筋書きのないドラマは必ず感動を生み出す。毎年、沿道には2日間で100万人以上が集まる。もはや国民的なイベントであるだけに、実際には完全な無観客の開催は無理だろう。11月1日の全日本大学駅伝など、他のロードレースも、沿道には人の姿がちらほら見られた。

 今、選手を鼓舞する声は禁じられ、ファン同士で集まるのも「密」だと〝悪者扱い〟される。スポーツ観戦の在り方も大きく変わった。ただ、感染状況を考えれば仕方ない。沿道に人が少なくなることは、残念である。とはいえ、それによってレースが盛り下がることはないと強調したい。特に箱根は。

 事実、箱根と同様に沿道での応援自粛が促された全日本大学駅伝は、アンカー勝負、しかも残り1・3㌔までもつれた。空前の大激戦、歴史的な一戦とも言われた。そこに「つまらない大会だった」とケチを付ける人間など、ほぼいないだろう。

 当たり前であるが、主役は選手である。その主役たちは今年、レースを走り終えた後、口をそろえて、こう言う。
 「このような大変な状況の中、大会を開催していただき、本当にありがとうございました」

 新型コロナウイルスによって、多くの大会が中止に追い込まれた。全日本大学駅伝、箱根駅伝とともに「大学三大駅伝」の1つに数えられる出雲駅伝もそうだ。大きな舞台も容赦なく、奪われた。走るというごく当たり前のことが、そうでなくなった。練習も人の目を気にしながら。スポーツ活動が制限される中、「走る事の意味」を考えさせられた選手も多いとも聞く。自分の中に少しずつ答えを見つける中で、自然と意識も高まっていく。だから、春、夏に十分な練習はできていなくとも、好記録を出しているランナーが多い。

 全日本大学駅伝でも6年ぶり13回目の優勝を果たした駒沢大のタイム5時間11分8秒は大会新記録だった。箱根駅伝予選会も、順天堂大の三浦龍司(1年)が1時間1分41秒で、大迫傑(ナイキ)が持っていたU20のハーフマラソン日本記録を6秒更新するなど好記録が続出した。箱根駅伝予選会はフラットな陸上自衛隊立川駐屯地の周回コースに変更された恩恵も大きいが、決してそれだけの産物ではない。走る事に飢えた選手が、与えられた舞台で躍動している。走る喜びを再認識しているのだ。

 箱根も大激戦になるだろう。箱根に絶対的に強くなる青山学院大、2年ぶりの優勝を狙う東海大、全日本大学駅伝を制した駒沢大が「3強」に数えられる。また全日本大学駅伝3位の明治大は粒ぞろい、早稲田大も流れ次第では上位を脅かす力を持つ。国学院大、帝京大、順天堂大にも実力がある。絶対的な優勝候補がいないということは、順位が大きく変動する可能性が高い。それは熱い展開だ。

 少ない声援に加え、大混戦の戦力図を考慮し、陸上関係者が例年以上に勝敗を分けると考えているのが、5区の山登りだ。明暗がはっきり分かれる天下の険。平地で互角となれば、高低差864メートルの特殊区間で生まれる差が、そのままレース全体の結果に直結する。5区は体力の限界に挑み、気力を振り絞って駆け抜ける。沿道の声が少なければ、気持ちが途切れる可能性も出てくる。そうなった時は大失速が免れない。たしかに、その点は応援自粛の懸念材料ではある。

 日々、感染者数が増える今、開催は予断を許さない。「感染の状況、また今後の社会情勢の変化などによっては、大会を中止する可能性もあります」という状況にある。ただ、関東学生陸上競技連盟は、感染症対策に関する専門家からのアドバイスを反映し、防疫体
制を整え、大会運営を行っている。やるためにどうするか、知恵を絞っている。

 次で97回目を迎える歴史と伝統ある箱根駅伝。関東学生陸上競技連盟は文書で「選手を応援する熱い気持ちは、コース沿道から離れていても届きます」とも記している。未知のウイルスが終息し、22年からは沿道で「声」を出せる、いつもの箱根の姿に戻ることを願う。


星野泉