2020年の女子ツアーは新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕から16試合連続で中止となった。6月第4週の「アース・モンダミンカップ」(6月25日~6月28日、千葉県・カメリアヒルズカントリークラブ)でようやく初戦を迎えたが、その後も4試合連続で中止となり、8月第3週の「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」(8月14日~8月16日、長野県・軽井沢72ゴルフ北コース)が2戦目だった。

 いずれも大きなトラブルはなく無事に終了したが、単発の試合だったので選手も関係者も体調管理をしっかり行い、感染防止に努めることができた。今回は北海道、岐阜、岡山、愛知という連戦なので、これまで以上に入念な対策が必要になりそうだ。

 女子ゴルフファンにとって残念なのは、いずれの試合も無観客開催であることだが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かう気配がない現状を見ると致し方ないだろう。

 プロ野球やJリーグは観客を入れているのだから、ゴルフも観客を入れることができるのではないかという声もある。実際、シニアツアー開幕戦の「ISPS HANDA コロナに喝!! シニアトーナメント」(7月30日~7月31日、静岡県・朝霧カントリークラブ)は観客を入れて開催された。ただ、来場者数は初日323人、2日目539人の合計862人だった。

 女子ツアーの昨年の来場者数を見ると、「ニトリレディスゴルフトーナメント」が初日3,164人、2日目4,071人、3日目3,772人、最終日6,242人の合計17,249人。メジャー大会の「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」は初日6,231人、2日目5,628人、3日目10,582人、最終日13,278人の合計35,719人にも及んだ。渋野日向子が直前に「AIG全英女子オープン」で海外メジャー制覇の快挙を達成したこともあり、大勢のギャラリーが訪れた。

 この人数をプロ野球やJリーグと同様に上限5,000人に制限しても、野球やサッカーのスタジアムと違い、ゴルフ観戦は座席指定がない。優勝争いがクライマックスに近づくと、ほとんどのギャラリーは優勝の可能性がある選手のプレーを見に来る。局地的に密な状況が発生する可能性が高いことを鑑みると、2020年は無観客で試合を行い、2021年にギャラリーの受け入れを検討していくというのが現実的な流れになるだろう。

 女子ツアーにこれだけ多くのギャラリーが入るようになったのは、宮里藍が2003年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」でアマチュア優勝を達成したことがきっかけであるのは間違いない。

 彼女がプロ転向する前年の2002年9月に開催された「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカ杯」は、昨年と同じ兵庫県で行われたが、当時の来場者数は初日1,053人、2日目1,210人、3日目2,748人、最終日4,243人の合計9,254人だった。それが17年後に35,719人と4倍近くまで増えているのだから、昨今の女子ツアー人気は本当にすさまじい。

 ただ、宮里が出現した当初は、彼女のプレーをひと目見たくて集まったギャラリーがほとんどで、女子ツアー人気というよりも宮里人気という印象が強かった。そのギャラリーが他の選手にも分散するようになったのは、彼女が主戦場を米国に移した2006年ごろからだったかもしれない。宮里と同学年の横峯さくら、1学年下の上田桃子や諸見里しのぶ、2学年下の有村智恵や原江里菜らが主力選手として活躍するようになり、ツアー自体の人気も高まっていった。

 それまで女子ツアーのギャラリーは自分でもゴルフをプレーする人たちが大半だったが、このころから自分ではゴルフをプレーしない観戦専門のファンが明らかに増えた。その傾向は今も続いているどころか、容姿端麗で実力も兼ね備えた若手選手が次々と台頭し、さらに加速している。試合会場に足を運ぶギャラリーは各々のお気に入りの選手に注目し、まるでアイドルに声援を送るかのようにプレーを盛り上げている。

 無観客開催が続く中、試合会場に訪れていたギャラリーの皆さんは今どこで何をしているのだろうか。おそらく試合のインターネット配信を視聴しながらライブチャットで応援メッセージを書き込んだり、選手が開設したYouTubeチャンネルやインスタグラムのライブ配信を通じて声援を送ったりしているのだろう。

 ツアーが中断する間、選手たちは次々とYouTubeやインスタグラムで情報発信を始め、ファンとの交流を増やしている。これらの取り組みは試合会場に行けないファンの不安を和らげ、応援したくなる気持ちをさらに高める効果があるはずだ。新型コロナウイルスの流行により、選手とファンの距離は物理的に遠ざけられているが、精神的な距離はむしろ近づいており、よりよい方向に向かっている気がする。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。