「経営が強くなれば、チームも強くなる」

 なぜブロンコスは今季、強いのか。昨季の低迷を知る人なら誰もが抱く疑問を解き明かそうと、バイスチェアマンを務める北川裕崇氏(40)を直撃すると、こう現状を冷静に分析した。

「当然、一シーズン一シーズンの戦いは違うのですが、去年は組織再生の初年度ということで、いろいろなところで我慢をしてきました。言葉は悪いかもしれませんが、最下位に低迷することも覚悟してやっていた、そうせざるを得なかった部分があります。それは財務の健全化、組織の再構築を優先し、経営の再生に注力する方針だったからです。その中で、今がある大きな理由として3点が挙げられるかなと思っています」

その3点とは
(1)チームの文化をつくったこと
(2)継続契約している選手に頑張ってもらっていること
(3)財務、経営の健全化という面で補強に備えるだけの資金が貯蓄できたこと
だという。

 さいたまブロンコスは、昨年からプロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長を務めた池田純氏(45)がオーナー兼取締役として経営を指揮。再生への道筋を示し、黒字化に向けて軌道に乗せた。その新体制をバイスチェアマンとして始動時から支え、現在チームの経営を一手に担う北川氏は「組織再生の一年」に徹した“雌伏の2020年”が、好調な今季の基盤となっていることを強調する。

「経営が強くなれば、チームも強くなる」

 これこそが、ブロンコスの哲学。億単位の借金を抱えてスタートし、さらにコロナ禍にも見舞われた中で「ミニマムな経営」を掲げ、数百円単位まで“無駄”を徹底して切り捨てるなど、財務の健全化を推し進めた。「当然、経営が強くなればキャッシュのストックが出来て、その分補強もできる。そういった部分が(今の好調さと)リンクしているかなと思います。それこそ、前代表の池田さんを中心に、一つ一つの経費の使い方をとっても非常にシビアにやってきましたし、無駄に人を増やすのではなく少人数の中で事業をまわしてきたという部分が一番大きいと思います」と昨季を振り返る北川氏。負け続けた中でも「やっていることは間違っていないと思っていた」という。

「苦しさは選手たちとシェアしてきたつもりですし、誰よりも一番近いところでチームを見てきた中で、ブレないでやれば見える景色も変わるという共通認識を(現ヘッドコーチの)泉と持ってきました。だから、今の状況を『こうなるとは思わなかった』というのはないですね。もちろん、勝てないことはストレスになりましたし、なぜ外国人を3枚揃えないんだとかチームのフラストレーションも最初はありました。ただ、勝つことを求めて経営が倒れることは当然、やってはいけないことだと池田さんも常々話をされていた。今の経営状況をきちんと伝えた中で、今できることをしっかりやろう、コアになる日本人をしっかり育てていこう、それでもしっかり勝ちにいこう、とやってきました」

 そうした取り組みや考え方が、初年度からの黒字という経営面での再生にまず結実した。小学生を対象とした「バスケットボールスクール」や「大人のバスケットボールサロン」といった現役Bリーガーが教える埼玉県で唯一無二の事業も、さいたま市や所沢市で実施。試合のハーフタイムにはコロナ禍の中で発表の機会をなくした地元のチアスクールチームにその場を提供したり、試合の前座で地域の子供たちのミニバスケットボールのエキシビションマッチを実施したりと、地域密着を図る取り組みも推進。ファンの拡大、スポンサーの獲得でも、それらは大きな役割を果たしている。

「私たちはチームスローガンに『Wild Power 10箇条』を掲げ、主体性を持ってしっかりやっていくことで、コロナ禍の中でも生き抜く力をしっかりつけていくことを見据えてやってきました。常に自分たちが楽しんでいるかどうか、そういった部分をフロントだけでなく、チーム側とも共有しながら、ミッションを明確にしてきたことが良かったのかなと思っています。今あるリソースの中で最大限、自分たちが頑張るというのは、文化と言ったらまだ早いのかもしれませんが、基本的な考え方として浸透してきている。『バスケットボールだけをやっていればいい』というような考え方は、選手にもありません。地域連携をしっかり強めていく中で、選手を学校の行事や地域連携のリソースで使わなければいけないタイミングもたくさんあるのですが、そうしたところにも選手は積極的に参加してくれていますし、地域の子供たちのお手本になるようなことをちゃんとやろう、地域のためにやらなければいけないという責任感は、すごく浸透してきているように思います」

写真:さいたまブロンコス提供

今、B3が熱いワケ。個人オーナー主体のチームが大資本に立ち向かう

 昨季が“我慢の年”なら、今季はまいた種が着実に芽を出し始めているといったところ。それでも北川氏は「これからが本当のチャレンジ」と強調する。

「まだまだフランチャイズというか、連携協定を結んでいるのも4市(さいたま市、所沢市、深谷氏、春日部市)だけですし、今後は(埼玉県の)西南から北がホームタウンという意識で、もっともっと拡大していかなければいけないと思っています。きちんと連携協定を締結していきながら、子供たちにバスケットボールのレガシーを残していくことを基軸に進めていきたいですね。当然、次のシーズンのことも考えていかなければいけないタイミングなので、今以上に戦力を強化するとなった場合に備えて、スクールももっといろいろなところで開講していかなければいけません。ファンづくりという部分を広げていかないと、次のステップに進んでいけないので、1年目にやってきたことをさらに拡充してやっていく。それに付随してスポンサーの獲得であったりとか、ファンとの交流会をやったりとか、もっともっとスケールアップさせていかないといけないと思っています」

