両ツアーとも2020年と2021年を合わせて一つのシーズンとして実施することを発表しているので、まだシーズンが終わったわけではないが、女子ツアーに続いて男子ツアーでも若い選手の活躍が目立ってきたので、近年の男女ゴルフ界の流れを振り返ってみたい。

 女子ゴルフ界は2014年4月の「KKT杯バンテリンレディスオープン」で当時高校1年生の勝みなみが史上4人目のアマチュア優勝を達成し、2016年10月の「日本女子オープン」で同学年の畑岡奈紗が史上初のアマチュアでのメジャー制覇を成し遂げたことで、1998年度生まれの選手たちが“黄金世代”と呼ばれるようになった。その後、2017年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」で畑岡がプロ初優勝を挙げたのを皮切りに、同世代の選手たちが次々と初優勝を手にするようになった。

 2018年は新垣比菜(サイバーエージェント レディス)、大里桃子(CAT Ladies)、勝みなみ(大王製紙エリエールレディスオープン)の3人がプロ初優勝。2019年は河本結(アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI)、渋野日向子(ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ)、原英莉花(リゾートトラスト レディス)、小祝さくら(サマンサタバサ ガールズコレクション・レディース)、淺井咲希(CAT Ladies)の5人が勝利を手にした。その中でも大ブレークを果たしたのが海外メジャー初挑戦で「AIG全英女子オープン」制覇の快挙を成し遂げた渋野だ。国内4勝、海外1勝を挙げ、賞金ランキング2位に食い込んだ。

 “黄金世代”の活躍は2020年も続いており、小祝が1勝(ゴルフ5レディス)、原が2勝(日本女子オープン、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ)を挙げている。今年に関して言えば“プラチナ世代”と呼ばれる2000年度生まれの古江彩佳が3勝(デサントレディース東海クラシック、伊藤園レディス、大王製紙エリエールレディスオープン)、西村優菜が1勝(樋口久子 三菱電機レディス)を挙げ、勝利数では上回ったが、選手層の厚さでは“黄金世代”が際立っている。

男子ゴルフ界では金谷拓実がプロ初優勝

 一方、男子ゴルフ界も今年、1998年度生まれの選手がプロ初優勝を挙げた。言わずと知れた金谷拓実である。11月の「ダンロップフェニックス」で一学年下の石坂友宏とのプレーオフを制した。

 今年はコロナ禍で海外から招待選手を呼べず、無観客開催だったこともあり、日本人の若手選手が活躍したという側面もあるが、大学4年生でのプロ初優勝は松山英樹(2013年4月の「つるやオープン」)以来の快挙である。もっと評価されてもいいと思う。

 “黄金世代”の活躍と金谷の台頭を見比べると、1985年度生まれの宮里藍、横峯さくらと、池田勇太の関係性に似ていると感じる。宮里は2003年9月の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」で史上2人目のアマチュア優勝を達成し、高校3年生でプロ転向した。そして2004年に年間5勝を挙げ、賞金ランキング2位に入る活躍を見せた。すると2004年8月のプロテストに合格した同学年の横峯は後半戦7試合だけで賞金シードを獲得し、2005年は年間2勝、賞金ランキング4位に躍進した。

 一方、池田は2007年にプロ転向し、2008年にツアーデビュー。賞金ランキング52位でシード権を獲得した。2009年には年間4勝を挙げ、賞金ランキング2位に食い込んだ。活躍を始めた時期が異なるので同学年という印象があまりないかもしれないが、池田にとって宮里と横峯の存在は大きな刺激になっていただろう。

 金谷にとっても勝と畑岡のアマチュア優勝は励みになったはずだ。そして自分自身も2019年11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」で男子ツアー史上4人目のアマチュア優勝を達成した。金谷は松山に比べて体格が劣るので、実力の割に世間の評価が低い気がする。池田のように次世代のエースとして男子ゴルフ界を牽引していく存在になることは間違いない。

さらに若い世代の活躍も


 そして今年の男子ゴルフは金谷と同学年の選手や年下の選手の活躍も目立った。同学年で言えば、「ゴルフ日本シリーズJTカップ」に出場した小斉平優和。小斉平は高校3年時の2016年12月にプロ転向してからの経歴が独特で、2018年はPGAツアー・チャイナに参戦。2020年1月から9月までコーンフェリーツアー(PGAツアーの下部組織)で18試合を戦ってきた。その経験を生かし、出場4試合中3試合でトップ10入り。賞金ランキング18位につけている。

 また、アマチュアとして「日本オープン」に出場し、13位タイに入った清水大成と21位タイだった桂川有人も日本大学4年生で同学年。すでにプロ転向し、12月8日に開幕したファイナルQT(クォリファイングトーナメント)に出場しており、2021年はプロとしての活躍が見られるかもしれない。

 金谷より年下の世代にも面白い選手が何人か出てきた。その筆頭が「ダンロップフェニックス」のプレーオフで金谷と戦った1999年度生まれの石坂だ。通信制の日本ウェルネススポーツ大学に在籍しながら、アマチュアのまま2019年末のQTに挑戦。ファイナルまで勝ち上がってプロ転向した。ファイナルQTは25位だったが、コロナ禍で出場権を得たレギュラーツアーでチャンスを生かし、賞金ランキング15位につけている。

 石坂と同学年で注目を集めたのは、「日本オープン」5位タイでローアマチュアに輝いた杉原大河、河本力の2人と、「ダンロップフェニックス」8位タイでローアマチュアに輝いた米澤蓮。杉原と米澤は東北福祉大学3年生で、河本は日本体育大学3年生だが、近いうちに男子ツアーの主力選手として活躍する日が訪れそうだ。

 「ダンロップフェニックス」のローアマチュアを米澤と分け合い、前週の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でも3位でローアマチュアを獲得した中島啓太は、さらに一学年下の2000年度生まれで、日本体育大学2年生。今年の活躍により、世界アマチュアランキング1位に浮上した。

 コロナ禍の出来事ではあるが、男子ゴルフでアマチュア選手がこれだけ上位に来ることは金谷以外になかった。2017年10月の「日本オープン」で当時大学1年生だった金谷が池田勇太と優勝争いを演じた。惜しくも1打差の2位に敗れたが、世代が近い選手たちは金谷の活躍に衝撃を受けたはずだ。そして金谷が2019年11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でアマチュア優勝の快挙を達成したことで、自分たちもプロの試合で通用するかもしれないという思いが強まったかもしれない。

 男子ゴルフ界はこれまで1991年度生まれの石川遼と松山英樹が突出しており、これに続く世代がなかなか現れなかった。だが、金谷の背中を見てきた同世代や年下の世代が着実に活躍を始めている。

 男子選手は女子選手と比べて体の成長時期が異なるので、10代での活躍はなかなか難しいが、20代になれば体もできてくるのでプロの試合でも十分に戦える。ゴルフは経験がモノを言うスポーツだと思われてきたが、PGAツアーを見ると大学を卒業したばかりの20代前半の選手が次々と活躍している。日本の男子ゴルフもそんな流れに近づきつつあるようだ。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。