■リーズナブルに1日楽しめる当日自由席券

 昨年末の暴行事件発覚を機に、スキャンダラスな報道が続く大相撲。その中で行なわれた両国国技館での1月場所は、恒例の天覧相撲の中止(協会側が辞退)、白鵬・稀勢の里ら横綱の相次ぐ欠場などで荒れた展開になるかとも思われたが、中盤まではひとり残った横綱・鶴竜が連勝で引っ張り、最終的には1敗で追った平幕・栃ノ心が逆転優勝。ジョージア出身力士としては初の優勝とあって、フレッシュな話題を振りまいた。
 
 ところでこの1月場所、観客動員の面で一連の報道の影響を受けたかというと、実は全くそんなことはなかった。前売りチケットは昨年の発売時に完売していたが、当日券も連日完売。今場所も15日間全て「満員御礼」の垂れ幕がかかることになった。数年前から続く相撲人気は、場内の盛り上がりを見る限り、今のところ陰りはない。
 
「一度、大相撲の本場所を生で見てみたい。でもチケットは完売みたいだし、そもそもどこで買えばいいのか、いくらかかるのか分からない……」と思っている人は、今でも多いのではないだろうか? そんな方々にオススメしたいのが、「当日自由席券」を購入しての観戦だ。リーズナブルな値段で1日楽しむことができるこの観戦方法を詳しくご紹介しよう。

■唯一のネックは「朝の早さ」だけ。

 両国国技館では1・5・9月の3場所が開催されるが、前売り券が完売していても、当日券は必ず発売される。というのも、2階イス席の最後列400席(4面×100席)分が当日自由席として確保されているからだ。それ以外に、もしマス席、イス指定席が残っていれば、それも当日券として発売される。
  
 当日自由席券の価格は2200円(税込)。2階最後列と言っても国技館自体が見やすい作りになっているので、「力士が豆粒にしか見えない」なんてことはない。そして驚くべきは、子供(15歳以下)料金がたったの200円ということだ。大人と同じように1席が確保できてこの価格というのは、親子連れにはうれしい。
  
 ただし、この当日券が発売されるのは朝7時45分と、かなり早朝。通常、国技館正面には朝早くから当日券を求めるお客さんの行列ができる。列が多くなると整理券が配布され、列を離れることができるようにはなるが、この整理券は1人1枚。整理券1枚につきチケット1枚しか購入できないので、グループ観戦の場合は列に並ぶ時点で全員集合する必要がある。初日・千秋楽を含む土日は徹夜組が出る時もあり、かなり早い時間から並ばなければならない。最近は、週末など早い時だと発売時間前、平日など遅い時でも午前10時前後に当日券が完売することが多く、「朝早い」ことが、この観戦方法の唯一のネックではある。
 
 ちなみに筆者はこの1月場所、10日目の1月23日(火曜日)に当日券観戦したが、この日は前日から関東一円で大雪が降った日。幸い電車は朝から通常運行していたがさすがに出足は鈍かったようで、朝7時に列に並び、7時半にもらった整理券の番号は36番。相撲協会のツイッター公式アカウントで「当日券完売」のアナウンスが出たのが午後3時頃だったが、これは異例中の異例。「もしかして今日は完売しないのでは?」と思ったほどだったが、逆に言えばこんな条件の日でも完売するのだから、やはり人気は根強いということだ。

■「青田買い」「四股名当て」「決まり手当て」のススメ

 さて、早起きと早朝行動の関門を乗り越えて当日券をゲットできたら、さっそく館内へ。開場は8時で、当日券組は入口で本日の取組表を受け取ると一目散に(走ってはダメだが)2階に向かい、座席を取らなければならない。見やすい正面側の中央や移動しやすい通路そばの席を確保しておきたい。ただしここでも、荷物を置いたりして1人で何人分もの座席を取るのはルール違反。
 
 取組は、だいたい8時半過ぎに開始される(初日は8時25分頃、13日目から千秋楽は10時頃に開始)。1月場所では名横綱・大鵬の孫に当たる納谷や元横綱・朝青龍の甥に当たる豊昇龍のデビューが話題になったが、彼らが出たのは新弟子検査合格者らが出場する「前相撲」(8時25分開始)。前相撲がこれだけ注目されるのは珍しいが、3日目(大阪での3月場所のみ2日目)から行われ、第1週で終わってしまうので、見たければ注意が必要だ。
 
