「HEROs AWARD」は、サッカー元日本代表の中田英寿氏が発起人となり、日本財団(東京・港区、笹川陽平会長)が立ち上げた「HEROs ~Sportsmanship for the future~」プロジェクトの柱の一つ。表彰式には中田氏のほか、ラグビー元日本代表の五郎丸歩氏、プロフィギュアスケーターの安藤美姫さんら「HEROsアンバサダー」や、東京五輪卓球混合ダブルス金メダルの水谷隼、陸上女子1500メートル、3000メートル日本記録保持者の田中希実らそうそうたる面々が出席。男性部門でプロ野球・元ロッテ投手の村田兆治氏、女性部門で陸上女子100メートル障害日本記録保持者の寺田明日香さん、チーム・リーグ部門で男子プロバスケットボールB1千葉ジェッツふなばしの3組が表彰された。

「ここに来られている選手の層も、だいぶ変わってきていますし、受賞者の方々の活動の幅も広がっている。村田兆治さんの取り組みもそうですし、HEROsの広がりを感じました」

 2017年の第1回開催時に発起人として「たくさんのスポーツ選手がいろんな活動をしている中、一緒にやればもっと大きなことができるのではないか」と発想のきっかけを語っていた中田氏は、5回目の開催を迎え、競技や世代の幅が確実に広がる現状に感慨を示した。さらに「スポーツの力は、多くの人が集まる力。みんなで何かを一緒にやるということは、この(コロナ禍の)状況で難しい場合もありますが、助けるとか難しいことではなく、スポーツの楽しさ、人が集まることで社会に影響を与えたり、良い方向へ向かわせたりすること。心の繋がりというものが、より大事な時代じゃないかと思っています」と、コロナ禍を踏まえたアスリートの社会貢献活動の意義について思いを明かした。

 海外では陸上のウサイン・ボルトが「ボルト財団」を設立し、国際陸連と提携して慈善活動を展開。アンドレ・アガシやモハメド・アリら異なる競技のアスリートが連携して「Athletes for Hope」を創設するなど、アスリートの競技外の活動は世界的に広く知られている。一方、「HEROs」が始動した4年前、個々のアスリートによる社会貢献活動は日本でも少なからず行われていたが、スポーツ選手による社会貢献活動の表彰機会は、各競技内で個別に行われているものがほとんどで、世間の認知度も必然的に高まらない環境にあった。

 現役時代はイタリア・セリエAを中心に活躍し、海外で活躍する日本人選手の“パイオニア”として国内外で世界的な選手や監督らを集めてチャリティーマッチなども行ってきた中田氏は、そんな状況に一石を投じるべく「情報を得て、みんながつながる場所があったら」と提案。そして、発足したのが「HEROs」だ。日本財団をプラットフォームに、野球の松井秀喜氏、柔道の井上康生氏、モータースポーツの佐藤琢磨選手ら、さまざまな競技のアスリートがアンバサダーとして参画。「HEROs ACADEMY」「HEROs ACTION」「HEROs AWARD」の3つのプロジェクトを通じて、教育/実践/評価の機会をつくることで、アスリートが社会とつながり、取り組んでいる社会貢献活動への認知度、意識を高める仕組みとして始動した。

 その柱の一つが表彰制度である「HEROs AWARD」であり、5回目の開催となった今回は「野球」「陸上」「バスケットボール」と競技の壁を越えた3組が各部門を受賞した。まさに、中田氏が言う「多くの人が集まる力」が表れた形。ここからは、その表彰を受けた3組の活動を詳しく紹介する。

HEROs AWARD 2021 男性部門/村田兆治 「離島甲子園」

 プロ野球・ロッテで活躍し、足を高く上げる「マサカリ投法」で通算215勝を挙げた村田氏は、全国の離島球児たちが一堂に会する中学生野球大会「離島甲子園」の開催を推進。次世代を担う人材を育成することを目標に、過疎化や高齢化が進む全国の離島を巡って大会を運営し、離島地域の振興にも寄与している。また、2021年11月のドラフト会議では新潟佐渡市出身の菊地大稀投手(桐蔭横浜大)が巨人に育成6位で指名され、同大会出場選手初のプロ入りを果たした。

