中国に渡る直前、スウェーデンの司令塔のスキップを務めるアンナ・ハッセルボリ(32)は、「前回の大会からさらに成長したと感じています。今回はもっと強くなって、経験も積んできました。自分たちが安心して臨める状況にきていますね」と充実した声を響かせていた。

 1月下旬、自主的なバブルの中で練習、生活を送っているという拠点ストックホルムからオンラインで近況を教えてくれた。母になって挑む価値、ライバルの日本への思い、そして連覇への誓い。聡明さを感じさせる言葉を紹介する前に、まずは4年前に時間を戻したい。

 18年2月の平昌、競技を巡る印象的な場面があった。1次リーグの最終戦後の取材エリアだった。スイス戦に敗れながら、準決勝進出を決めた日本代表「ロコ・ソラーレ」のメンバー、スキップ藤沢五月、サード吉田知那美はテレビのインタビューを受けていた。

 ミスが続いたことに涙を流す吉田。「そんなことはないよ」と慰める藤沢の後ろを、スウェーデン代表「チーム・ハッセルボリ」が通過しようとした。吉田の涙に気づいたのだろう。足を止めると、メンバーが次々に彼女を抱き締めていった。「大丈夫よ!」という優しい声掛けに、吉田にも笑顔が戻っていった。

 この最終戦、同時刻に行われていた試合でスウェーデンが米国を倒すことが日本の準決勝進出の条件だった。もともとスイスも含めた3チームは仲が良く、みなで決勝トーナメント進出を目指す中で、複雑な最終戦でもあった。その状況下での友情を示すシーンは、日本から観戦していた人にも、スウェーデン代表の素晴らしさを伝える瞬間にもなった。

アンナ・ハッセルボリ選手【写真:SOC/SPC提供】

 それから4年。今度は初戦で対戦する。

 「五月さんですね、本当に素晴らしいスキップだと思います」。関係の深さからだろう。ロコ・ソラーレの印象を聞かれたハッセルボリからは、称賛の言葉が続いた。

「チームの1人1人が個人でも強いです。いろんなショットを駆使し、すごく攻めのプレーをしてきます。表彰台を目指すなら彼女たちに勝たないといけない。初戦で日本と対戦することはお互いに相当タフだなと思います」

 喜怒哀楽、特に明るい笑顔が特徴的なロコ・ソラーレだからこその「強さ」も認める。

 「一般的なことですが、カーリングのチームはオン、オフが重要です。試合は3時間の長丁場で、ずっと集中しているのは疲れます。笑ったり、気を抜くというオフをどう作るかがチームの強さにも繫がっています。日本は本当に切り替えがうまいですよね。カーリングが大好きだからこそ、いつも楽しそうにプレーしています。本当に明るく朗らか。だからこそ、オリンピックという厳しいところでも、思い詰めずにプレーできているのかも知れません。われわれ、北欧の人間はちょっと表情が怖くなってしまうのかな」と冗談も交えながら、リスペクトを込めた。

 「楽しさ」は、チーム・ハッセルボリの大事なテーマでもある。自身は、この4年間で新たな家族が増えた。20年6月に第1子となる長女を出産し、母となって挑む2度目のオリンピックになる。男性でも育休取得率が8割近い国柄。夫は昨年9月から9カ月間の休暇を取り、競技をサポートしてくれている。

「社会制度が整っていることも、アスリート生活との両立を可能にし、復帰が成功できた要因だと思います。スウェーデンのオリンピック委員会も支援してくれています。復帰への懸念は1回も持ったことはないです。むしろ、情報をいろいろ提供してもらい、信頼を置くことができました」

 実際、出産から1カ月後にはトレーニングを再開。3カ月後の9月には試合に出場した。ハイハイをする前から娘も一緒にリンクで遊び、カナダなどの遠征にも一緒に行った。

「夫や互いの両親など、家族全員がサポートしてくれている。カーリング選手のキャリアは長いです。ですから、全部を望んでも良いと思っています。家族を持って、自分の好きなことを氷の上でやる。両方目指して良い。それをできることが、自分にとっても誇りです」

