当然問われるべき春日野親方の資質

日本相撲協会の評議員会に問いたい。今回の理事候補選に当選した親方全員を正式に認めるのか?

池坊保子議長は、今回の選挙でもし貴乃花親方が当選しても評議員会で認めない可能性があると解任直後に示唆していた。それほど厳しい態度を取っていた評議員会が、その後に発覚した数々の春日野親方の不祥事は不問にするのか? 問題にしないとすれば、その根拠は何か? マスメディアはしっかりと評議員会に問うべきではないだろうか。

過去に部屋で起こった傷害事件が3年間も公表されず、最近になった広く報道された。その前には、貴乃花部屋の力士たちが年末にラフな格好で繁華街を歩いていたことを口頭注意する春日野広報部長の態度がネットなどで失笑を買った。記事に添えられた写真が、いかにも弱い立場の者を恫喝する親分のような雰囲気を醸していたからだ。注意する春日野親方がポケットに手を突っ込んでいる。その写真を見た多くの読者が同様の感想を抱き、苦笑いのコメントが載った。ちょうどその前日、評議員会が貴乃花親方の解任を決議し、池坊保子議長が「礼を欠いた」という言葉で解任の根拠を語った直後だったため、「春日野広報部長の礼は?」と揶揄されたのだ。

疑問を呈する声はテレビのコメンテーターからもしばしば挙がるが、なぜかこの声は大きくならない。春日野親方を擁護する力が水面下で働いているからだろうか?
もし評議員会が春日野理事の就任を認めなければ、欠員がひとり出る。通常の選挙なら、次点の候補者が繰り上げ当選となるが、日本相撲協会の規定はどうなのだろう? 協会の定款を確認したところ、そこまでの詳しい規定は定款にはなかった。

理事会の意向で動く評議員会に最高決議機関の資格なし

貴乃花親方がダメで、春日野親方が擁護される、その理由は単純に考えて、「日本相撲協会と現執行部に忠誠を尽くしているか、いないか」の違いだ。貴乃花親方は、これだけ四面楚歌になりながら、協会からの離脱を示唆する言動や行動はない。

かつて、春秋園事件という出来事があった。1932年(昭和7年)1月、天竜を中心とする多数の関取が力士の地位向上や大日本相撲協会(当時)の体質改善を求めて大井町の中華料理店「春秋園」に立てこもり、協会を離脱して新たな協会を設立。短期間ではあったが、独自に興業を行った歴史がある。

この事件を知る相撲ファンは、貴乃花親方の協会離脱を頭の隅に思い浮かべた。しかし、孤立しながらも貴乃花親方は終始、相撲協会の改革を訴え続け、協会からの脱退は示唆していない。つまり、貴乃花親方は、日本相撲協会にはこの上ない忠誠を誓い続けていることが感じられる。ただし、現執行部に対しては明らかに疑問を呈している。一方、春日野親方は現執行部に尻尾を振り続けている。
「貴乃花親方はダメ、春日野親方はOK」の基準がその違いだけだとしたら、どう考えてもおかしい。
しかも、主に相撲協会の構成員で組織している理事会(全13人のうち10人が親方)だけならまだしも、外部の声を反映するための最高議決機関・評議員会までが同じ基準で審議しているとしたら、まったく外部委員による“お目付役”としての機能を果たしていない。

評議員会は、「現執行部に忠誠を尽くしているか」ではなく、「日本相撲協会に忠誠を尽くしているか」「相撲の現在、未来を真剣に考えているかどうか」を判断の基準にすべきであって、「現執行部に忠誠を尽くしているかどうか」が前面に出るのはおかしな話だ。
評議員会が「貴乃花親方は、協会の調査に非協力的だった」として解任を決議した理事会の提案を受けて、「理事としての報告義務を怠り、(協会の)危機管理委員会の調査への協力を拒否した。役員の忠実義務に大きく違反した」として解任を決めた。しかし、本来の評議員会の立場・役目からすれば、貴乃花親方の立場からも調査・検討を行い、「貴乃花親方が警察の捜査を優先し、協会の調査に応じない理由や背景が協会自身にあったのかどうか」を同時に調査・検討すべきではないのか? それをせず、理事会の提案を鵜呑みにして決議するなら、外部有識者過半数で構成する最高決議機関の存在意義はない。

貴乃花親方が現執行部を救っているという皮肉

ひとつ、想像してほしい。
横綱(当時)日馬富士が貴ノ岩に暴行した。頭に大怪我を負った。これが世間の知るところになり、もし貴乃花親方がこれだけ頑なな態度を取らなかったら? そして、事件を知っても隠蔽し、11月場所を何事もなかったように始め、日馬富士への注意も行おうとしなかった相撲協会の対応や体質だけが問題とされ、非難の的になっていたら?

