ゴロフキンとの対決を目指す村田

 WBA(世界ボクシング協会)ミドル級チャンピオンの村田諒太(帝拳)は一昨年12月の防衛戦以来、試合から遠ざかっている。だからといって、この間動きがなかったわけではない。サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグマッチ実現に向けた交渉は続けられていた。

 村田のいる中量級、とくにミドル級(72.57キロ上限)は全階級屈指の人気クラス。アンリミテッドのヘビー級を除けば「最も大金の動く階級」としても知られる。その頂点に君臨する4階級制覇王者のカネロはフォーブスのスポーツ選手長者番付の常連であり、DAZNと契約した2018年以降は毎試合3500万ドルほどのファイトマネーを手にしてきた。DAZNとの関係は昨年11月に解消したが、コロナ禍での開催となった最新の試合(昨年12月)でも2000万ドルが保証された。長らくこのカネロとライバル関係にあったゴロフキンにしても、1試合で1500万ドルは稼ぐ……気が遠くなりそうな試合報酬を得ているスターたちを相手にした大勝負を村田陣営は目指してきたのだ。

 その見通しはどうなのか。年明けに動きがあった。まずカネロが1階級上のスーパーミドル級で王座統一ロードに打って出ることを表明した。これも“スターパワー”のなせるワザなのか、カネロは約2年もの間、ミドル級とスーパーミドル級の両王座をキープしていた。ミドル級では19年5月から試合をしておらず、ファンの批判は当然なのだが、それでもWBAはカネロを同級の最上位王者である“スーパーチャンピオン”として厚遇してきた。

 それがここにきてカネロがスーパーミドル級に主戦場を移すにあたり、WBAは“レギュラーチャンピオン”だった村田を“スーパーチャンピオン”に昇格させた。1つの階級で複数の王者を認定するWBAの姿勢はともかくとして、スーパーチャンピオンがメリットのある地位なのは間違いない。他団体王者に統一戦を呼びかけやすくなるからだ。

 実際、IBF(国際ボクシング連盟)などは、統一戦を認めるにしてもライバル団体の最上位王者との対戦を条件にしている。WBAスーパーチャンピオンの村田の立場は当然これにかなう。そしていま村田陣営が対決の実現を目指すゴロフキンこそはIBFのチャンピオンである。

 ゴロフキン(41勝36KO1敗1分)はミドル級史上最多の通算21度防衛(19KO)を誇る怪物王者。最新の試合も指名挑戦者を相手にせず、4度ダウンさせてKO勝ちし、38歳とは思えない強さをアピールしたばかりだ。

 21年の村田はまず2月末に国内で防衛戦を行う準備をしていたが、コロナ情勢の悪化で断念。現状は4月あるいは5月の線で開催をうかがっている。ここで勝って、秋にゴロフキンとのビッグマッチというのが理想。ゴロフキン対村田は両者の戦闘スタイルからみても、好戦的なファイター同士の戦争のような試合になるだろう。勝負はふたを開けてみないと分からないが、掛け値なしに日本ボクシング史上最大の興行規模を誇るビッグファイトとなることだけは断言できる。

PFP1位奪取も狙える井上

 続いて、昨年10月末にラスベガス初登場で見事なKO防衛を飾った“モンスター”こと井上尚弥。コロナ禍の難しい調整にもかかわらず、本場のファンや関係者も唸らせる強さをちゃんと見せるのがモンスターたるゆえんだ。

 井上の評価はこれまでの日本人ボクサーにない高みまできている。体重差なしと仮定した場合の最強ランキングであるPFP(パウンド・フォー・パウンド)でも、欧米の主要メディアは井上を軒並み3位以内に選出しているのだ。

 それはファイトマネーにも表れている。ラスベガス・デビュー戦の井上の報酬は100万ドル。バンタム級の100万ドルはボクシングの本場でも破格である。さらにコロナ禍の無観客試合という事情を考慮すれば、井上の商品価値がどれほどのものか察しがつく。もともと、この時の100万ドルは無観客興行となる以前に提示された額。その後コロナの感染拡大で井上の試合もあえなく無観客となったのだが、取り分は当初の額を保証された。ゲート収入が見込めない以上は減額もやむなしと覚悟していた大橋秀行会長もこれには驚いたという。

 そんな井上にとっては日本人初のPFP1位奪取も現実的な話。井上本人が目標に掲げるバンタム級の4団体王座統一を果たせば、快挙達成にかなり近づくに違いない。現在はWBA(スーパーチャンピオン)とIBFの2王座を保持する井上。残るはWBC(世界ボクシング評議会)とWBO(世界ボクシング機構)だが、いま両団体のチャンピオンとの統一戦が決まっても井上が不利予想となることはあるまい。

 井上と陣営にすればすぐにでもチャンピオン対決に臨みたいところだが、次はIBF王座の防衛戦が現実路線か。IBFが指名挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)との試合を要求しているからだ。よほどの事情がない限り、これを避けることはできない。

 全王座の統一がいかに困難であるかは、この指名試合ルールひとつをとっても分かる。どの団体のチャンピオンも指名防衛戦の義務をこなしながら、ライバル王者に勝ってベルトを集めていかねばならないのだ。並のチャンピオンなら途中で伏兵に敗れたりして頂上決戦のリングにたどり着かないケースも当たり前だが、井上ならその心配もないと思わせるところがやはり違う。

海の向こうのビッグマッチに乗り出す井岡

 井上同様、今年は他団体王者との統一戦を視野に入れているのが井岡一翔である。昨年大みそかに最強挑戦者・田中恒成(畑中)と名勝負を演じ、8回TKOで撃退。保持するWBOスーパーフライ級王座を守った井岡は、海の向こうのビッグマッチに乗り出す構えだ。

 井岡のスーパーフライ級は現在、実績、実力ともに十分のチャンピオンたちが揃い、まさに群雄割拠の様相を呈している。WBA(スーパーチャンピオン)がローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、WBCはフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、IBFがジェルウィン・アンカハス(フィリピン)の面々だ。

 “ロマゴン”の愛称で日本でも人気のゴンサレスは井岡と同じ4階級制覇王者。ピーク時には軽量級ボクサーながらPFPランキングでトップに推されたこともある。エストラーダも息の長い実力者で、現在もPFPランキング10傑に名を連ねる。このロマゴンとエストラーダの統一戦がひと足先(3月13日)に行われ、井岡はその勝者との対戦を望んでいる。

海外のエキスパートも注目していた無敗田中を圧倒した先の試合は、当然井岡の評価をアップさせた。米国の老舗専門誌「リング」はPFPランキングで井岡を10位にランクイン(ちなみに8位がエストラーダ)。本場が井岡に熱い視線を送り始めた。もうひとりの王者アンカハスも、陣営が年明け早々に井岡との統一戦に言及した。

 井岡が希望するロマゴン-エストラーダ戦勝者との試合は決まるのか。WBCの元王者で指名挑戦者であるスリヤン・ソールンビサイ(タイ)もいて、次にもとは断言できない。ただし井岡本人は目標に向けて「ブレることはない」と言い切っているから期待したいところだ。


VictorySportsNews編集部