区切りを付けて五輪

 民放テレビ局に出演し、反響が大きかったのが卓球の福原愛さんだった。幼少の頃には泣きながら競技に打ち込む姿で人々の心をつかみ、かつては〝愛ちゃん〟として親しまれた。選手としては女子団体で2012年ロンドン五輪の銀メダル、2016年リオデジャネイロ五輪の銅メダル獲得に貢献した。その後、同じ卓球の台湾代表江宏傑さんと結婚し、2児をもうけた。一家仲睦まじい様子がたびたびメディアで紹介されるなど、2018年に引退後も順風満帆な台湾生活が世間の共感を呼んだ。

 事態が急変したのが今年3月。一部週刊誌で福原さんの日本での不倫疑惑が報じられた。愛されるキャラクターだっただけに余計にインパクトは大きかった。日本だけではなく、台湾でもワイドショーなどでこぞって取り上げ、夫婦関係の溝などが取り沙汰された。その間、福原さんは受け持っていた新聞コラムを休止するなどしたが、本人から特段のリアクションはなかった。

 次の動きが4月下旬。江さんが台湾の裁判所に離婚を請求したことが報道され、福原さんはマネジメント会社を通じてコメントを出した。7月8日には連名で声明を発表し「夫婦で協議した結果、双方合意の上で離婚が成立いたしました」と明らかにした。不倫疑惑に端を発した騒動に区切りを付け、東京五輪を迎えた。

競泳の瀬戸も似た境遇

 福原さんに似た境遇で自国開催の五輪に臨んだのが競泳男子の瀬戸大也だった。リオデジャネイロ五輪では400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得し、2019年世界選手権で200、400メートルの個人メドレーを制するなど東京五輪の主役への道一直線だった。さわやかな笑顔や前向きな姿勢の好キャラクターが一変したのが昨年9月。夫人ではない女性とラブホテルに入ったと衝撃的な写真と共に週刊誌に報じられたのだ。福原さん同様、それまでの印象が良かっただけに波紋を広げ、五輪の競泳日本代表主将を辞退したり、日本オリンピック委員会の肖像権事業「シンボルアスリート」の契約を解除したりした。

 瀬戸はマネジメント会社を通じ「深くお託び申し上げます」などとコメントを発表した。その後、日本水泳連盟から年内活動停止処分を科されたり、復帰戦が決まったりした際も、お決まりのようにマネジメント会社から談話を出すにとどめた。公の場に出てきたのは今年2月4日。ジャパン・オープンで戦列に復帰した。このタイミングに合わせ報道陣に「日頃より応援してくださった方々ががっかりするような行動を取ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」と発言。これで節目とし、東京五輪へのルートを作った。 

奏功したリスクマネジメント

 普通の家庭及びスポーツ選手なら、夫婦間の問題は当然プライベートな事柄であり、不倫などについて他人に向けて説明する必要はない。ただ福原さんや瀬戸が一般とは異なるのは、夫婦の仲の良さを元にして企業CMにそろって出演し、金銭を稼ぎ出していたということだ。パートナーがいなければ発生しないであろう利益が生まれ、商品の良さを大々的に訴求していた。不倫疑惑などのニュースを耳にして裏切られたと感じる消費者がいただけに、直接の説明を求める声が上がっても仕方ないだろう。

 実際には2人とも騒動が発覚してから一定期間、自ら言葉を発して釈明などをすることを回避。見方によっては、都合のいいときにはおしどり夫婦ぶりPRして収入を得ながら、不都合な状況に陥るとマネジメント会社を通じての文面だけで済ませたと捉えられる。事実上のだんまりを決め込むのは、正々堂々の態度が理想とされるスポーツ選手として、残念に思う人がいても不思議ではない。

 時間が問題を解決するとのスタンスに準じ、ほとぼりが冷めると人前に登場。オリンピックの舞台にタイミングを合わせたという点においては、結果的に戦略が奏功した。不都合な出来事や不祥事があれば、コメントをFAXやメールなどでリリースし、しばらく経ってから世間の前に出てくる。今の時代、ばか正直に会見を開いたり、メディアの前でしゃべったりして後々まで映像や画像が残るより、有効なリスクマネジメントであることを証明した形だ。

浄化装置

 今回、五輪のリポーターで異彩を放っていたのがタレントの武井壮氏。6月には日本フェンシング協会の新会長に就任した立場でもある。フェンシングといえば、日本が男子エペ団体で金メダルに輝き、一躍脚光を浴びた。新会長として、競技の普及面では知名度を生かしてのPRは適任といえるが、実際の組織運営は別ものだ。

 関係者によると、武井氏はフェンシングとの関わりはなく、知人の太田雄貴前会長の一存で決定。内部にはガバナンスとしてどうなのかと異を唱える勢力もあるという。五輪での金メダル獲得というこれ以上ない追い風を受けての出だし。これまではマイナー団体の一つだったが、注目度が増していることに比例して、高いガバナンスのレベルを維持しているか、そして日本の競技力が落ちていないか周囲から注視される。タレント業との兼ね合いが重要課題となった。

 瀬戸は五輪閉会式の日に、自身のツイッターで「パリ五輪までの3年間で今回足りなかった所を補って次こそは夢を叶えたい。人生において素晴らしい経験をさせて下さったこと、そして沢山の方々のサポートがあったからこそ開催して頂けた東京オリンピックに心から感謝しております」などと今後への意気込みを記した。福原さんはその後、中国メディアのインタビューに応じたことが伝えられている。さまざまな人たちがそれぞれの人生の新たなステージに突入。新型コロナウイルス感染拡大の中で開催された世界最大級のスポーツイベントは、広義の浄化装置としての働きもあった。


VictorySportsNews編集部