「日本とスペインのサッカーと生活の違い」スペインでプレーして実感すること

―開幕からかなり順調みたいですね。
丹羽:はい、そうですね。まだまだこれからが勝負だなという気持ちはありますが、昇格組としてはだいぶ良いスタートを切れました。
今年の昇格条件は1位が自動昇格、2位から5位のチームが、プレーオフに出場できるのですが、今全体の約3分の1の試合が終わり、4位の位置に付けています。
首位との勝ち点差も4なので、とても良い位置に付けていると思っています。

―丹羽選手のようなベテラン選手の存在は大きいと思いますが、チームが良いスタートダッシュをきれた要因はどこにありますか。
丹羽:スペインに来てから、ベテランとか年齢が上の立場とかを意識しないように心掛けています。年齢を重ねるにつれて経験が良い方向に出る場合と、経験が自分の成長を妨げる二つのパターンがあると思っているからです。
あと今年から監督が新しく変わってキャンプから良いトレーニング、良いプレシーズンマッチが出来ていて、キャンプのトレーニングマッチで出た課題を皆んなで共有しながら開幕までに良い準備が出来ました。このことが、いいスタートダッシュを切れた要因と考えています。
今のチームは比較的年齢層が若いメンバーで構成されているので、勢いに乗ってしまえばトントンと勝てるのですが、この前2連敗をしてチームとして慌ててしまい、試合の進め方としても少し脆さが出てしまいました。
僕のこのチームでの役割は、チームの波をなくして、プレーと存在感で精神的な落ち着きを与える事だと思っています。Jリーグだったら、サイドバックに対して、「上がれ」「上がるな」は簡単に言えるのですが、スペイン語で微妙なニュアンスを伝えきるのがまだまだ難しい状態ですので、今使えるスペイン語を駆使して、日本で自分が築き上げてきたスタイルと、スペインでの新たなスタイルを受け入れながら、その両方のバランスを試行錯誤しながらプレーしています。

―日本だと丹羽選手にコーチングされたら若い選手達は比較的動いてくれると思いますが、スペインの選手たちは言葉や若さ、国柄の違いもあって指示通りに動かないことがあるんですね。
丹羽:ハーフタイムでも、監督と選手、選手同士で言い合ったり、日本では見たことのない光景がロッカールームで広がっています。
でも、スペインではそれが当たり前でとても新鮮に感じます。一見とてつもない喧嘩をしているように見えますが、本人たちからしてみれば喧嘩ではなく、自分の主張をしているだけで試合が始まれば何事もなかったようにプレーを始めます。スペイン人は誰に何を言われようと、試合に勝つ為に自分の主張を曲げずに伝える事が当たり前です。初めは少し驚きましたが、今ではその光景が当たり前になっています。
これを言ったらダメとか、これを言ったら嫌われるとかではなく、勝つ為に必要なことは喧嘩をしてでもコミュニケーションを取るって事が毎試合当たり前のように繰り広げられています。
そこにお互いのリスペクトや尊重があれば問題ないと思うし、自分の中で変な基準を設けてはいけないな、というのを感じました。
リスペクトや尊重とか言っている時点で、まだまだ僕は日本人っぽいなと思うのですが。
自分の常識を常に疑いつつ、その中で譲れない芯の部分は持ちながらも、スペインでの新たな常識を受け入れながら、アジャストしている状況です。


―サッカーのお話に戻りますが、ここまでで印象深い試合や出来事を教えてください。
丹羽:ホームの試合で日本の国旗を、掲げてくれていたことが印象に残っています。
最初は、日本人の方が掲げてくれているのかなと思っていたのですが、後から聞いたら現地のスペイン人の方が掲げていてくれていたみたいです。
その試合で勝った後に僕のコールもしてくれて、僕自身をチームに受け入れてくれたと感じてとても感動しました。それから毎試合日本の国旗を掲げて応援してくれているので、セスタオの街やサポーターの皆さんの温かさや愛を感じています。

「海外と日本のマインドのギャップを全て受け入れる」海外でのプレーや生活する際に感じること

―スペインに来て、自分の考えや行動が変わったことはありますか。
丹羽:日本で生活する上で何か手続きをする際には、誰かに聞いたり知り合いに紹介してもらったりしていましたが、スペインでは誰に何を聞いたら良いのか、何の書類が必要なのか、どこに何を持って行けばいいのかが全くわかりません。
日本だと直ぐに終わる作業が、スペインだと「わからない」が通用しません。自分で直接調べて動く必要があり、とても手順が多く大変ですが、スペインの国の仕組みや経済について学べるので非常に勉強になっています。
日本の時は何をするにも全て周りの人にサポートしていただいていた、ということを改めて実感しました。
この前、家族のビザと社会保険の手続きをしたのですが、僕が「わからない」と言ったところで、誰かが助けてくれるわけではないし、家族のビザがなければ一緒に住むことも、病院に行ことさえも出来ません。
スペインは社会保険に入れば医療費が全て無料になる国の制度です。色々な手続きをする中で、トライ&エラーが何回も起こって、その中で新しい発見や課題が生まれるので、「自分の人生勉強になる」と捉えて毎日過ごしています。

