テレビ朝日との連合とはいえ、サッカーワールドカップのような大会で、ネット放送がこれだけの金額を支払うという形が今までにあっただろうか。既に最終予選のホーム試合以外は、時差の関係で深夜帯での試合となってしまうことや、かつてに比べて日本代表戦への関心が薄いだけに、高騰する放映権に対し日本の民放各局が二の足を踏み、サブスクリプションで会員数を着実に増やしているDAZNなどでしか放映権を獲得できない状況になっている。

そんなDAZNもJリーグの全試合放送や、人気のプロ野球や海外スポーツの放映における会員数の安定を目的に先月1,925円(税込/月額)から3,000円(税込/月額)の値上げを発表した。ファンの間では賛否両論があるが、欧米のスポーツ視聴環境は衛星放送やペイパービューが根付いているために、そもそもこれだけの種類のスポーツが月額1,925円で視聴し放題であったことが、奇跡的な環境であったのではなかろうか。

昨今のNetflixやAmazonでのコンテンツ拡充により、スマホ視聴が増加し、また、TVモニターを繋げばネット放送が地上波同様のクオリティで視聴できる環境になっており、どの波でスポーツを観ることができるかはファンにとってはそこまで大きな問題ではない。
むしろCMの多さや、スケジュールの関係で放送が終了し、延長などが見れなくなってしまうストレスを考えると、お金を払ってスポーツを安定的かつ定期的に観戦したいという熱心なスポーツファンにとっては、欧米のようなスポーツ視聴環境に近づいていくことはさほど大きな問題ではないのであろう。

一方で、誰もが無料で見ることのできる民放の地上波でTV放送がないことで、ライトなスポーツ好きがスポーツから離れていく懸念を競技団体側が持つことも理解はできる。

それだけに今回のABEMAがサッカーワールドカップの放送権を全試合獲得したことには驚きがあり、FIFAから放映権を買いきった電通からするとありがたい話だ。もちろんABEMAも代表戦以外は、DAZNのようにABEMAプレミアム(960円(税込/月額))のみでの放送にすることはできるのであろうが、NHKが日本代表戦以外の試合を放送することを検討していることから、現段階ではそれは考えづらい。人気のスポーツが当たり前のように無料でみることができていた日本人にはまだまだ有料放送は受け入れられないという人も多いことからまだまだハードルは高いだろう。

ただ、2021年シーズンでは大谷翔平の活躍などで注目されるMLBの放映権も購入し、1年でABEMAがメジャーリーグファンを一気に取り込んだ。昨年の『CONMEBOL コパ・アメリカ2021』(コパ・アメリカ)は、全試合独占放送を実施し、準決勝以上はペイパービュー方式で有料放送したことから、ABEMAもスポーツのコンテンツパワーが次のビジネスチャンスになることは織り込み済みで英断したことは予想がつく。

IT企業が主導

過去のフランスワールドカップの放映権は5億円程度だったことに対し、前回のロシアワールドカップの放映権は200~300億円だったと報道されている。視聴率は取れるものの、広告費収入だけではビジネスにならないような金額まで高騰し、TV局にとっては手を出しにくくなってしまったのが現状だ。
一方、今のABEMAにとっては、これからのABEMAの会員獲得、プロモーション費用と考えると、果たして身を切ったような話でもないのではないか。

ABEMAの親会社であるサイバーエージェントは、基幹事業の広告領域の好調に加え、それ以上に新型コロナウイルスの巣ごもり需要なども相まって、スマホゲーム市場を快走している。大幅収益を叩き出すスマホゲームの「ウマ娘 プリティーダービー」のヒットを中心に、2021年9月期第3四半期(21年4~6月)が過去最高の営業利益445億、続く第4四半期(21年7~9月)で268億、この2022年9月期第1四半期(21年10~12月)は198億(昨年同期比2.8倍)と好調だ。藤田晋社長も、ゲーム事業などの収益をメディア事業(ABEMA)にシフトしていくことは決算発表でも公表している。

放映権の高騰によって、今までのスポーツ観戦を支えてきたTVの広告収入を中心にした放送環境から、IT企業主導としたスポーツ視聴へのシフトが着々と始まっている。

放送における観戦だけではなくリアルな観戦においても変化は起きている。直近では、スマホゲーム「モンスターストライク」が好調のミクシィが、FC TOKYOを完全子会社化し、三井不動産と共に千葉県船橋市に千葉ジェッツのメインスタジアムとなる1万人規模のアリーナ「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY」を建築着工することも発表するなど、IT企業のスマホゲーム収益を、スポーツ事業へと投資していく事例も増えている。

スポーツ業界やそれに伴う放映ビジネスには大きな利権や想いがあり、先進的に進まない中で、高騰を続ける放映権によって日本のスポーツ観戦ビジネスは転換期に差し掛かっている。現状そこに手を差し伸べチャンスへと転換できるのは、スマホゲームで潤っているIT企業しかないのが現実だ。

放映する側が工夫を凝らして変わっていかないといけないように、視聴する側も、今までの視聴環境が当たり前と思うのではなく、NetflixやAmazonPrimeが市民権を得たように、スポーツコンテンツに対してお金を払う事に対しての意識が自然と変わっていく時代はもう目の前だ。



【2022/2/18訂正】記事初出時、放映権の購入についての記載において、一部事実と異なる記載がございました。お詫びして訂正いたします。

VictorySportsNews編集部

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