”デスターシャ騒動”でみせた「団結力」

 まず、「団結力」。今のチームの雰囲気の良さを感じさせる“騒動”がヤクルトとの3連戦中に起こった。球団OB高木豊氏による「デスターシャ批判」だ。

 ベイスターズでは、佐野、牧、桑原らの間でNintendo Switchのゲーム「マリオカート」が流行しており、移動中や遠征先でのリラックス促進に一役買っている。そんな彼らがハマっているのが、「マリオカート」のゲーム実況などで人気のYouTubeチャンネル「サワヤンゲームズ」。同チャンネルを運営するウクライナ出身のサワヤン兄弟を試合に招待し、交流も生まれた。

 そのYouTubeチャンネルで挨拶代わりの合言葉になっているのが「デスターシャ」。言葉自体に意味はないが、語感と勢いを気に入った佐野らは「デスターシャ」と叫びながら右肘を挙げて胸の前でこぶしを握るポーズを本塁打パフォーマンスに採用。ベンチ前のテレビカメラの前で披露する姿が定着し、チーム内でも広がりを見せていた。

 ところが、8月27日のヤクルトとのカード第2戦で1-9の六回にソロ本塁打を放った牧が、控えめながらこのパフォーマンスを見せた場面について、高木氏が「不愉快に思ったDeNAファンはたくさんいると思うよ」などと苦言を呈した。これがネットニュースで取り上げられて大騒ぎに。その後、高木氏は「俺の口から発したことがファンの代表みたいな感じで伝わっていたと思うから、それは謝る」と謝罪する騒動に発展した。

 高木氏としても、古巣の急浮上を喜び、首位との直接対決に強い思いを抱いていたからこその発言であり、実際に「すごく気持ちが入っていたから、ちょっと(負けたことに)落胆があった」とし「すごく(ファンの心理の)勉強になった」とも話していることから、その是非についての言及は避けたい。ただ、この騒動に対する選手たちの対応には、今のチームの雰囲気の良さが表れていた。

 選手たちは、公の場で今回の騒動に対して発言をしていないが、実はサワヤン兄弟が現地観戦した6月28日の試合からチームはプロ野球歴代3位の本拠地17連勝を飾っており、実は「デスターシャ」がチーム結束の一つの象徴になっていたという舞台裏もある。その後にサワヤン兄弟が、動画で「勝っているときも、負けているときも明るいチームって怖くない? 負けていても全然気持ちが折れていないチームって強いよね。団結している感じがする」と発言。山﨑、関根ら選手たちも、自身のSNSで「デスターシャ!!!!」と発信し、思いを表した。

 さらに、山﨑は自身のツイッターで「どんな時も応援してくれるファンの皆様や、OBに愛されるチームでなければならない。これは高木豊さんに向けたメッセージではなく、むしろ内側のチームメイト、むしろ自分に向けたメッセージだと言う事であることはあえてここで言わせてもらう。#横浜優勝」(原文ママ)と、その意図を説明した。苦しい時も前を向き、決して諦めない。そんなチームとしての結束力、団結力の強さが伝わるエピソードとなった。

 また、山崎は8月31日の試合後、お立ち台で国指定の難病「胸椎黄色靱帯骨化症」の手術を受けた先輩に言及。「三嶋さんが一生懸命闘っている中で、一日も早く復帰できるように僕たちも頑張っていく。三嶋さんにもエールを送っていただければ助かります」と呼び掛け、横浜スタジアムのファンから大きな拍手を浴びた。8月は14試合に登板して11セーブを挙げ、防御率0.00。史上最年少での通算200セーブも達成するなど、抜群の安定感で引っ張る守護神がグラウンド内外で見せた姿に、チームの再浮上を予感させる要素が詰まっている。

 8月を月間勝利数としては球団歴代2位となる18勝6敗で終えたDeNAだが、首位猛追の大きな要素となったのは、伊勢、エスコバー、山崎ら勝ちパターンの救援陣の奮闘だ。8月の月間防御率2.93は、最後にヤクルト戦で大量16失点した試合があったにもかかわらずリーグ3位で、ヤクルトの3.86を大きく上回る。さらに、今永が5勝、大貫と濵口が3勝、石田と京山が1勝と18勝のうち13勝を先発投手が挙げており、先発陣が好投して救援陣につなぐ形が「勝利の方程式」として確立されている点に、好調の最大の要因がある。

