攻撃面はヤクルトが圧倒か
まず、3チームを攻撃面から探る。
表:今季のセ・リーグ打撃成績 得点数はヤクルトが619と抜きん出ており、1試合平均だと4.30。本塁打もCS進出チームの中では圧倒的で、長打力を表す指標IsoP(長打率-打率).160はDeNAの.127、阪神の.093を大きく上回る。
その中心にいるのは、もちろん「村神様」こと村上だ。打率.318、56本塁打、134打点はいずれもリーグトップで令和初、落合博満(ロッテ)らの29歳シーズンを抜く史上最年少での三冠王に輝いた。シーズン56本塁打は、1962年の王貞治(巨人)を抜いて日本選手最多。wRAA91.8は2位の巨人・丸(33.6)、3位のDeNA・牧(32.4)の3倍近い驚異の数字をたたき出している。ヤクルトでは塩見が25.9、山田が17.7、オスナが10.4で、初の規定打席に到達した長岡は-13.1。チーム全体のwRAAは89.2で、その多くを村上が稼いでいる。
逆に、対戦相手にとっては、その4番打者を抑えれば勝利が大きく近づくといえる。実際、9月13日の巨人戦で55号を打ってから、レギュラーシーズン最終戦となった10月3日のDeNA戦で56号が出るまで、14試合(欠場した1試合を含む)でノーアーチだった間のチーム成績は6勝6敗2分けで勝率5割にとどまった。目標としていた56本塁打を達成するまで生みの苦しみを味わい、三冠王獲得の重圧にもさらされていた村上だが、ポストシーズンは記録と無関係。ファイナルに勝ち進んだチームは“村上対策”をどれだけ徹底できるかに注力する必要があるだろう。
2位・DeNAはCS進出3チームの中で最も高い打率.251をマークしている。今季セ・リーグで4人しかいない3割打者が佐野、宮崎と2人おり、4番・牧は打率.291、24本塁打で打点はリーグ2位の87。この強力なクリーンアップに、ソトが控え、代打にはオースティンらが控えるのだから、「最大の武器は攻撃力」というイメージを持たれるのは無理もない。
ただ、497得点はリーグ4位。得点効率の面では、ここ数年の課題を解消しきれていないのが実状だ。昨季リーグで2番目に少ない81だった犠打や31と最少だった盗塁は今季、それぞれ102、49と増え、石井琢朗野手総合コーチらが加入した影響がみられる。しかし、それでもまだ傾向に大きな変化が見られるほどには至っていない。零封負けは昨季の12試合に対し14試合に増え、1得点以下の試合も昨季の31に対し36と逆に増えている。一方で4得点以上を挙げた試合は昨季も今季も65試合と、シーズンの45%を占め、勢いに乗ったら手を付けられない打線であるのも事実。今季の本塁打が出た試合は53勝25敗と大きく勝ち越しており、先制した試合は47勝25敗1分け。とにかく序盤に勢いに乗れるかが、DeNA打線のカギを握っていると言えそうだ。
3位・阪神は、この攻撃面に大きなウィークポイントを抱えている。チーム打率、得点、本塁打数いずれもCS進出チームではワースト。シーズン中も、とにかく貧打に泣かされ、球団ワースト記録のシーズン26度の零封負けを喫した。先述のwRAAはリーグワーストの-60.7(DeNAは同3位の5.0)と、ヤクルトより150点近く、1試合平均で1点以上“得点の期待値”が低いことになる。
それを補うのが走力だ。セ・リーグ唯一の3桁となる110盗塁を記録。30盗塁でタイトルを獲得した近本を筆頭に、23盗塁の中野、21盗塁の島田とリーグに5人しかいない20盗塁以上の選手が3人もおり、当然大きな武器となる。盗塁成功率、盗塁企図の頻度、三塁打や得点の多さをポイントに変換して平均値から足の速さを割り出す指標Spdは4.71でリーグトップ。3位のヤクルト(4.17)、ワーストのDeNA(3.07)を圧倒できるだけのスピードを持つチームといえる。
DeNA、阪神に絶対的エースの存在
続いて、投手力からそれぞれの強み、弱みを見てみる。
表:今季のセ・リーグ投手成績 防御率は阪神が断トツ。“投高打低”が顕著に表れている。特にクォリティスタート(QS=6投球回以上、自責点3以下)が81試合とリーグ2位の広島の73を大きく上回っており、シーズン全体の57%で達成するなど先発投手の安定ぶりが光る。また、セイバーメトリクスで投手にとって最も重要な指標の一つとされるK/BB(奪三振数÷与四球数)は3.64で、これも他を圧倒(DeNAが3位の2.56、ヤクルトは5位の2.51)。同指標は「本塁打以外の安打は偶然で投手には制御できない」という考えのもと、生み出されたもので、この数値が高いほど安定感がある投手と捉えることができる。個別に見ると13勝で最多勝に輝いたエース・青柳がリーグ2位(規定投球回以上)の4.13、西勇が同5位の3.58をたたき出しており、伊藤将を加えた安定感ある先発陣と、リーグトップの防御率2.39を誇る救援陣は短期決戦でも威力を発揮しそうだ。
