外国人枠の拡大路線が進む裏にはビジネス面の思惑が見え隠れする。Jリーグは2017年シーズンからスポーツ専門の映像配信サービス「 DAZN(ダゾーン)」を展開する英パフォームグループと10年2100億円の放映権契約を締結した。3年契約51億ポンド(約7500億円)のプレミアリーグには大きく及ばないが、2012~2016年シーズンに契約していたスカパー!との契約が、年間推定50億だったことを考慮すると、巨額契約といえる。
契約金を回収するために、DAZNは海外のビッグネームを集めて、契約者数を増やす戦略を掲げている。関係者によると、17年にヴィッセル神戸に加入した元ドイツ代表ポドルスキ(推定年俸6億円)、18年夏にサガン鳥栖に加入した元スペイン代表FWトーレス(同8億円)、18年夏にヴィッセル神戸に加入した元スペイン代表FWイニエスタ(同32億円)の年俸の半額近くをパフォームグループが負担しているという。
Jリーグに外国人枠の拡大を要望したのはDAZNだけではない。ヴィッセル神戸の三木谷浩史オーナーも規制緩和を扇動した1人とされる。ポドルスキ、イニエスタの獲得が示すように、大物選手を集めて、魅力あるチームを作る方針を打ち出しており、実現には外国人枠が障害だった。政財界に幅広い人脈を持つ三木谷オーナーの発言力は大きく、DAZNの要望を受けて外国人枠の拡大を模索していたJリーグにとっては〝渡りに船〟。各Jクラブの社長が集まる7月のJリーグ実行委員会で議論を本格的にスタートさせた。
当初、Jリーグは外国人枠を撤廃する方針だった。だが、日本人の若手の出場機会が減り、育成を阻害するとの観点から一部クラブが反発。「育成日本復活」を掲げて23歳以下の強化に重点を置く日本サッカー協会も反対に回った。日本サッカー協会の関塚隆技術委員長は9月の技術委員会後に「Jリーグが進めようとしている外国人枠の問題について話をした。撤廃なら反対」と断言。Jリーグ側は撤廃を諦めて、拡大の方針に舵を切った。
そもそもJリーグの外国人枠の規制緩和は、日本サッカー界全体に大きな影響を与える問題。本来は日本サッカー協会とJリーグが水面下で丁寧に議論を重ねるべき施策であるだけに、コミュニケーション不足は否めない。実は2つの組織には大きな溝があるが、亀裂の始まりは2016年1月の日本サッカー協会会長選挙にまで遡る。
約2年9カ月前の選挙には田嶋幸三副会長と原博実専務理事(ともに当時の役職)が立候補。2人の一騎打ちとなり、日本サッカー協会内も〝田嶋派〟と〝原派〟に割れた。国内スポーツ界で初の試みとなる公開選挙は、各都道府県協会やJ1クラブ、関連団体の代表者で構成される評議員75人による投票。田嶋副会長が有効投票数74票(白票1)のうち40票を得て、原専務理事の34票を上回った。わずか6票差の接戦だった。
会長選挙が終わると、田嶋氏は原氏を専務理事から理事に降格させる人事を決定。身の置き場を失った原氏は16年2月に村井満チェアマンの誘いを受けて、日本サッカー協会を離れてJリーグ副理事長に就任した。田嶋会長は同年3月には原氏の右腕だった霜田正浩氏を技術委員長から外し、後任に西野朗氏を招聘(しょうへい)。霜田氏は日本代表チームの強化に特化したナショナルチームダイレクターの職を与えられたが、結局は同年11月に日本サッカー協会を去っている。
田嶋会長はW杯ロシア大会が3カ月後に迫った18年3月には日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督を「コミュニケーション不足」などを理由に電撃解任。親善試合で結果が出ず、監督と選手の信頼関係が薄れていたのは事実だが、ハリルホジッチ監督を招聘したのは既に日本サッカー協会を離れていた原―霜田ラインで、一部ではフランス人指揮官が〝原派〟だったことが解任の一因だったとの声も挙がった。
実際にハリルホジッチ監督の解任に際して大半の日本人スタッフは留任したが、原氏のパイプで協会入りした分析スタッフはただ1人A代表を外れ、アンダーカテゴリーの担当に配置転換されている。田嶋会長は抵抗勢力を一掃することで、協会内の地位を盤石にしていったが、その一方で原氏が要職に就いたJリーグとの関係は急激に冷え込んだ。
日本代表はW杯ロシア大会で16強に進出した。決勝トーナメント1回戦では強豪ベルギーを相手に2点を先制。後半アディショナルタイムの失点により2ー3で敗れたものの、初のベスト8進出まであと1歩に迫った。ロシア大会後には22年W杯カタール大会での8強進出を目標に掲げ、森保一監督を招聘。20年東京五輪を目指すU-21日本代表との兼任監督は、ベテランと若手の融合を図りながら、9、10月の国際親善試合でコスタリカ戦(〇3―0)、パナマ戦(○3―0)、ウルグアイ戦(○4―3)と順調な滑り出しを見せた。
W杯ロシア大会後には長年に渡り日本を引っ張ってきたMF長谷部誠(ドイツ1部フランクフルト)、MF本田圭佑(オーストラリア1部メルボルンV)が代表引退を表明。MF堂安律(オランダ1部フローニンゲン)、MF南野拓実(オーストリア1部ザルツブルク)、DF冨安健洋(ベルギー1部シントトロイデン)ら下の世代の欧州組は台頭してきたが、国内組の若手の突き上げは少ないのが現状だ。
世代交代を進める上で、Jクラブの若手育成は重要課題となるだけに、Jリーグの外国人枠の問題を含めた施策について、日本サッカー協会とJリーグは密にコミュニケーションをとる必要がある。好発進した〝森保ジャパン〟の足を引っ張らないためにも、約2年9カ月前の会長選挙の遺恨は一刻も早く水に流すべきだろう。
集団、それはリーダーの心を映し出す鏡である――。
日本サッカー協会の田嶋会長とJリーグの原副理事長が、一枚岩にならなければ日本代表やJクラブが世界の頂点を争う未来を描くことはできない。