欧州リーグとJリーグとの間には圧倒的な収入の差が
2019年、J1リーグは開幕後初となる1試合あたりの平均観客数20,000人超えを記録し、同年ヴィッセル神戸は約114億円の売上を記録。Jリーグ史上最高となった。しかし、欧州5大リーグのクラブと比べるとその差は歴然だ。Jリーグの経営情報開示資料によると、2021シーズンのJ1クラブの平均売上高は約41億円だという。それに対し、欧州5大リーグクラブの2021/2022シーズンの平均売上高ランキングは下記の通りとなっている。
1位 プレミアリーグ 3億ユーロ(約405億円)
2位 ラ・リーガ 1億6711万ユーロ(約225億円)
3位 ブンデスリーガ 1億6341万ユーロ(約221億円)
4位 セリエA 1億1260万ユーロ(約152億円)
5位 リーグ・アン 8355万ユーロ(約113億円)
※全て現在のレートで換算
上記は国際的なデータサイト「statista」が発表した欧州5大リーグの売上高をもとに、クラブ数から平均値を算出したものだ。2021年のJ1クラブの平均売上高は約41億円のため、トップのプレミアリーグとは約10倍差となり、5位のリーグ・アンとも約2.5倍以上の差となっている。また、「Jリーグクラブ経営ガイド」によると、2019-2020シーズンの選手の平均年俸では、プレミアリーグは日本円で4億3630万円、ラ・リーガは2億8020万円、セリエAは2億4550万円、ブンデスリーガが2億1770万円、リーグ・アン1億4280万円とかなりの高水準となっている。J1は平均年俸がおよそ3600万円となっているため、年俸でみても3倍から10倍以上の差があるのが現状だ。
欧州とJリーグの大きな差は放映権と移籍金と収入
欧州とJリーグでは、売上や選手年俸に大きな差があることはデータにも表れている。欧州もJリーグも入場料(チケット)、スポンサー、放映権、マーチャンダイジング及び移籍金などの収入がクラブ経営の収益の柱であることに変わりはない。その中で売上にここまで差が出るのは放映権と移籍金の2つの収入に大きな差が出ているからだ。「Statista」によると、プレミアリーグ全体では年間約8,400億円の売上を上げている。そのうちの50%以上にあたる推定約5,000億円が放映権だという。Jリーグは「DAZN」を運営するイギリスの大手動画配信会社「パフォームグループ」と、10年で2,100億円の放映権契約を結んでいるが、プレミアリーグとの差は明らかだ。Jリーグもプレミアリーグも、リーグに入った放映権が各クラブに分配される仕組みとなっている。
そして、放映権料に加え、圧倒的な差となっているのが移籍金である。選手が他のクラブへ移籍する際、契約満了や解除、ローン移籍の場合を除き、移籍先のクラブが移籍元のクラブへ移籍金を支払うことになる。国際スポーツ研究センター「CIES」のデータによると、2012/2013シーズン以降の10年間で最も移籍金収入が多いクラブはチェルシーで、その金額は12億100万ユーロ(約1,621億円)に上る。しかし、チェルシーは移籍金の支出額が16億1,400万ユーロ(約2,179億円)のため、移籍金収支はマイナスとなっている。なお、最も移籍金収支のバランスが悪いのはマンチェスターユナイテッドで、収入が4億7,000万ユーロ(約635億円)、支出が15億4,500万ユーロ(約2,085億円)でマイナス10億7,500万ユーロ(約1,450億円)とのこと。移籍金収入ランキングの2位のモナコは、11億400万ユーロ(約1,490億円)となっており、支出が9億607万ユーロ(約1,223億円)でプラス1億9,793万ユーロ(約267億円)となっている。移籍金収入ランキングでトップ10に入ったクラブで収支がプラスなのは、2位のモナコと7位のドルトムントの2クラブのみのようだ。