ、積極的に周囲と溶け込むタイプだったチャナティップとは異なる性格の持ち主といえる。

サッカー選手としての能力は申し分ない。あとは城福浩新監督のもとで、いかに自分の持ち味を発揮して、チームにフィットできるかどうかが鍵を握りそうだ。スペインでは言葉の壁もあったとされる。広島でチームメイトらとうまく溶け込めることが出来れば、活躍の可能性は高まる。オファー報道後、まだ本人のコメントはないが、「海外挑戦は年齢的におそらく最後のチャンス。本人も自分の力を証明するため意気込んでいるはず」とは、タイ人記者の言葉だ。稀代のFWが日本でも輝きを放つことが出来るのか、来季、要注目だ。

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長沢正博

ライター、編集者。バンコク在住。1981年、東京生まれ。大学時代に毎日新聞で学生記者を経験し、卒業後、ウェブ制作会社勤務などを経て、ライター業に従事。 2012年からタイに移り、現地の日本語情報誌の編集に携わってタイのビジネスシーンなどを取材する傍ら、タイのサッカーを追い、日本のウェブサイトなどにタイの サッカー情報を寄稿する。中学、高校時代のポジションはGK。