叔父が最初の師に。世界最大のフォトエージェンシーでの仕事は「夢」だった

Q.スポーツフォトグラファーになるきっかけは何でしたか?

Laurence Griffiths(以下、Griffiths):スポーツフォトグラファーである叔父の存在が大きく影響を与えました。今でも覚えているのは、私が13歳の頃、叔父がサッカーのFAカップで撮影した、とある選手のゴールを切り取った写真です。それはダイビングヘッドの瞬間を捉えた1枚で、当時白黒で現像されたその1枚が私の心を大きく心を揺さぶりました。

元々スポーツは好きでしたが、「スポーツの写真を撮る仕事がある」ということを意識し始めたのはそれからです。

Q. それから写真の勉強を始めたのですか?

Griffiths:叔父が先生となり、様々なスポーツイベントに私を連れて行ってくれました。そこで機材を貸してもらいながら、撮影の練習をするようになりました。

Q.プロのカメラマンになると決めたのはいつですか?

Griffiths:18歳の頃でしょうか。そのあたりから、自分で機材に投資を始めました。Getty Imagesに入社できたときは、「夢の仕事を得た」と感じました。

Q.専門学校などに通うことはなかったのでしょうか。

Griffiths:写真のための学校には通っていません。早い時期に入社し、素晴らしいカメラマンたちのアシスタントとして様々なスポーツ現場を経験するなかで、成長していきました。

責任無くして特権なし。「素晴らしい瞬間」を捉えるための準備とは

Q.今まで一番印象に残っている選手は誰ですか?

Griffiths:体操のシモーネ・バイルス選手です。彼女は本当に素晴らしい選手でした。2016年のリオデジャネイロオリンピックでの金メダルの瞬間をこの目で見て、写真に収めることができた経験は大きな財産です。

Q. アスリートの素晴らしい瞬間を、最高のアングルから目撃することができるのは、スポーツフォトグラファーの特権と言えますね。

Griffiths:確かに、私たちの仕事は特権的です。特にGetty ImagesはIOC、IPCの公式フォトエージェンシーですから、他のメディアが入れない場所にもアクセスが可能です。

しかし、それを当たり前とは思っていません。選手がハードワークを惜しまずに最高のパフォーマンスを発揮するのと同じ姿勢でわたしたちも現場に臨み、素晴らしい瞬間を捉えることへの責任を強く感じています。

592208978,Laurence Griffiths,Getty Images

Q.Griffithsさんの考える、「素晴らしい瞬間」とはどのようなものでしょうか?

Griffiths:poetic(詩的)であること、でしょうか。そのためには、選手が最も輝いている瞬間を撮らなくてはいけません。ゴールを決めた瞬間や、感情を高ぶらせている瞬間です。そうした1枚は、poetic(詩的)であるとすら言えるでしょう。
選手が大舞台でまごついたり、バランスを崩すようなシーンでは、決してありません。

588629088,Laurence Griffiths,Getty Images

Q. poetic(詩的)は独特な表現ですね。

Griffiths:私にとっていい写真とは物語のある写真。つまり、ストーリーテリングな写真だと考えています。写真そのものが、選手の状況やその場の雰囲気を雄弁に語る1枚であるということです。

Q.そのような1枚を撮るために、どのような準備をしていますか?

Griffiths:まずは基本的なことですが、その選手や競技をよくリサーチすることです。試合前の練習から細かく選手を観察し、癖やルーティーンまでも把握します。そのうえで、ベストなアングルを考え抜きます。

824492618,Laurence Griffiths,Getty Images

もう1つ大切にしていることは、ファンの空気感です。これは、競技によっても、国によっても大きく異なってきますが、ファンの情熱がその場の雰囲気を作ると言ってもいいでしょう。選手はもちろん重要な被写体ですが、ファンを含めた瞬間を捉えることが大切です。

Q. ファンの空気感が印象に残っている現場はありますか?

Griffiths:2012年のUEFAチャンピオンズリーグでの、ガラタサライVSマンチェスター・ユナイテッドの一戦です。HOMEで戦うガラタサライのサポーターたちが、パンフレットに火をつけて威嚇をするなど異様な雰囲気に包まれ、恐ろしさすら感じました。

一方、2002年のFIFAワールドカップでは日本のスタジアムにも訪れましたが、そこでは非常にウェルカムであたたかい空気を感じました。
そうしたスタジアムの雰囲気は、写真にも表れてくるはずです。

Q.個人的なベストショットを教えてください。

Griffiths:2012年のロンドンオリンピックでの開会式の選手入場のシーンです。

149386269,Laurence Griffiths,Getty Images

また、2018年FIFAワールドカップロシア大会で、フランス代表のポール・ポグバ選手が優勝トロフィーにキスをしている写真も、ここ最近のお気に入りの1枚です。

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最高の写真を試合後1分で世界へ。普遍的な価値を最新技術で届ける

Q.近年、スポーツ写真に求められることはどのように変化していますか?

Griffiths:撮影から提供までのスピードです。インターネットやSNSの普及により、試合やレース終了後すぐに写真が欲しいと言われることが増えてきました。リオデジャネイロオリンピックでの陸上100Mの決勝では、レース後1分以内に写真をクライアントに送信しました。

その他には最新の技術を取り入れた、クリエイティブなカットも増えています。
ロボットカメラを利用して、人が立ち入れない場所からのアングルを狙ったり、水泳やアーティスティックスイミングの選手を水中から撮影したりと、技術への投資を行なっています。

Q.写真のテーマや内容という意味ではいかがでしょうか?

Griffiths:そういう点では、大きく変わらないと思います。Getty Imagesでは、「Game Changers」というタイトルで、ここ25年のスポーツ写真を振り返るという取り組みを行いました。それを見ても、過去から現在に至るまで、人々を感動させるスポーツ写真というものは普遍的だと感じます。

ただ、SNS上で意外な1枚が“受ける”ことは時にありますね。
2014年のFIFAワールドカップブラジル大会で、ブラジルがドイツに1-7で破れた「ミネイロンの惨劇」では、ブラジルサポーターが怒りのあまりユニフォームを食べるという写真が話題になりました。

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個人的には、この写真がベストだとは思わないのですが・・・(笑)見た人がそれぞれの主観で自由な反応をするのは、いいことです。

Q.2021年に予定されている東京オリンピック・パラリンピックへの期待を教えてください。

Griffiths:東京大会は今までで最高かつ最大のオリンピック・パラリンピックになると、非常にワクワクしています。まるで、キャンディーやチョコレートがたくさんならんだお菓子屋さんにいる子どものような気持ちです。

Getty Imagesからは133名のスタッフが現地入りしてオフィスを構える予定です。私は主に体操を担当し、チーフフォトグラファーとして若いカメラマンのサポートも行ないます。できるだけ早く現地に入り、撮影会場の下見を進め、万全な準備をしたいです。

Q.最後に、スポーツフォトグラファーを目指す人へのメッセージをお願いします。

Griffiths:まずは自分が使う機材をよく理解し、練習してください。たくさん撮れば撮るほど、その経験は“第二の本能”として習慣化していき、自分の一部になっていきます。

そしてしっかりと集中をすること。ベストショットというものは、様々な要素が組み合わさって生み出されます。現代社会には、集中を途切れさせるものがとても多い。代表的なものはスマートフォンです。
大事な一瞬をしっかりと捉えるためにも、しっかりと集中できるようになりましょう。


小田菜南子