 いま、最終調整を重ねる母国での自主バブルの中にも家族に入ってもらい、ともに北京へ向かっている。母として競技を続けることも、チームにお手本がいた。

「チームメイトのアグネスは10歳のお嬢さんがいます。お母さんとしても大先輩ですし、子育てをしながらプレーを続けることが可能だという道を示してくれています」

 ポジションではセカンドのアグネス・クノッケンハウアー(32)は、14年ソチ五輪の銀メダリストでもあり、当時すでに母でもあった。2人は10歳からの幼なじみで誕生日が同じ。わずか数時間の違いで生まれた2人の絆は強い。

「今後は一緒に戦いましょう」

 当時は別チームだったクノッケンハウアーがソチから送ってくれた手紙が「チーム・ハッセルボリ」の結成につながった。15年にいまの4人が集まってからは、平昌での金メダル後も、ずっと同じメンバーで戦い続けている。他の2人のメンバーも紹介してもらった。

(左から)アグネス・クノッケンハウアー選手、ソフィア・マベリス選手、サラ・マクマナス選手【写真:SOC/SPC提供】

 リードはソフィア・マベリス(28)。
「とても格好いい選手。常に冷静ですし、緊張することがない。感情に左右されないので、うちのチームにとっては重要です。個人的には一番面白い人間ですね。世界で一番のユーモアの持ち主だと思っています」

 サードはサラ・マクマナス(30)。
「サードとしても世界トップクラス。ビッグショットを必ず決めますし、本当に難しい試合をすればするほど、どんどんうまくなっていく。彼女のことは『牧羊犬のようだよね』とみんなでよく言うんです(笑い)。『ちゃんとやってる?』『大丈夫?』などの言葉をかけてくれて、みんなの面倒をみてくれます。特に私に対してもとてもサポートをしてくれます」

 4年前の金メダルはいま、4人の礎にもなっている。

「ちゃんとした目標を持って努力してまい進すれば、手にすることが出来るということを証明してくれました。私たちにとっては、一番楽しい体験の最後のご褒美でした。堪能して、楽しんで、そこで金メダルが待っていてくれた。最後にメダルを手にできたのは、究極の証しになったと思います」

 新たに家族が増えるなど、それからの4年間を刻んだいまも、楽しむことを忘れず、目標を目指していく。

 チームにとっては、その月日で、新たな日本との縁も生まれた。北京では日本のアパレルメーカー「ユニクロ」のウェアで戦いに挑む。スウェーデンオリンピック委員会が同社と契約を交わし、カーリングでも「UNIQLO」のロゴが入った勝負服が用意される。

スウェーデン代表 男子カーリングチーム オスカー・エリクソン選手、スウェーデン代表 女子車いすカーリングチーム クリスティーナ・ユーランダー選手【写真:SOC/SPC提供】

「すごく気分は良いです。軽井沢で行われた大会でプレーをしたり、本当に日本が大好きで、日本にはすごくつながりを感じています。日本やカナダに行くと、チームのメンバーでユニクロのお店に駆け込みます。今回、ユニクロのウェアを着て、プレーできることを、非常に誇りに感じています。そして、すごく快適なんですよ。ウェア開発では、フィット感やライン、肌触りなど1つ1つ、私たちの意見も反映してくれました」

 女子カーリングチームは、同社がスウェーデンで開催している若者と子ども向けのスポーツイベント 「DREAM PROJECT by UNIQLO」への参加や、 PRキャンペーンなどに登場する「ユニクロ チーム スウェーデン」のメンバーにも選ばれている。

「氷の上で着て、試合に臨むのが楽しみです」

 互いの縁が招いたように、くしくもそのウェアを着て挑む初戦が、日本になる。リスペクトをし合うからこそ、懸ける思いは強い。

「いまは結果のことは、あまり考えていません。やることをやれば、金メダルを取れるということを前回大会で学んでいます。なので、ベストなカーリングを見せよう、一瞬一瞬を楽しもうと思っています。成功すればするだけ、長い間プレーできる。もちろん表彰台に上がりたいとは思っています。ベストなチームを目指そうというのが一番のモチベーションになっています」

「(日本は)本当に世界でもトップに入るチームの1つ。幸運の女神がほほ笑んでくれれば、勝つでしょうし、そうでなくても私たちはベストを尽くすのみです」

 楽しみ合い、ともに最高の戦いをみせる。

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阿部健吾

1981年、東京生まれ。08年に日刊スポーツ新聞社入社。五輪は14年ソチ、16年リオデジャネイロ、21年東京、22年北京を現地で取材。現在はフィギュアスケート、柔道、体操などを担当。ツイッター:@KengoAbe_nikkan