経験豊富な解説者でもソフトバンクを止める候補を挙げられない

このチームに勝てる球団などあるのか――。

宮崎で行われたソフトバンクの春季キャンプを取材して、率直にそう思った。

昨季、パ・リーグを圧倒的な力で制し、日本シリーズでもDeNAを4勝2敗で退けた福岡ソフトバンクホークス。V2を目指す今季も、チーム陣容を見る限り付け入る隙は見当たらない。

毎年、オフシーズンになると複数の野球評論家にシーズン展望や各球団の戦力について取材を行う機会がある。筆者はキャンプ前に野村弘樹氏、真中満氏、谷繁元信氏、里崎智也氏の4名に話を聞いたが、その全員がパ・リーグの本命にソフトバンクの名前を挙げた。

もちろん、キャンプ前の取材の場合、ほとんどの解説者は前年度優勝チームを優勝候補に挙げる。各球団の新戦力の状態や故障者の情報も入っていない時期だけに、それは決して珍しいことではない。取材する側もそれは承知の上だ。

その上で何を聞くのかというと、「優勝候補の球団を止めるのはどこか」になる。今季でいえば、セ・リーグなら広島、パ・リーグならソフトバンクに対抗できる球団が取材のテーマだった。もちろん取材を受ける側もそれを理解した上で、独自の視点で注目球団を挙げてくれる。

上に挙げた4名の評論家たちも、セ・リーグについては広島を本命に挙げた上で、勢いのあるDeNAや昨季2位と安定感を見せた阪神、Bクラスからの逆襲を狙う巨人など、それぞれの視点で「ストップ・ザ・広島」がどこになるのかを語ってくれた。

しかし、である。パ・リーグの話となると、経験豊富な解説者の口が一様に重くなるのだ。本命はソフトバンクで間違いない。それは承知の上で、対抗馬になりうる球団はどこか……。そんな質問に対して、なかなか具体的な球団名が出てこない。「対抗馬」を挙げることさえ難しい。それが、現在のソフトバンクの強さを何よりも表している。

キャンプで目にしたソフトバンクの好循環

話を、宮崎キャンプに戻そう。
筆者がソフトバンクのキャンプ取材を行ったのは、2月上旬。まだ第2クールが始まったばかりの時期だった。実際にキャンプを見て、何よりも目を引くのはそのメンバーの豪華さだ。

ソフトバンクの選手層が12球団一なのは周知の事実。筆者もそれは承知の上で取材に行ったのだが、実際にグラウンドで柳田悠岐、内川聖一、松田宣浩、今宮健太といった一流選手が一堂に会し、ブルペンで千賀滉大、東浜巨、武田翔太、和田毅らが並んで投球練習を行う様を見せつけられると、やはり圧倒されてしまう。

しかも、取材時期がキャンプ前半だったため、そこには昨季MVPのサファテ、本塁打・打点の二冠に輝いたデスパイネといった助っ人外国人はいない。それでいて、この豪華メンバー。他球団が見たら、戦意喪失しても不思議ではない。

また、ソフトバンクの「強さ」は、彼ら超一流選手の存在だけにとどまらない。年俸が軽く億を超える選手以外にも、存在感をアピールする若手が次から次へと出てくるのだ。

野手で目を引いたのは、今季でプロ5年目を迎える22歳の上林誠知だ。昨季134試合に出場し、自身初の規定打席到達を果たしたが、CSでの不調が響いて日本シリーズではわずか1打席の出場に終わった。キャンプスタート時には工藤公康監督が公言した「レギュラー確定枠」からも漏れ、再び一からの定位置確保に挑んでいる。

そんな上林はキャンプをA組でスタート。ほぼ毎日、柳田と同組で練習を行っていたが、昨季31本塁打の主砲と並んでフリー打撃を行っても、その飛距離、打球速度は決して引けを取らない。レギュラー確定こそもらえなかったが、これだけアピールすれば工藤監督も使わざるを得ないだろう。

投手では高卒2年目、育成選手の長谷川宙輝の投球にも目を奪われた。B組でのブルペン投球しか見ることはできなかったが、活きの良い速球を投げ込んでおり、「この選手が背番号3ケタなのか……」と驚愕したものだ。長谷川に関してはキャンプ取材前に周囲から「昨季1年間で一番成長した選手」という前評判を聞いていたが、その話に偽りはなかった。事実、筆者が取材した後、2月13日にA組に昇格。支配下登録入りへまた一歩前進している。