もし貴乃花親方が積極的に相撲協会の調査に協力し、相撲協会自身が詳細にこの問題を調査し、メディアや世論の追求を受けながら逐次発表しなければならない矢面に立っていたら?
日馬富士や伊勢ヶ浜親方の処分にとどまらず、八角理事長の責任問題は減俸どころでは済まず、もっと重大なものになっていた可能性もある。

結果的に、被害者側の貴乃花親方が最も悪役のようになり、立場を失う形になった。見方を変えれば、貴乃花親方の頑なさ、自らが被害者でありながら泥をかぶるような格好になったことで、実は日本相撲協会と現体制を救った、防波堤になってはいるのではないか。

八角親方をはじめ現執行部は、貴乃花親方という仮想敵を得て、責任追求の矛先を向けられる立場から向ける立場に転じることができた。貴乃花親方がすべてを見越して自分が汚れ役を買って出たとまでは言わないが、結果的にはそうではないか。また逆の見方をすれば、もし貴乃花親方が、警察に被害届を出したうえで、粛々と相撲協会の調査にも協力していたら?と想像すると、不思議な気持ちになる。日馬富士による貴ノ岩暴行問題に関して、貴乃花親方は被害者側でこそあれ、ここまでの処分や非難を受ける立場にはまったく
ない。その意味では、協会に対する過剰な不信の表明が自らの墓穴を掘ったという指摘ももちろん否定できない。だが、もし貴乃花親方がスマートに立ち回っていたら、ここまでの相撲界の闇が世間に伝わることもなかったから、大きな意義ある問題提起だったというべきだろう。

“政治”であっても“選挙”ではない相撲協会の理事選

理事候補選挙が終わり、一門の結束が確認された。これは言い換えれば、貴乃花一門以外は、「政治活動に走った」「権力や立場の確保を目的として裏工作を必死にやった」という証である。結果を受けて、「今回の選挙で現体制が信任された」という見解がメディアで報じられているが、それはとんでもない暴論である。国民全員が投票する選挙は、たとえ「本当に国民世論の反映と言えるのか?」という疑問や論理はあるものの、「そうだ」と認めざるをえない形の中で行われている。だが、今回の理事候補選は、相撲協会の内部で行われているに過ぎない。投票したのは101人の親方で、国民世論を反映する代議員ではない。それなのに、「現執行部の体制が信任された」などとうそぶくのはとんでもない傲慢であり、論理の飛躍だ。これをそのまま報じて誤解を生じるメディアの責任も大きい。

何より、「相撲部屋に入門したい!」と熱望する日本の子どもがほとんどいない。「相撲を取った経験がない子どもが増えている」どころか、「相撲をして遊んだ経験などない」というお父さんがおそらく半数以上にもなっている日本の実情を、理事たちは知らないはずがない。それなのに、なぜ、相撲の普及を必死に考えないのか? 本場所や巡業に多くのファンがいまも詰めかける。その顔ぶれは? 多くがお年寄りではないか? 20年後もこのお年寄りは見にきてくれるのか? いまの若者や中年世代が、お年寄りになれば自然と相撲のファンになって、熱心に足を運ぶようになるのか? いま以上に外国人力士に依存する土俵になっても、ファンは相撲を愛し続けてくれるのか? そういう現実に危機感を抱く親方たちが主に貴乃花一門を構成しているのであって、他の一門とは性格が違う。

貴乃花一門は貴乃花の「派閥」ではない。危機感を持ち、行動を起こす必要を切実に感じる親方たちの集まりだ。今回、それを必死に阻止した他の一門は、一体何を原動力に貴乃花潰しに入れ込んだのか? いまの相撲界をそのまま維持するだけで、相撲の未来が明るく発展する展望が拓けるとは思えない。

評議員会にもそのことを問いかけてみたい。現執行部は、深刻な相撲の危機を認識し、必要な行動を起こしているのか?

大相撲は当日券で楽しめ! たった2,200円で相撲漬けの1日を

スキャンダラスな報道が続く大相撲の1月場所は、平幕・栃ノ心の優勝で幕を閉じました。迫力満点の相撲観戦に、一度は訪れたい人も多いのでは? 格闘技ライター・高崎計三さんがすすめるのは、「当日券」での観戦法です。どのようなものか、さっそくご覧ください。(文:高崎計三)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

貴乃花親方は「何を」明らかにしたいのか? 降格処分への疑問、相撲協会の闇

昨年末から連日メディアを賑わせる元横綱・日馬富士の暴行問題ですが、年明け4日、臨時評議員会が承認したことで、貴乃花親方の「2階級降格」処分が決定しました。賛否両論、世間を二分する今回の処分ですが、貴乃花親方は沈黙を続けたままです。黙して語らない貴乃花親方の真意は? 貴乃花親方へのインタビュー経験もある作家・スポーツライターの小林信也氏に寄稿いただきました。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

滅亡寸前の大相撲を救ったのは、「スー女」である。寄稿:星野智幸

暴行事件に端を発し横綱・日馬富士の引退につながるなど、揺れに揺れる大相撲。2007年の弟子暴行死事件、2011年の八百長問題など、角界はこれまでも大きな問題に直面してきた。その度に角界を支えてきたのが、「スー女」と呼ばれる女性ファンであることはご存知だろうか。小説家・星野智幸氏に寄稿いただいた。

VICTORY ALL SPORTS NEWS
性的虐待が蔓延するアメリカ体操界 スポーツ界はどう向き合うべきか?新日本プロレスは、史上最高の状態に。イッテンヨンで得られた確信復活した大相撲人気を支える小兵力士の魅力
小林信也

著者プロフィール 小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。