選手個人に関しては、「CIES」のデータによると、2022年6月の時点で移籍金が最も高額なのはPSG所属のフランス代表FWキリアン・エムバペで、2億560万ユーロ(約277億円)だという。一方、日本人選手がJリーグから海外移籍した際の移籍金は、2015年にFC東京からマインツに移籍した元日本代表FW武藤喜紀が300万ユーロ(約4億755万円)だと、ドイツ紙のキッカーが報じている。また、2019年にFC東京からレアル・マドリードに移籍した日本代表MF久保建英は、スペイン紙「エル・コンフィデンシャル」によると、約200万ユーロ(約2億7,164万円)だという。日本人選手の海外クラブ間での移籍に関していえば、2019年2月に元日本代表MF中島翔哉がポルトガル1部のポルトからカタール1部のアル・ドゥハイルSCに3,500万ユーロ(約47億円)が最高額のようだ。なお、今夏にリヴァプールからASモナコに移籍した日本代表FW南野拓実の移籍金は、1,800万ユーロ(約24億円)とのこと。やはり移籍においても欧州と日本とでは動く金額に大きな差が生まれている。
※全て現在のレートで換算
「選手の移籍も大きなビジネス」欧州と日本のビジネス的な感覚の違い
欧州と日本では移籍金で大きな差が生まれている。もちろん、選手の能力や実績、将来性やネームバリューなどから海外のスター選手の移籍金が高額になるのは理解できる。しかし、選手を他クラブから安く獲得、または下部組織で育成して高く売るという感覚が欧州では当たり前だが、日本ではまだ浸透していないことも考えられる。スペインなどにコネクションがある某代理人に話を聞くと、ユースチームでプレーする選手がトップチームに昇格する条件の一つとして「スポンサーを探してくること」が含まれているケースもあるという。ラ・リーガではEU圏外の選手の登録枠は3人までとなっているため、戦力となることは言うまでもないが、ビジネス面でもプラスになる見込みがない限り、ラ・リーガなどの欧州リーグに移籍するのは容易ではない。
海外進出が加速する欧州クラブ
欧州クラブとJクラブの違いとして、海外進出が挙げられる。7月にPSGが来日したのもその1つである。公開練習と試合を含め20万人以上が来場し、日本国内での海外サッカー人気を証明した。2019年にも、当時FCバルセロナのメインスポンサーを務めていた楽天が同クラブと「Rakuten Cup」を開催。バルセロナが来日し、ヴィッセル神戸とチェルシーと対戦した。今年11月には、日本代表MF鎌田大地や元日本代表MF長谷部誠を擁するアイントラハト・フランクフルトが来日し、浦和レッズとガンバ大阪と対戦するほか、一部報道ではかつて中田英寿氏も在籍していたASローマの来日の話題も飛び出した。
新型コロナウイルスの影響で2020年、2021年と海外クラブの来日は無かったものの、近年は海外クラブが日本ツアーを行うケースが見られる。そして、バルセロナやレアル・マドリード、リヴァプールなどを筆頭に多くの欧州のクラブが日本でサッカースクールを展開している。日本の企業とクラブがライセンス契約を結び、日本企業がクラブ名やロゴ、メソッドを使用する権利を得て、子ども達を指導するという仕組みだ。クラブ側はライセンス料を受け取りつつ、日本での認知度アップがメリットになる。バルセロナともなると、スクールのライセンス料も年間1,500万円以上にもなってくる。Jリーグクラブもアルビレックス新潟がシンガポールを拠点にクラブ経営を行っており、海外進出を果たしている例も見られる。その他には、川崎フロンターレがスポンサー企業を通じて単発でサッカー教室を開催するなどしているが、まだ海外進出しているクラブはそう多くない。今後、JリーグやJリーグクラブは欧州のリーグやクラブのように莫大な額の収入を得て、世界のビッグクラブの仲間入りを果たすことができる日は来るのだろうか。