 村田氏は、プレゼンターとしてサプライズで登場した教え子の菊地投手からトロフィーを手渡され「人類みな兄弟。みんなで力を合わせて社会貢献の一環として日本に元気を出すことの手本ができたと感じています。その中に私がいることが名誉に思います」と挨拶。「これからも選手たちは、夢と希望と勇気を持ってチャレンジしてもらえれば」とし、菊地投手は「巨人に入って活躍します」と晴れの舞台に立った“恩師”に壇上で堂々とプロでの飛躍を誓った。

「離島甲子園」の活動が、男性部門での受賞となった村田兆治氏

HEROs AWARD 2021 女性部門/寺田明日香 「A-START」

 陸上女子100メートル障害日本記録保持者で、東京五輪にも出場した寺田さんは「挑戦する人の新しいキャリアスタートを応援する」をコンセプトに参加型プロジェクト「A-START」を2020年12月にスタート。学生アスリートを対象に、コロナ禍での練習制限や大会中止などモチベーションが続かない毎日の中でも、自分で考え、困難を乗り越える力を持って欲しいとの思いを伝えるべくオンラインプログラムや合宿形式で練習をともにする機会を設けるなどの活動をしている。また。結婚・出産を経て競技に戻った自身の経験を基に、女性アスリートのキャリア形成などについても次世代の選手たちにアドバイスを送っている。

 寺田さんは、表彰式で「このような名誉ある賞をいただき心からうれしく思っています。本当にありがとうございます」と喜びを口にし「現役選手だからこそ見せられる動きや伝えられる取り組み方、考え方があります。それらを、次代を担う選手たちに感じてもらうことに価値があると考え、一歩先へ進むためのきっかけになればと願っております。学生たちのみならず、その下の世代の子たちにどのようにアプローチしたらよいか考えながら競技生活を続けてまいりたいと思います」と今後の活動へ決意を示した。

「A-START」プロジェクトでの受賞で、プレゼンターを務める有森裕子氏(中央左)からトロフィーを受け取る寺田さん

HEROs AWARD 2021 チーム・リーグ部門/千葉ジェッツふなばし 「JETS ASSIST」

 千葉ジェッツふなばしは「”ささえる”からはじまる社会貢献」をスローガンに実施する社会貢献プロジェクトを実施。自治体・NPO 法人・企業と連携しながら地域のニーズに応える形で年間100件以上の社会貢献活動を展開している。

 表彰式には田村征也社長、原修太選手が出席。田村社長は「名誉ある賞をB リーグのチームとして初めての受賞させていただき、大変うれしく思っています。千葉ジェッツは、これからも地域のハブとなり、千葉一丸でより良い街づくりができるよう邁進してまいります」と力を込めた。

チーム・リーグ部門で受賞した千葉ジェッツふなばしの田村征也社長(中央)と原修太選手(右)。左端はプレゼンターを務めた五郎丸歩氏

 さらに、今回はアスリート同様、チャリティーソングの提供やSDGsの発信をテーマにしたメディア「TAP」の立ち上げなど、幅広いフィールドで社会貢献に尽力している歌手のAIさんが特別表彰され、歌声を披露。トロフィー授与のプレゼンターを務めた日本財団常務理事・笹川順平氏は「アスリートとエンターテインメントの世界、社会貢献という同じ切り口でどういう化学反応が起きるのか非常に楽しみにしております。これから日本財団としてもAIさんのような社会に向けて大活躍されている方々を表彰させていただきたいと思っております」とたたえると、AIさんは「この賞に恥じないように生きていきたいと思います」と笑みを浮かべた。

 また、これまで「HEROs OF THE YEAR」として“最優秀賞”を決めていた「HEROs AWARD」だが、今回から「甲乙つけがたい」(審査員の早大スポーツ科学学術院・間野義之教授)として部門別の表彰となり、活動奨励金として各賞に300万円が贈られる形となった。競技を越えてアスリート同士の連携を広げ、社会貢献活動の情報提供やサポートを行うのが「HEROs」のミッション。今回も自薦・他薦合わせて125のノミネートがあり、もはや“順位”を付けられないほど、さまざまな形の取り組みが行われている状況。着実に「アスリートの“輪”」「社会貢献の“輪”」は広がっている。

「HEROs AWARD」の発起人である中田英寿氏

 表彰式の最後に、「あなたにとっての“ヒーロー”とは」と、メディアに問われた中田氏は迷いなく言い切った。

「ヒーローはどこにでもいる。自分にできないことをできる人は全てヒーローだと思います」

 スポーツに勝敗はつきものだが、価値はそれだけではない。「HERO」たちが集い、共有された思いが、また新たな「HERO」を生み出す。


VictorySportsNews編集部