日本国内のBリーグは9月29日(木)に開幕した。特に週末の10月1日と10月2日に大半のチームが、開幕節2試合を組んでいた。本来であればもっとBリーグのシーズン開幕が、メディアに取り上げられ注目されても良かったはずだった。しかし、テレビのスポーツニュースや新聞では、全体的にNBAジャパンゲームズの方が目立っていた。もちろんBリーグの報道も大きく扱っているメディアはあったが、特に首都圏のメディアではNBAジャパンゲームズ関連が、Bリーグ開幕より話題をさらっている印象を受けた。

 何もNBAのプレシーズンマッチをBリーグ開幕にぶつけなくても・・・。Bリーグ開幕前にB1のあるチーム関係者に質問してみると「NBAのファン層とBリーグのファン層はちょっと違う。だから、あまり影響はないのでは」と意外な反応だった。筆者の中で疑問が湧き起こった。NBAとBリーグのファンは、実際のところ別々なのか?NBAジャパンゲームズのプレシーズンマッチ開催日(9月30日、10月2日)に、会場の観客たち、主に10代から30代の男女を中心に計30人ほどに声をかけて聞いてみた。

 先に結果を記すと、Bリーグも観戦すると答えた人は約3割だった。あくまで筆者が聞いた範囲内の割合である。

少なくない「Bリーグ興味無い」NBAファン

 NBAジャパンゲームズの会場さいたまスーパーアリーナは、試合開始3時間以上前から人で溢れていた。会場に隣接していた記念グッズ売り場は長蛇の列。売り場の近くにいた、記念グッズを手にした高校生男子二人組に話を聞いた。千葉県から来たという2人は「ステフィン・カリーが見たくて来ました。NBAは普段ネットのハイライト動画とかで見ています。Bリーグはまだ一度も見に行ったことがないですね」と共に答えた。千葉ジェッツというBリーグ屈指の人気チームがあることを伝えると、「もちろんチームは知っていますが、どうしてもNBAを見てしまうと興味を持てない」と理由を教えてくれた。ただ、引っかかったのが、ではそもそもBリーグの試合を観戦したことあるのかと質問すると「見たことない」と答え、「食わず嫌い」ともいえるものだった。

 試合まで1時間以上あったアリーナ内は既に多くの観客が入っていた。両チーム、シュート練習などアップをしていたが、多くの観客らがスマホを片手に、スーパースター軍団のシュート練習など動作の一つ一つを凝視し、歓声を上げていた。

 その中にいた群馬県から来たという男性四人組に質問した。大学バスケ部で一緒だったという25歳〜28歳の4人での観戦で、10万円を超える高額チケットだが「カリーと八村選手のプレーを見られるのが楽しみ」と喜んでいた。5、6年前からNBAを見始めたそうだが、群馬クレインサンダースの試合はまだ見たことないとのことだった。1人だけ「友人がプレーしている琉球ゴールデンキングスの試合はたまに見ていました」と答えた。

撮影:大塚淳史

 ステフィン・カリーのユニフォームを着て、カリーのシュート練習を仁王立ちして見ている女性に声をかけてみると、強烈な回答が返ってきた。神奈川から来たという30歳の女性は、NBAファン歴14年。中学の時にバスケ部で、ロサンゼルス・レイカーズやサンアントニオ・スパーズが強かった時代にNBAにはまったという。「NBAは格好良いし、迫力がすごい」と話したが「Bリーグは全く見ていない。日本のバスケは映えない。シュート成功率が低いですよね。NBAからバスケ観戦に入ると、どうしても興味を持てない」という。しかし、こちらの女性も、そもそもBリーグを見たことがあるかと問うと「見たことない」との答え。ここでも「食わず嫌い」を感じさせられた。

 プレシーズンマッチ2試合、観客に話を聞き回ったが「NBA好きだけどBリーグは見ない」と回答し、「ハイレベルなNBAを見るとBリーグに満足できない」と理由に上げる人が多かった反面、そもそもBリーグを一度も見たことないと答える人が少なくなかった。個人的には、Bリーグの試合だって十分魅力溢れるプレーを多く見られるのに勿体ない…とは感じさせられた。実際、Bリーグは今シーズンも開幕節から手に汗を握る展開の試合や、観客を魅了し興奮させる極上のプレーが多くある。

一定の割合で両方好きな人もいる

 こんなに「NBAファンはBリーグを見ない」という回答が続くのかと思い知らされたが、茨城県ひたちなか市から来た母親、20歳の娘、高校2年の息子の親子3人組は「NBAも楽しむけどBリーグも現地観戦する」と話した。ちなみに、チケットの予算の都合上、お父さんは泣く泣くNBAジャパンゲームズの現地観戦を諦めたそうだ。子供たちは共にバスケをしていて、NBA好きの息子さんはやはりそこまでBリーグ観戦には熱心じゃないということだったが、お母さんと娘さんは茨城ロボッツの試合をよく見にいくという。特にお母さんが、自分1人でも観戦に行くという熱心なBリーグ観戦者だった。

