「間違いなく予想以上ですね。さすがに上手くいきすぎじゃないかと思うぐらい、上手くいってますよね」

 現役時代は投手としてヤクルトのほか、メジャーリーグや福岡ソフトバンクホークスでもプレーし、現在は野球解説など幅広い分野で活躍を続ける五十嵐亮太氏は、古巣・ヤクルトの前半戦をそう振り返る。五十嵐氏自身、今年は開幕前からセ・リーグの優勝チームとしてヤクルトを挙げていたものの、ここまでの独走状態になるとは予想していなかったという。

「昨年と比べても、そんなに新しい戦力っていないじゃないですか。それでここまで勝てるっていうのは、結局は今までの戦力がしっかり機能しているってことですよね。つまり選手が上手く機能する仕組みを作ったってことなんですよ、高津(臣吾)監督が」

 選手が上手く機能する仕組み──。その代表といえるのが、投手陣の運用だろう。先発投手はキッチリ中6日ではなく、順繰りに10日ほどの休養を与えながらローテーションを回す。救援投手は可能な限り連投を2日までに抑え、場合によってはベンチから外して“上がり”とするなど、長いシーズンの中でも疲労が蓄積しないように気を配る。これが前半戦、リーグ2位のチーム防御率3.34という好成績につながったと言っていい。

「中継ぎで2日(続けて)投げて1日空くってなると、精神的にはめちゃくちゃ楽です。2連投目の時は『明日は休みだ』って思うから、メンタル的にも思いっきりいけるんですよ。高津監督は(現役時代に)抑えをやってた人だからその辺の感覚は分かるし、たぶん(選手の)気持ちのコントロールもできてるんだろうと思います」

 しばしば先発投手を登板翌日に抹消するヤクルトは、通常よりも多い9人の救援投手を登録して試合に臨むことが多い。だからこそ、そのうちの1人を“上がり”にすることができるのだが、それは長いシーズンのみならず、その先も見据えた運用だと五十嵐氏は指摘する。

「3連投しても問題はないんですよ。でも、そういったことが重ねってくると蓄積疲労につながる。たとえば(セットアッパーの)清水(昇)なんかは今までかなり投げてきてるから(過去2年で計124試合に登板)本人はもっと投げたいと思ってるかもしれないけど、ここである程度抑えることによって、たぶん選手寿命は伸びるんです。だからそういう、短期で勝ちながら中長期も見据えて野球ができてるっていうのは、本当にすごいと思います」

 五十嵐氏のいう「短期で勝ちながら、中長期も見据えた野球」には、若手の育成も含まれる。筆頭格は高卒3年目の20歳、長岡秀樹だ。昨年までの2年間で一軍出場は11試合のみで、今年は二軍キャンプでスタートする予定が、新型コロナウイルス陽性判定の村上に代わって一軍キャンプに帯同すると、そのまま開幕からショートのレギュラーに定着。自身もコロナの陽性判定で戦列を離れるまでは全試合にスタメン出場し、代替選出ながらオールスターにも初出場を果たした。

「ああいうところ(長岡の抜てき)も思い切りがいいですよね。古田(敦也)さんは今年のキャンプで『長岡は持ってるものはいいし、バッティングも何かを大きく変える必要はないから、二軍で首位打者を取れるぐらいになればレギュラーもいけるかな』みたいに思ってたらしいんですよ。僕も正直、来年から(レギュラー)定着できたらいいかなぐらいに思ってたんですけど、その辺の選手を見る目というか、いけると思ったら使い続ける思い切りの良さが高津さんにはありますよね」

 高卒2年目の20歳、捕手の内山壮真も今シーズン、高津監督によって抜てきされた1人だ。キャンプでは球史に残る名捕手の古田臨時コーチから指導を受け、初の開幕一軍入り。下半身のコンディション不良で出遅れた中村悠平の穴を古賀優大らと共に埋めると、中村の復帰後も石川雅規の“専属捕手”を務めるなどしばしば先発マスクをかぶり、前半戦でスタメン25試合を含む47試合に出場。6月2日の千葉ロッテマリーンズ戦(神宮)では決勝の3点二塁打を放ち、お立ち台にも上がった。

「内山はバッティングもいいんですけど、石川に聞いたら記憶力が抜群にいいって言うんですよ。だから(バッテリーミーティングで)石川と話し合っていても『前回はこうだったんで、こうしようと思います。どうですか?』みたいな感じで話がどんどん進むらしいです。結局、データはあるんですけど、それを自分でどう解釈してサインを出すかっていうところが大事で、その辺のセンスがあるんでしょうね。これは教えられてできることではなくて、感性とかそういったものを兼ね備えてないとできないです。この内山にしてもまだ2年目。長岡もそうですけど、一軍で使って選手を育てるみたいなやり方が、高津さんは上手いですよね」

 「高津流マネジメント」の下、ベテランも若手も一丸となって首位を独走してきたヤクルトも、前半戦の終わり間際になって思わぬコロナ禍に見舞われる。7月8日からの3日間で高津監督やコーチ、スタッフを含む27人に陽性判定が出て、一軍登録メンバーの半数に当たる15人の選手が抹消を余儀なくされた。

 7月8日から18日にかけては4試合の中止を挟んで今季ワーストの6連敗を喫し、一時はマジックナンバーも消滅してしまった。それでも20日に高津監督がコロナ陽性から復帰すると、24日の広島東洋カープ戦(神宮)に勝ってマジックナンバー41が再点灯。同率2位の阪神タイガースと広島に11ゲーム差を付けて後半戦を迎えたヤクルトに“死角”はないのか?

「今は独走態勢ですけど、もう少しゲーム差が詰まってくると、2位が気になる時が来るのかなって思うんですよ。下が気になってくると、戦い方もまた変な意識になっちゃうんです。目の前の勝ちよりも『相手(2位のチーム)が負けてくれないかな』とかね。そうなるとプレッシャーがプレーに影響することもあるので、2位が迫ってきた時の戦い方ですかね」

 五十嵐氏はそう話すが、新型コロナウイルス感染再拡大も含め、まだまだこの先にどんな苦難が待ち受けているとも限らない。「チームスワローズ」でそれを乗り越え、球団史上2度目のリーグ連覇にたどり着いた暁には、そこから新たなヤクルトの黄金時代が幕を開けるかもしれない。


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。