 埼玉県は関東1都6県で唯一B1のクラブがない県。一方で小学生が対象のミニバスケットボールが特に盛んな地域でもあり、北川氏は「ブルーオーシャン(未開拓の市場)。まだまだマーケットはあると思っています」と現状を分析する。今夏の東京五輪では、さいたまスーパーアリーナがバスケットボール競技の会場にもなり、女子代表が銀メダルを獲得するなど大いに盛り上がったが「正直、五輪の影響は、あまり感じていないんです。リアル(有観客)で開催されていたら・・・という期待値で見てしまっているのかもしれないですけど、ある意味プロチームとして、オリンピックレガシーをきちんとつくっていくのが、私たちのミッションかなとも思っています。そこは積極的に取り組んでいかないと、打ち上げ花火のように終わってしまうと現場の感覚では思っています」とも話す。

 コート内でも「本当のチャレンジ」の時を迎える。新規参入の申請期限が2022年7月1日(2023-24シーズンより参戦)に迫る中で、B3は「これからバスケットボールがもっと盛り上がると踏んでいる企業が、駆け込みで入ってきている」という状況にある。

「これから、もっとオーナーチェンジなどが起こってくると思いますし、その中で一発目の登竜門となるのがB3。これまでは、カテゴリが上がっていかなければ戦えなかったようなチームと戦うという構図が、これからのB3の面白さになる。そういう意味で今、B3が熱いといえるのではないかと思います」

 通販大手ジャパネットホールディングスが長崎ヴェルカを立ち上げ、求人サイト「Green」などを運営するIT企業アトラエがアルティーリ千葉を創設。それぞれ今季からB3に参入した。これら大きな企業の傘下にあるクラブは資金力も豊富で、長崎が昨季宇都宮ブレックスのファイナル進出に貢献したパワーフォワード兼センターのジェフ・ギブスを獲得するなど、B1経験者を次々と補強するという派手な動きを見せた。その長崎は10月を終えたところで首位に立ち、A千葉も3位で続く。関係者によると、ブロンコスの運営規模が5000万円ほどなら、これら2チームの規模は5、6倍の2、3億円ともいわれる。北川氏が「新規参入の長崎さんや千葉さんは、B1で活躍していた選手たちを主力に抱えているチームで、そこに挑戦、チャレンジできるのは、非常に私たちとしても楽しみ」と話すように、いわば同じB3を舞台にしながら、個人オーナー主体のチームが大資本に立ち向かうという、漫画やアニメのような熱いドラマが展開されているのが、今のB3というわけだ。

 では、その中でこれからのブロンコスは、どこを目指していくのだろうか。北川氏は理想を掲げながら、地に足を着けた経営者としての未来図を描いた。

「選手たちやヘッドコーチは全チームに勝つという目標を掲げており、私はやるからには優勝を目指してやっていきたいと思っています。一方で、経営的なことを言えば、1年間で経営を立て直せたものを振り出しに戻すわけにはいかないので、ある程度ちゃんとステップは踏んでいきたいなとも当然、思っています。まずはしっかりとした経営基盤があって、エリアを拡大していって、レガシーを残していきながら、スポンサーを獲得していく。そうすることで経営を強くして、補強をしていくというストーリーです。ビッグスポンサーが入って来て、一気に補強できるかもしれないし、そうならないかもしれない。それは何とも言えないですけど、そこはチームありきで考えるのではなく、経営ありき。中長期計画に向かって、しっかりやっていきたいと思います」

 11月には長崎、A千葉とのリーグ戦での初対戦も控える。

「これからが本当の戦い。アルティーリ千葉さんとか、ジャパネットさんとか、そういうチームと、これから対戦していきます。そこで、どれだけやれるか。お金のところだけを見たら全然、私たちの方が少ないのですが、スローガンでもある『ワイルドパワー』を見せられるかなとも思っています。今までB3という本線から外れた位置づけにあったリーグに、B1で活躍していた選手が新規のチームに入って来ている。そうした状況の中で『こんな選手のプレーが見られるんだ。じゃあ、見に行こう』という人たちも増えると思います。それが、結果的に日本のバスケットボールの底上げにもなると思いますし、バスケットボールを見る文化の醸成にもつながる。これは正直、3、4年前では絶対に考えられなかったところです」

 最後に、北川氏はファンに向けて力強いメッセージを発信した。

「今、たまたま勝っているというつもりは全くありませんが、けが人が出たり、うまくいかなくなることもあるかもしれない。やはり、1シーズンが終わって『ブロンコスは進化したよね』『来年はどうなっていくんだろう』と期待を常に持ってもらえるようなシーズンにしていきたいなと思っています。決して今、勝っていることが全てではないと思っているので、シーズンをしっかり戦って、3年目にどう進化するのかを見てもらえるチームであり続けたいなと思います」

 好調なチーム状況にも浮足立つことなく、未来を見据えるブロンコス。“弱小クラブ”が年々進化を遂げ、ビッグマネーが流入するB3の荒波にもまれながら、存在感を高めていく。そんなドラマチックなストーリーをリアルに楽しめるのも、今のB3、そしてさいたまブロンコスの大きな魅力といえるだろう。

写真:さいたまブロンコス提供

VictorySportsNews編集部