通常開催時であればクラブハウス内にプレスルームが設置され、メディアはプレスルームを拠点に取材活動を行う。だが、今大会は感染症対策のためプレスルームもビデオコミュニケーションツールのZoomを利用したリモート対応。メディアは代表入場者数人のみが試合会場に入り、リモート取材の記者たちと意見交換しながら、どの選手をリモート記者会見に呼び、どの選手のコメントを取るか決めるという形式だった。

選手を記者会見に呼んだり、コメントを取ったりするのは大会関係者。代表入場者は選手に直接取材ができるわけではなく、記者会見にはリモートで参加。このような取材形式になることを日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)サイドとメディアサイドが事前にコミュニケーションが取れていなかったようで、一部のメディアからはかなり強い不満の声も聞かれた。ただ、JLPGAは今大会を開催するにあたり、選手のコーチ、トレーナー、マネージャー、家族も会場に入れなかった。メディアの入場制限はやむを得なかっただろう。

一方では、リモート対応だからこそ、より多くのメディアが取材できたのかもしれないと感じる場面もあった。岡山県、新潟県、北海道からバーチャルプレスルームやリモート記者会見にアクセスしているメディアも見かけた。

今大会のリモート取材登録者数は104名だったという。通常開催時だと取材日ごとに登録者数をカウントするので一概には比較できないが、昨年最終日の取材登録者数が57名だったので、緊急事態宣言解除後の待ちに待った女子ツアー今季初戦ということに加え、現地に行かなくても取材ができることで多くのメディアが集まったのかもしれない。

ただ、このような取材形式がアフターコロナのスタンダードになるという感じはなかった。新型コロナウイルスの今後の拡大状況にもよるが、主催者サイドもメディアサイドもできれば試合会場で取材をしてほしい・取材をしたいというのが共通認識だった。ゴルフは風の状況や芝の状況が試合展開を左右する。そういった要素はやはり試合会場に行かないと体感できない。現地対応とリモート対応を両立できれば一番いいのかもしれないが、大会関係者の苦労を考えると、現地取材ができる状況になったら現地対応に一本化するのが当然の流れになるだろう。

選手とファンが直接つながる時代に

今大会の大きな特徴の一つだったインターネットライブ配信もメディアの取材に影響を及ぼした。選手はホールアウトしてアテストを終えた後、記者会見に呼ばれるが、今大会ではアテスト直後にインタビューチャンネルで選手の生の声を視聴者に届けていた。そのため、記者会見前にインタビューチャンネルのコメントを元に記事を作成し、ネットニュースが配信されるケースもあった。

また、リモート記者会見をZoomで見ながら、この映像自体を視聴者やゴルフファンが見られたら面白いのにと感じた。PGAツアー(米国男子ツアー)は初日を上位で終えた選手や優勝した選手のインタビュー動画をインターネットで配信しており、PGAツアーのアプリをダウンロードすれば誰でも見られる。

日本では放映権や肖像権の問題があり、そう簡単にはいかないのかもしれないが、今回のように主催者であるアース製薬と公認のJLPGAの相互理解があればインタビューチャンネルが開設できるのだから、今後は記者会見のライブ配信ができる可能性もありそうだ。

主催者とツアーがライブで情報発信することに加え、これからは選手自身がライブで情報発信する機会もどんどん増えていくだろう。新型コロナウイルス感染拡大の影響で試合が次々と中止になり、活躍の場を失ったプロゴルファーたちは、独自にユーチューブチャンネルを立ち上げたり、インスタグラムでライブ配信を行ったり、ファンと直接つながる方法を模索している。この流れは今後も加速していくはずだ。そうなると、試合会場内の動画は主催者とツアーが配信し、試合会場に入る前と試合会場を出た後の動画は選手自身が配信を行うような時代が訪れることも十分に考えられる。

選手とファンが直接つながると、ファンの代表者という意識で取材活動を行っているメディアの立ち位置も少しずつ変わっていくかもしれない。今回はメディアの入場制限があったが、通常開催時であればメディアはロープの内側に入って取材ができる。だが、それこそ立ち位置によってギャラリーの視界をさえぎったりしたときは邪魔者扱いを受ける。ひどいときは「マスゴミ」という言葉を投げかけられるケースもある。

メディアはもはや多くの人にとって、ファンの代表者という認識ではない。むしろ特権階級だと見られている。メディアを通じてしか情報を入手できなかった時代ならまだしも、ツアーと選手自身の情報発信力が高まり、ファンと直接つながる時代になると、ファンに向けた情報をメディアが後追いするしかなくなるかもしれない。女子ゴルフツアー今季初戦の取材は、将来のトーナメント報道のあり方についてもいろいろと考えることが多かった。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。