 他にも、NBAも見るけど普段はシーホース三河の試合をよく観戦しているという、愛知県刈谷市から来た親子二人組にも出会った。

 この様に、必ずしもNBAファンとBリーグファンが完全に分かれている訳では無いが、NBAを先に見始めている人ほど、Bリーグの試合を見ない度合いが強まっている様には感じた。

 やはり解せないのがこの日程。Bリーグのシーズン開幕節になぜ開催したのか。NBAファンとBリーグファンが異なるとしても、両方好きな人も一定層いる。両方好きな人が今回どっちを選んだのか定かではないが、めったに来日しないことを考えれば、BリーグファンであってもNBAの試合を選ぶ可能性はあった。「試合さえ被ってなければ(NBAに)行きたかった」と選手や関係者からも声が上がるくらいだったから。

Bリーグへの敬意が欠ける?時期被り開催

 来日してメディアカンファレンスで対応したNBAのマーク・テイタム氏(副コミッショナー兼最高執行責任者)とラメズ・シェイク氏(アジア地区マネージングディレクター)に、日程が被っていることについて質問をしたが、こちらの意図が上手く伝わらなかったようだった。

「私たちはBリーグを支持しています。正式な関係はありませんが、Bリーグは7シーズン目を迎え、バスケットボールの発展に素晴らしい貢献をしてきました。Bリーグの開幕、NBAの試合、昨年の東京オリンピック、そして来年は沖縄、フィリピン、インドネシアで開催されるFIBAワールドカップと、日本のバスケ界には大きな勢いがあります。日本のバスケ市場を総合的に見ることが重要です。日本のバスケットボールのファンにとって、今ほど良い時期はありません。Bリーグにしろ、日本代表のNBAにしろ。日本では、バスケットボールの試合を中心にたくさんのことが起きています」(シェイク氏)

 Bリーグの開幕時期を把握してなかったのでは・・・と勘ぐったが、3年前の前回は時期が被っていなかっただけに、疑問は残ったままだった。アリーナを借りる準備なども含めて、互いに1年前には準備や日程調整に動き始めていたであろう。その時点でNBA側がBリーグとコンタクトを取って日程を確認していれば、こんなことは起こらなかったのではないか。もしBリーグに事前に話し合いをしていて、この日程になったのならば、それはそれで疑問だが…。

 10月1日にあった千葉ジェッツ対大阪エヴェッサで、田村征也社長にNBAジャパンゲームズの影響について聞いてみると「開幕戦の10月1日は割と早く完売しましたが、その(ジャパンゲームズ)影響かわからないですが、(試合が被る)10月2日はチケットを売り出してから動きが鈍かったのはありました」と話していた。ただ、最終的に2日連続で完売(4377人、4300人)となった。

 千葉ジェッツの試合観戦に訪れていた人たちに、逆にNBAジャパンゲームズに興味あるか聞いてみると、「ジェッツの開幕戦だから当然こっち」と答える人が多く、もちろん、NBAの試合を普段見ていると答える人もいた。人気の高い千葉ジェッツだからこそ、NBAジャパンゲームズに集客を奪われずに済んだ面はあるのかもしれないし、それぞれのファンが異なるから影響が出なかったのかもしれない。

NBAファンをBリーグ沼に引き込むチャンスか?

 NBAジャパンゲームズでとにかく驚いたのが、全国各地から観戦に訪れていたNBAファンが多かったこと。「一生かけてもNBAの選手に会えるかわからないから見に来ました」(山口県防府市の男性2人組、共に21歳)、「職場のNBA好きな職場の同僚に誘われて一緒に見に来ました」(福岡在住の元Wリーグ選手)、他にも兵庫県や長崎県などの遠方から訪れている人が多くおり、高額チケットと合わせてNBAブランドの強さを感じた。そして、同様に普段はBリーグを見ていないと答えていた。答えてくれた人達の地域にはBリーグのチームがあるので、一度でも観戦に訪れてみてほしいと思うものだ。

 Bリーグは現在2026年から始まる新リーグに向けて、条件の一つに「1試合あたり平均入場者数4000人以上」を設けている。現時点で達成できそうなのは琉球ゴールデンキングス、千葉ジェッツ、川崎ブレイブサンダースなど、まだまだ多くはない。コロナの影響による入場者数減少から、多くのチームがまだ完全には回復しきれていない。各チーム、集客へのさらなる取り組み、新規ファンを増やしていく必要がある。その中で、全国各地に少なくない「Bリーグを見ないNBAファン」(あくまで推測)だが、根本はBリーグファンと同じバスケ観戦好き。やり方次第で、Bリーグに取り込みやすいターゲットになるのではないか。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。