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米ビジネス界のトレンド「マインドフルネス」がスポーツ界に
「マインドフルネス」という言葉が、シリコンバレーを中心としたアメリカのビジネス業界でバズワード化し始めたのは、今から4、5年前のこと。2014年には世界的ニュース雑誌「TIME」で特集を組まれている。
マインドフルネスとは、ヨガや瞑想によって心が整っている状態を指し、集中力を高めたり、ストレスを解消する手法として、日本でもここ数年、ブームになっている。この波が、アメリカのスポーツ業界にも浸透してきたようだ。テクノロジーの力を用いて、プロアマ問わずアスリートの「マインドフルネス」の実現に力を入れ始めている。
そのツールとして注目を集めているのが、「Headspace(ヘッドスペース)」というアプリ。無料プランと有料プランを通して瞑想の技術を手ほどきし、瞑想の習慣化を促すもので、世界190カ国で2500万ダウンロードされている。指導者が不要で、どこでも瞑想できるという気軽さが受けて、全社的にマインドフルネスを推奨しているグーグルの社内でも取り入れられているほか、アップル、アマゾンなどとも提携するなどアメリカでは広く知られる存在だ。
ナイキが共同開発した「モチベーションを強化し、集中力を高める」ガイド
今年3月1日、ナイキはこのアプリを開発したベンチャー、Headspace(アプリと同名)とコラボレーションし、「Nike+ Run Club」のアプリ内でヘッドスペースと共同開発した3種類のランナー用オーディオガイドをリリースした。ほかのガイドと同様、コーチやアスリートがイヤホンを通してランナーに指示を与えるものだが、内容はモチベーションを強化し、集中力を高め、「活発で明るいタイプの瞑想」を促すものだという。
ナイキによると、このアプリは、速く走ることを目的とするのではなく、ランナーが走りながら「やらなければいけないことのリスト」などストレスフルな物事に思いをはせることを防ぐもので、走り終わった後に晴れやかな気分になることを目指すとしている。
ナイキはさらに、ジムでのトレーニング用にNike Training Clubのアプリでも、ヘッドスペースと共同開発したオーディオガイドをリリース。ランナー用と同じく、気を散らすような思考を妨げ、トレーニングに集中できるような内容になっているという。
従来のナイキのアプリは記録の向上や体の健康維持を目的としたもので、走ったり、ジムでトレーニングしながらマインドフルネスを目指すアプリは初めての試みだ。
NBAは「アスリート向けプログラム」を共同開発
今年3月20日には、NBAもヘッドスペースとの提携を発表。両者の契約によって、NBA、WNBA、Gリーグ(NBAディベロップメントリーグ)、今年5月にスタートするNBA公式のeスポーツリーグ「NBA 2K eLeague」のすべての選手とスタッフは、ヘッドスペースの有料プラン(年間96ドル相当)を利用可能になる。
また、HeadspaceとNBAが共同で、アスリート向けのマインドフルネスのガイド付きトレーニングプログラムを開発。今夏にはリリースを予定しており、4200万ダウンロードを記録しているNBAのアプリ内で公開される。このプラグラムは、すべてのソーシャルメディアプラットフォームで共有されるため、アプリのユーザー数を拡大したいヘッドスペースにとっても、メリットの大きい契約になっている。
この契約ではさらに、ヘッドスペースの主催によるNBAのスタッフに向けた健康プログラムやチームスタッフとのマインドフルネスセッションなどのイベントも含まれている。
NBAのコミッショナー、アダム・シルバー氏は、アメリカのメディアに対して「スポーツトレーニングは身体的なコンディショニングに焦点が当てられてきたが、すべてのレベルのトップアスリートが学んできたように、精神的なフィットネスも成功の決定的要因となっている。NBAは健全な生活を促進することを公約しており、ヘッドスペースとのパートナーシップを通じて、メンタルヘルスをサポートするリソースをNBAの関係者に提供できることをうれしく思う」とコメントしており、本格的にマインドフルネスに力を入れていることがうかがえる。
マインドフルネスを目的とした取り組みは、目に見える結果が出にくい。しかし、ナイキとNBAの試みが一定の成果、例えばユーザーからの好感触や成績の向上などを生み出すことがわかれば、プロとアマの境界を越えてほかの競技にもすぐに広がるだろう。
NBAのような取り組みは、日本のプロスポーツ業界でもすぐにできるはず。リーグ全体での運用が難しければ、チーム単位でも可能だろう。一部のトップアスリートを除いて、大舞台でメンタルが弱い、と指摘されがちな日本人が、例えば「坐禅」など日本らしいアプローチでチームの強化に成功すれば、世界的に脚光を浴びるのは間違いない。
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