実績のある一流選手に加えて、今後の飛躍が期待される若い選手たちも次々と頭角を現す。そんな好循環が、今のソフトバンクにはある。

上林誠知/(C)Kyodo News/Getty Images

里崎氏の分析する「分母の大きさ」

その理由のひとつを、里崎智也氏は「単純に、分母が大きいこと」と語る。分母とはすなわち、抱えている選手の数だ。参考までに、2月28日時点で、12球団にどれだけの選手が所属しているのかを挙げてみよう。

ソフトバンク 92人(支配下67人、育成25人)※契約未更改の川﨑宗則を含む
巨人 89人(支配下64人、育成25人)
楽天 81人(支配下70人、育成11人)
中日 76人(支配下66人、育成10人)
オリックス 75人(支配下65人、育成10人)
DeNA 73人(支配下67人、育成6人)
広島 71人(支配下67人、育成4人)
ロッテ 70人(支配下67人、育成3人)
阪神 70人(支配下67人、育成3人)
ヤクルト 70人(支配下66人、育成4人)
日本ハム 69人(支配下69人、育成0人)
西武 68人(支配下66人、育成2人)

ソフトバンクの92人は12球団トップ。最も少ない西武とは、実に24人もの差がある。支配下登録の上限は70人だが、こちらも巨人と並んでトップの25人の育成選手を抱えることで、12球団一の大所帯となっている。

「人数が多ければ、戦力になる選手が出てくる確率も上がるのは当たり前」

これが、里崎氏が語るソフトバンクの強さの一端だ。

育成選手制度が生まれ、各球団は支配下登録枠にとらわれずに選手を保有することができるようになった。そして、その制度を最も有効に活用しているのがソフトバンクだ。

現在チームの主力となっている千賀、昨季正捕手の座を勝ち取った甲斐拓也、先発・リリーフでフル回転し、シーズン8勝を挙げた石川柊太らはプロでのキャリアを育成からスタートさせ、熾烈な競争を勝ち上がってきた。

もちろん、分母の多さがそのままチームの強さに直結するわけではない。事実、ソフトバンクと同数、25人の育成選手を抱える巨人からは、山口鉄也、松本哲也以降、1軍で「主力」と呼べる選手は出ていない。

ソフトバンクの強みは補強に「色」がないこと

チーム強化には、いくつか方法がある。ドラフト、FA、外国人、そして、前述の育成選手の充実だ。

プロ野球の各球団にはそれぞれ、補強の「色」がある。

例えば広島や日本ハムはドラフトで指名した選手をじっくりと育て上げ、1軍の主力を輩出する。巨人や阪神は豊富な資金力を背景にFAや外国人選手の獲得に積極的に動き、「即戦力」を多く確保する。DeNAはドラフトで「即戦力投手」と「素材型の野手」を中心に指名し、チームのウィークポイントを埋めている。

では、ソフトバンクの補強の色はというと、実ははっきりしない。というのも、あらゆる補強方法をまんべんなく、しかも高水準で実践しているからだ。

現在のチームの主力選手を見ると、それがよく分かる。

「FA組」では内川聖一、中田賢一が、大卒、社会人からの「即戦力ドラフト組」では東浜巨、柳田悠岐が、素材型の「高卒ドラフト組」では、今宮健太、武田翔太、中村晃が、「外国人枠」ではサファテ、デスパイネが、そして「育成枠」では千賀滉大、甲斐拓也がチームの中心を担っている。

補強方法に偏りがない上、抱えている選手も多い。即戦力と育成の双方でバランスが取れているがゆえに「戦力の空洞化」も起きにくい。「常勝」を知るベテラン選手がいるから、若手も勝ち方を自然と学ぶことができる。

怖いのは主力の故障くらいだが、その穴を埋める選手も揃っている。事実、春季キャンプのB組も寺原隼人、五十嵐亮太、攝津正、川島慶三、長谷川勇也といった実績のあるベテランに加え、田中正義、高橋純平、松本裕樹、真砂勇介ら期待の若手といった充実の布陣。

多くの解説者が「対抗馬」すら挙げられないのも納得だ。

柳田悠岐(左)、内川聖一(右)/(C)Kyodo News/Getty Images

最後に付け加えておきたいのが、ソフトバンクはいわゆる親会社やオーナーである孫正義氏の「孫マネー」に頼るような「金満球団」ではない。前述の理想的な補強、さらには12球団一の充実度を誇る雁の巣のファーム施設も含め、すべてを球団単体の「独立採算」で賄っている。

親会社からの援助もなく、自力でここまで充実した戦力を揃えることができている現状を見ると、現在のソフトバンクはプロ野球チームとしては理想的なモデルケースといえるかもしれない。

充実の春季キャンプを取材して、「やはり今年も、ソフトバンクは強い」とあらためて実感させられた。

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。