 取組は番付の階級順に序の口、序二段、三段目、幕下……と進行される。この時点ではマス席はポツポツと人がいる程度で、淡々と取組が進んでいく。ここでは下位力士の取組も眺めつつ、館内を一度ぶらりと一周しておくきたい。「館内マップ」が無料配布されているので、ゲットしつつぶらぶら歩いてみよう。売店は10時開店なので早朝はまだ準備中だが、1回だけ再入場が可能なので、駅周辺などで朝食を取ったりしておくこともできる。
 
 もちろん、下位力士の取組も面白い。ここで筆者も個人的に楽しんでいる観戦法は、「青田買い」「四股名当て」「決まり手当て」だ。
 
「青田買い」は説明するまでもなく、有望そうな若手力士の発見。体が大きかったり、動きが鋭かったりと、「おっ!」と思わせてくれる力士がいたら、取組表で改めて四股名をチェック。後々活躍するようになったら、「ああ、彼ね。序の口の頃から見たけど、動きがよかったよ」なんて自慢したりして。

 下位の力士は本名の苗字を四股名としている場合も多いが、変わった四股名の力士もたまにいる。中には一見、どう読んでいいのか分からない四股名もあるが、取組表には読みがなが振られていないので、答えが分かるのは取組時の場内アナウンスのみ。取組表を眺めて難読四股名が目についたら同行者と読み方を予想し合って、アナウンスで答え合わせをするのもまた楽しい。
 
 ちなみに前回の観戦時に目についた難読四股名は、「富蘭志壽」「霧津羽左」「美」。それぞれどう読むか分かるだろうか? 答えは最後に。

 次々に行われる取組を眺めながら、決まり手を当てていくのもなかなか面白い。1人観戦なら1人で、同行者がいる場合は互いに言い合って、目の前の決まり手を当てていく。決まり手はすぐにアナウンスされるので、すぐに予想しなければならない。数にすると「寄り切り」が圧倒的に多いのだが、初心者にはまず「寄り切り」と「押し出し」「突き出し」の区別も難しかったりする。「叩き込み」と「突き落とし」「引き落とし」なども、慣れるまでは判別が難しい。投げもあるし、めったに出ない変わった決まり手もある。決まり手の場内アナウンスは呼出さんが行っているが、瞬時に判断して発表できるのは、実はかなり熟練された技術によるものだということが実感できるはずだ。

■充実のグッズ、相撲博物館も必見!

 下から取組を見続けていくと、番付が上がるにつれて、力士の様子が目に見えて違ってくることが分かる。やはり上の力士になるほど、体も出来上がっているし、土俵上の所作も堂々としている。そして何より、取組が力強く、激しい攻防になっていく。世間的に話題になるのは最上位の幕内、その下の十両ぐらいまでだが、下位の力士から見ていくと「上位がいかにすごいか」が改めて分かる。力士の世界は横綱を頂点とするピラミッド構造になっているが、大相撲の本場所は一日でそのピラミッドのほぼ全貌が見渡せる機会なのである。
 
 取組を見るのも忙しいが、ここらでもう一度、館内を散策してみよう。10時を過ぎると(一部を除いて)売店がオープンしており、実に様々な土産物が所狭しと並んでいる。お菓子、Tシャツ、キーホルダー、博多人形、トランプ、タオル、文房具、書籍……「こんなものまで!?」と思うようなものにも出会える。ウケ狙いなら、少々お高いが白鵬などのゴムマスク(似てる!)を。力士が髪につける鬢付け油もなかなか捨てがたい。
 
 最近、個人的にオススメなのは大相撲出身の漫画家・琴剣さんのイラスト入り各種グッズ。力士たちの特徴を掴んだ絵柄がマグネット、アクリルキーホルダーなど様々な商品に展開されており、見ているだけでも楽しい。タイミングがよければ売店に琴剣さんご本人が立っていることもある。
 
 1階ロビー脇から入れる「相撲博物館」も、ぜひ見ておきたい。入場無料で、貴重な資料が多数展示されている。期間ごとに展示テーマが変わり、現在は「明治の相撲」(2月16日まで)。モニターで明治時代の取組の映像も上映されており、非常に興味深い。この博物館は場所中以外の日も無料で観覧できる。開館日や営業時間は日本相撲協会の公式サイトでチェックだ。
 
 国技館正面のロビーや通路でも様々なファンサービスが行われている。相撲協会公認キャラ「ひよの山」と一緒に写真撮影ができたり、SNS登録によって記念品がもらえることも。本場所中に2日程度開催される「和装day」もあり、この日に着物や浴衣で観戦すると、記念品がもらえたりといった特典がある。
 
