【中年の星大賞】
野中悠樹(渥美)。
46歳の「女子MVP」藤岡奈穂子(竹原慎二&畑山隆則)にはトップを譲るが、男子現役で最年長チャンピオンの44歳。現在もWBOアジアパシフィック・ミドル級のタイトルを保持し、目標はあくまで世界だ。
プロデビューは1999年11月22日(ちなみにこの日はのちの世界王者長谷川穂積も同じ興行でデビューしている)。2000年になる前からプロのリングで戦っているのは、日本ではこの野中だけなのである。
プロになって丸22年が過ぎたが、野中のすごいのは44歳のいまも、若いころからの足を生かしたボクシングが身上であること。日々のたゆまぬトレーニングがなければ、とてもできない。
【番狂わせ大賞】
西田凌佑(六島)。
昨年4月、郷里沖縄に凱旋した元世界チャンピオンの人気者、比嘉大吾(Ambition=当時)を破ったのはプロ4戦目の新鋭西田だった。
番狂わせの衝撃度をアップさせた要因は、西田が全国的には無名だったこと、比嘉が落ち目の元チャンピオンではないこと、その比嘉とフルラウンドを戦って大差判定という文句なしの勝利であったことだ。連続KO記録(タイ)保持者の比嘉をアウトボクシングで空転させた。
元世界チャンピオンが世界戦以外の試合で敗れた例は初めてではないが、この西田-比嘉戦に匹敵する番狂わせはそうない。一躍スポットライトを浴びた西田は昨年の「新鋭賞」を受賞。仮に西田が世界チャンピオンに出世すれば、この一戦がターニングポイントとして必ず紹介されるだろう。
【当て外れ大賞】
一番はコロナで中止になった試合を楽しみにしていたすべてのボクシングファン……なのだろうが、ここでは「日本バンタム級タイトル」を選ぼう。
昨年1月に前王者の返上により空位となったこの王座をめぐって、決定戦が3度セットされながら新チャンピオンが決まらなかったからだ。
まずコロナ禍で延期になり(5月)、次にようやく行われたと思ったら試合前半の両者負傷による引き分け(7月)、そして3度目の機会は前日計量に片方が失格して中止(11月)――「呪われたバンタム」とまで言われたものだ。
幸いにも呪いはとけ、王座はさる今年2月に澤田京介(JBスポーツ)が埋めた。しかしこの時もやはり試合前半に澤田がバッティングで右側頭部から大出血し、負傷判定ルールで有無を言わせず引き分けになるところだった。けなげにこのタイトルに挑み続けてきた澤田は報われる思いだったろう。
【レコード大賞】
渡邊海(ライオンズ)。
昨年暮れの東日本新人王フェザー級決勝で、相手の吉田諒(ワールドスポーツ)を破ったTKOタイムは、なんと開始10秒。70年近い新人王戦の歴史で最短、日本歴代でも2位にあたる早わざだった(トップは8秒TKO)。
試合は、先に仕掛けた吉田のパンチを外しざまに渡邊が打ち込んだ右パンチで決まった。キャンバスにダウンした吉田のダメージをみた主審が即座に試合ストップを宣して、ニューレコードが誕生した。ファーストコンタクトで試合は終わったのだ。
倒した渡邊は4回戦ボクサーながらこの日も200枚以上のチケットを売ったやり手の新人。ワンパンチ、10秒で仕事を終えたわけだから“費用対効果”は高かった。一発100万円近い!? しかもこの勝利を評価されて大会の最優秀選手賞も受賞した。
【カムバック大賞】
宮崎亮(3150ファイトクラブ)。
元WBA世界ミニマム級チャンピオンの宮崎は井岡一翔(志成)の大阪・興國高校での同級生。一翔と同じ井岡ジムでひと足早くプロに転向し、2012年の暮れに無敗で世界王座に到達した。
しかしその後、減量に失敗したり、2階級制覇に失敗したりとキャリアは低迷。やがて運転免許停止中に車を運転し、また公務執行妨害の疑いで逮捕される。すでにジムから引退届も出されており、リングと永遠に決別したものと思われていた。
宮崎本人はあきらめていなかった。執行猶予が明けたことでボクサーライセンスを再申請し、ジムも変えて再出発。昨年12月、実に5年4ヵ月ぶりに試合を行い、3ラウンドTKO勝ちを収めた。再び宮崎は世界を目指している。
もうひとり、長らくの引退からカムバックすることになった元世界チャンピオンに山中竜也(真正)がいる。こちらは以前に試合で負った頭部のケガ(硬膜下血腫)により引退を余儀なくされたが、昨年12月にJBC(日本ボクシングコミッション)が頭部受傷ボクサーを対象にした復帰ルールを新たに設け、山中もこれに該当。来る3月6日に3年8ヵ月ぶりの試合を予定している。
山中は昨年中にリングに立っていないので今回は“選考対象外”となったが、復帰のために乗り越えたハードル(ルール)の高さは特筆すべきだろう。