誰もが知る有名企業だったアルペンが陥っているピンチは、多くの企業、組織にも起きうると池田氏は語る。
「このニュースは、時代を象徴するもの。アルペンは90年代のスキーブームで一世を風靡しましたが、その成功体験がむしろ会社が変わるきっかけを遅くしたのではないかと思います。これは多くの会社、組織にもいえることだと思います。時代や社会は常に変わり続けている。誰もが『変わらなきゃいけない』と口にする。でもその本音はというと『変わりたくない』。いま変わらなければ、将来的に困ることは分かっているくせに、本当に困る事態になるまでは本気で変わろうとはしていない。私がベイスターズを変えることができたのは、本当に困っていたから。でもそうなる前にやるべきこと、やれることはたくさんあったと思います」
スキーブームが去る、子どもの人口が減る、ネットショッピングが定着する……アルペンが変わるべき理由はたくさんあった。しかし過去の成功体験を追い続けたばかりに、変わるきっかけを失ってしまったのだろう。伝統を守ることと、過去に固執することは別物だ。
「変えるなら、早いほうがいいに決まっています。たとえば、いまスキーやスノーボードなどは、メルカリをのぞけばたくさん売られています。1年に数回しか使わないものに、みんなお金をかけたくないんです。もしアルペンが好調な時代に、買い取りや再販ができる環境を整えていたら、いまごろ大成功を収めていたでしょう。どんな企業や組織も一気に変えようと思うと大変です。でも少しずつなら変わることができる。時代や社会が変わっているのだから、少しずつ“前進的横滑り”をしていけばいい。少しの変化でも10年経てば、大きな変化になっている。過去にこだわるのではなく、未来をどう作るか。そのことを考え、きちんと変えていくことができるリーダーがいなければ、企業も組織もあっという間に行き詰まってしまうと思います」
スポーツ界の旧態依然とした体質が問題となっているが、ことはスポーツ界に限らないのかもしれない。閉塞感のある日本の現状を打ち破れるためには、変化を恐れないリーダーが登場するしかないのだろう。
[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>
取材協力:文化放送
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毎週木曜日レギュラー出演:池田純
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アルペンが300名の人員削減 会社や組織を変えたいのなら過去の成功体験に固執してはならない
若い男女が楽しげにスキーをする映像にあわせて、広瀬香美さんが歌う『ロマンスの神様』が流れる。アルペンのCMは、90年代初頭を象徴するCMといえるだろう。1月9日、そのアルペンが子会社も含む全社員の1割にあたる約300人の希望退職者を募集すると発表した。かつてのスキーブームを支え、近年では「スポーツデポ」「ゴルフ5」など、ウィンタースポーツ以外にも手を広げていた同社の苦境。横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏は、「過去の成功体験への固執」がこの状況を招いたのではないかと解説する。
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