 実はこの「和装day」は貴乃花親方の考案によるもの。これも含めた各種のファンサービスは、特に2011年の八百長発覚問題で大相撲が深刻な危機を迎えた後に、様々な世代の人々にアピールし、会場に再び足を運んでもらおう、観客により楽しんでもらおう、という切実な危機感から始められたものが多い。その狙いが功を奏したこともあって、相撲人気の回復につながっているのだ。日本相撲協会広報はツイッターなどSNSの活用も積極的に進めており、着実に新しい要素を取り入れている。土俵上は変わらないが、相撲を取り巻く様々な状況は確実に時代とともに進んでいると言える。

■2200円でまる1日相撲を堪能できる

 さて、いろいろやっているとそろそろお腹が空いてくる頃だ。売店には飲食物も多数取り揃えられているが、見逃してはならないのが「焼き鳥」と「力士弁当」。相撲名物の焼き鳥は、実は国技館地下の工場で作られているというから驚く。また横綱・大関が自らプロデュースした力士弁当は、それぞれの好物や出身地の名産が入っているので、「今日は稀勢の里弁当にしよう」「今回は白鵬弁当にしようかな」と、日替わりでも楽しめる。
 
 食関係でもう一つ、押さえておきたいのは地下大広間で食べられる「ちゃんこ」。相撲部屋で力士が食べているのと同じちゃんこを、1杯300円で試食できるという催しだ。これは場所ごとに担当部屋が代わり、なおかつ5日ごとにメニューが変わる。先日、筆者が行った日は「伊勢ノ海部屋の豚肉味噌炊きちゃんこ」だった。これも期間ごとに様々な味が楽しめるので、常に人気だ。
 
 こうしてひと通り楽しんでいると、だんだんと館内のお客さんも増えてくる。2時過ぎには十両土俵入りが行われ、いよいよ上位の取組に突入だ。こうなるともう観戦に集中したいところだが、もうちょっとだけ寄り道。1階西側から館外に出ると、通路に人だかりができている。上位力士の「入り待ち」だ。横綱、大関をはじめとした上位の力士たちがここの通路を通って会場入りするので、その姿を眺め、声をかけたいというファンが並んでいるのである。目の前を着流し姿の力士たちが通るので、人気スポットになっている。
 
 2階フロアにもいくつか注目ポイントがあるので押さえておこう。まずは2階にだけある大相撲プリクラ。ここにしかない限定フレームで写真が撮れるので、記念にどうぞ。また、2階の売店「国技館カフェ」のソフトクリームも人気。最近は新商品「あまおう味」がオススメだ。
 
 さて、いよいよ土俵に目を戻さねば。3時過ぎ、十両の取組が進むあたりからマス席も埋まってきて、場内の歓声も熱を帯びてくる。誰でも知っている力士たちが次々に登場し、「これぞ大相撲!」という熱く激しい取組が次々に展開される。繰り返しになるが、朝から見ていると余計に、上位力士の強さ、巧さ、風格というものが実感できるはずだ。
 
 結びの一番が終わるのが午後6時。最後の弓取り式まできっちり見て会場を後にしても、まだまだ宵の口だ。帰宅して余韻に浸るもよし、近所のちゃんこ屋や居酒屋で感想を語り合いながら一杯やって帰るもよし。終了後に時間の余裕があるのも大相撲の大きな特徴だ。
 両国国技館の近辺には、江戸時代に勧進相撲が行われていた回向院など、相撲ゆかりのスポットも多数存在する。一時外出した際にそれらを散策してみるのも一興だろう。このように朝から当日券を購入しての大相撲観戦では、2200円という観戦料金でまる一日、実にいろいろな相撲の姿を体験できる。マス席での観戦も時間の余裕があってまた別の楽しみがあるが、これはこれで面白いので、ホントにオススメしたい次第。
 
 では最後に、文中の「難読四股名」の解答を。「富蘭志壽」は「ふらんしす」。フィリピン人力士とのこと。「霧津羽左」は「きりつばさ」。答えが分かってみると、「ああ、確かに」という感じだ。最後の「美」は「び」でも「うつくし」でもなく、「ちゅら」。沖縄県の竹富島出身と聞いて、なるほど!と。
 
 というわけで、次は大相撲の会場でお会いしましょう!
 
<了>

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著者プロフィール 高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。