 「DeNAは打撃のチーム」というイメージは、評論家諸氏からもよく語られるが、8月終了時点のチーム総得点404は首位・ヤクルトの526と大きな差があり、リーグ5位に過ぎない。8月は4得点以下で12勝と、「投手力のベイ」といっていい内容で勝利を積み重ねてきた。

「復帰戦力」への期待

 一方で、ベイスターズの今後を占う上で、最大のネガティブ要素となるのが“超過密日程”だ。今季はコロナ禍や天気の影響で、ここまで14試合が中止となっており、9月の30日間で12球団最多の27試合が組まれている。台風の季節を迎え、さらなる中止が出れば、プロ野球では1998年以来24年ぶりとなるダブルヘッダー(1日2試合開催)の可能性が出てくることも日本野球機構(NPB)は否定しない。

 今季のDeNAは、先述の通り救援陣の奮闘が目立っているが、エスコバーと伊勢がリーグトップの58試合と、登板数の多さはネックだ。47試合の山﨑を含めて登板数トップ10に3投手が名を連ねており、全体10位タイの木沢とマクガフ(46試合)がチームトップのヤクルトとは対照的な状況にある。ヤクルトは序盤から首位を快走してきたことで、高津臣吾監督による投手起用のマネジメントに余裕が生まれていた。一方、序盤にコロナ禍での選手の離脱も低迷したDeNAは、序盤の投手起用でやや無理をしてきたことは否めない。過密日程の中で、登板過多な救援陣がどこまで踏ん張れるかが、今後の鍵になるのは間違いない。

 ただ、そんな逆風を吹き飛ばし得る“戦力補充”が期待できる点は心強い。救援陣では、楽天からトレードで加入した森原がコロナ感染から復帰し2軍に合流。来日初登板となった8月27日のヤクルト戦では不運もあって1回4失点と力を発揮できず、2軍での再調整となったものの米大リーグ、メッツで抑えを務めた経験がある新外国人ガゼルマンも巻き返しが期待できる。右太もも裏肉離れで離脱していた田中健は9月1日に1軍で復帰登板(1回無失点)を果たし、8月31日には右前腕の炎症からクリスキーが2軍で実戦復帰(1回無失点)と、計算できる戦力も多く控えている。

 先発投手では、新型コロナウイルス陽性判定で離脱していた東が8月7日のイースタン・リーグ、ロッテ戦で復帰。同26日の同ヤクルト戦では7回8安打2失点と上々の投球を見せ、近い時期の1軍復帰が見込まれる。不調で2軍調整していた上茶谷、右肘の靱帯再建術(通称トミー・ジョン手術)から復帰した平良もコロナ感染で予定より遅れはしたものの、9月1日のイースタン・リーグ、西武戦で復帰後初先発を果たし3回無失点の好投を見せるなど9月中の昇格が期待できる。9連戦、10連戦を控える中で、8月に好投した京山、石田らを含めて先発の駒に困ることがなさそうなのは心強い。

 野手でも、コロナ感染から大田、オースティン、大和が復帰して打線を活気づけている。6月の打率.209、3本塁打、7月に同.265、1本塁打と不調だった4番・牧も8月は,309、6本塁打と復調を見せ始めており、戦力面は伸びしろ十分。逆に言えば、これだけの戦力を欠きながら見せた8月の快進撃は、まさに驚異的と言え「われわれは日程通りにやるだけ」という三浦監督の言葉にも、自信が感じられる。

 「団結力」などの心理面、そして戦力面の両方で確かなプラス要素があるベイスターズ。9月1日の中日戦前にはグラウンドで選手、スタッフが肩を組んで輪をつくり、心を一つにした。同5日現在、首位・ヤクルトとは7ゲーム差で、残る直接対決は6試合。「チームの雰囲気はすごく良いので、これから連戦が続きますけど乗り切っていけると思います」。桑原の言葉に“反撃V”への強い決意と覚悟がにじむ。


VictorySportsNews編集部