ただ、ここで気になるのが、最多勝、最優秀防御率、勝率第1位と3冠に輝いた青柳のK/BBがリーグ2位であるという点。実は、ここにDeNA-阪神のカードとなるファーストステージのポイントの一つがある。第1戦で青柳と投げ合うことが予想されるDeNA・今永が、4.55でリーグトップなのだ。
今永は勝利数こそ11勝で青柳に及ばなかったものの、WHIP(1イニング当たりに何人の走者を出したか表す指標)でもトップの0.94(青柳は0.97)と投球内容では互角以上の成績を残している。けがで開幕から出遅れ、21試合の登板にとどまったが、規定投球回も3年ぶりにクリア。必勝を期してエースがぶつかり合うことが予想される初戦は、まさに勝った方が1勝以上のアドバンテージを得る試合になるといえる。
リーグ随一の投手を擁するDeNAは、11勝の大貫、短期決戦に強い浜口、終盤戦で安定感を見せた途中加入の新外国人ガゼルマン、7勝を挙げた石田と先発陣の駒が揃っているところが強みとなる。QSはリーグワーストタイの64試合(45%)、完投数も阪神の15試合に対して4試合と、完投能力の高い投手が少ない点は懸念材料だが、救援陣の顔ぶれもリーグ屈指だ。
37セーブ、防御率1.33と完全復活を遂げた守護神・山崎、リーグトップの71試合に登板し防御率・1.72、42ホールドポイントをマークした伊勢、同2位の70試合に登板し防御率2.42のエスコバー、57試合登板で防御率3.00の入江、47試合登板で防御率2.63の田中健が勝ちパターンとして計算できる。得点効率の低さが完全に解消されない中で昨季の最下位から2位にチームを浮上させた最大の要因が、この投手陣の整備にあった。
救援防御率こそ、1位の阪神に離され、ヤクルト(3.08、3位)にも及ばない4位の3.31にとどまるが、それは登板数からも分かるように、続く投手が不在で、この5人に頼る部分が大きかったからこそ。逆に短期決戦では不安要素にならない部分でもある。
投手力の面で、やや不安があるのはヤクルトかもしれない。今季は昨季に続いて2桁勝利を挙げた投手がゼロ。先発陣では高橋、サイスニード、小川、石川、高梨、原が6~9勝を積み重ね、総合力で連覇を飾った。ただ、絶対的エースの不在は、短期決戦ではマイナスになり得る要素だ。それなら日本一に輝いた昨季も同じでは-と思えるが、奥川という“隠れエース”がいた点を見逃してはならない。
高卒2年目だった奥川は、体調管理やけが防止のため、レギュラーシーズンで10日間の間隔を空けて登板を続けたこともあり、9勝にとどまったものの、その投球内容はチーム随一といっていいものだった。CSでは巨人とのファイナルステージ初戦に先発し、プロ初の完封を98球で飾る“マダックス”を達成。文字通りエース級の活躍でチームをCS突破、日本一に導いた。しかし、奥川は今季、コンディション不良で1軍登板は1試合のみ。ポストシーズンに復帰できる見通しも立っていない。
清水やマクガフ、成長株の久保、経験豊富な石山、ブレークを遂げた木沢ら救援陣の陣容は万全だけに、DeNAと並んでQS率、完投数がリーグワーストの先発陣が2、3失点でどこまで粘れるか。高津監督による継投のタイミングもポイントとなりそうだ。
特色ある3チームの戦いぶり
とはいえ、ヤクルトは連覇を果たしたチームであり、総合力の高さは随一。村上の状態が上がれば、多少のディフェンス面での懸案材料など問題にもならないだろう。DeNAはこの夏に歴代3位の本拠地17連勝を飾るなど、勢いづいたら止まらない爆発力あるチーム。阪神は対照的に少ない得点をいかに守り切るか、堅実な戦いが求められる。
対戦成績はヤクルトがDeNAと16勝9敗、阪神と13勝11敗とともに勝ち越しているが、最後の阪神との3試合は2敗1分け。青柳、伊藤将を攻略できずに終わった。また、DeNAは阪神に16勝9敗と大きく勝ち越し、ホーム戦を8連勝で終えた。相性、投手起用、采配なども絡んでくる大一番。その行方が注目される。