―家族を連れて、スペインで生活するのは大変ですか。
丹羽:一番大変でしたね。先程も言いましたが、家族のビザ、居住許可、社会保険にプラスで子供の学校の手続きも全て自分でやりました。
学校の入学手続きでは、日本の学校の成績表や、翻訳付きの戸籍謄本、母子手帳なども必要で、学校に親がお迎えに行けない時に、代わりにお迎えに来てくれる方の身分証明書の提出など、全てスペイン語で書類を書いて提出しなければいけませんでした。僕のサッカークラブとの契約書だったり、スペインの銀行口座の残高証明書などを提出して子供達がスペインの学校に入学する事ができました。
学校には経理の方や広報の方など何個も窓口がありすぎて、誰に何を聞けばいいのかわからず、直接校長先生に会いに行って、色々と分からない事を教えてもらったりもしました。
要は自分で行動を起こして、自分で問題を解決して、自分で物事を前に進めて行かなければ、子供が学校に行くことや、病院に行くこと、住むことさえも出来ないということです。
例えばもっと上のカテゴリだったら、クラブなどが手厚いサポートをしてくれるかもしれませんが、僕の今の現状は「全て自分でやらないと生活が出来ない」という状況なので、この環境で一からスタート出来たのは本当に良かったと思っています。

―スペインで生活して約半年が経ちました。今はどんな心境でしょうか?
丹羽:何年後か分かりませんが自分の人生を振り返った時に、とても良い経験をさせてもらえてたんだなと思えるくらい良い経験をしていると思います。正直自分の思ってるようにうまくいかないことだらけですが、それも踏まえて海外でプレーするために来たので、全てを受け入れて生活しています。あとは、他人に期待をしてはいけないということですかね。
「他人に期待をするよりも、自分自身に期待をして、その期待に応える自分になる」
という事です。海外に住む為にはその国の生活や文化に馴染めるか馴染めないのかが非常に大きく影響していて、日本と海外の全てのギャップを受け入れる考えが必要だと思います。僕は今、自分の常識をどんどん壊して、常識の範囲を少しでも広げようとしているところです。35年間ずっと日本で過ごしてきて、日本の良いところはもちろん理解しつつ、海外の新しい常識や環境を受け入れながら今は生活しています。
よく家族同士で「この基準は合ってるよね?」「僕らがおかしいのかな?」とかも話し合ったりしています。

―家族、息子さん、娘さんにとっても良い経験になりそうですね。
丹羽:そうですね。今子供達は英語とスペイン語の学校に通っているので、これから生活をしながら勉強をしてもっと言葉を喋れるようになれば、よりグローバルな子どもになっていくのかなと思います。
家で英語やスペイン語の勉強を子どもたちと一緒にやっているのですが、子どもたちは毎日ネイティブの人たちと話しているので、めちゃくちゃ発音が良いんです。妻とも話していて、僕らが教えることは単語の意味とか読み方だけであって、発音は全く教えられません。
子どもたちはネイティブなので、発音が僕等と全く違うので、発音に関しては全て子供達に教えてもらっています。
親として子供達にできることは、無償の愛を与え続けて、色々な事を経験をさせて、人との出会いのなかで、様々な価値観を持ち、多くの選択肢を与えてあげる。ということが大切だと思います。
スペインに来て、実は「常識」という言葉はないかもしれないと、日に日に感じるようになっています。常識とは、それぞれの国や街、人の基準であって、国や文化が変われば常識だったことが非常識になります。今まで日本では自分自身、常識を取っ払っていると思っていましたが、海外に来てみるとまだまだ【日本の常識】を持った人間だったんだなと改めて実感しています。自分の常識を他人に押し付けるのではなく、常識と言うフィルターを全て取っ払って生活していく事で、価値観が変わり、見える景色が変わってくるのかなと思います。

今後の目標を教えてください。

丹羽: サッカーをするにしても、生活をするにしても、言葉を喋るにしても、日本の3倍4倍と手間と時間がかかるので、その時間を極力かからないように倍速で進めていくことが、より早く順応するために必要と感じています。
コミュニケーションを取ることが、どれだけ大切なのかということを生活する中で実感しているので、もっと語学も勉強してスムーズにコミュニケーションを取れるようにしていきたいです。
サッカーの目標としては、このまま5位以内に入ってプレーオフに出場して昇格することです。
私生活の充実がピッチ上でも出ると思うので、プライベートからしっかりと生活を充実させて平生を整えていけば、自ずとプレーもどんどん良くなっていくと思っています。

来年の事や未来の事は誰にも分かりません。
ただ、なりたい自分、目標に向かっている自分、を思い描き、他人ではなく自分自身に1番期待をし〝今この瞬間″を生き切って、必然的に明るい未来を作っていきたいと思います。


VictorySportsNews編集部