このイベントでは、3年ぶりの来日となるフェデラー氏に加えて、フェデラー氏と同様にユニクロのグローバルブランドアンバサダーを務める、プロ車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾とゴードン・リード、そして、プロテニスプレーヤー・錦織圭が有明に集結した。

 約6400名の観客が見守る中、「日本のファンは温かく接してくれ、特別なつながりを感じている。3年ぶりに来日できて嬉しいです」というフェデラーの挨拶から始まって、トークセッション、小学1~4年生やジュニア選手を対象にしたジュニアテニスセッション、クイズコーナーが行われた。

 スペシャルテニスセッションでは、大事をとった錦織に代わって、フェデラー氏と同じく9月に現役を引退した奈良くるみさんが急きょ参加。フェデラー氏&国枝 vs. 奈良さん&リードによるスペシャルダブルスマッチが行われた。ちなみに、錦織はゆる~い審判を務めた。

 フェデラー氏は、「子供たちに会えて嬉しかった。潜在能力があって、素晴らしいボールを打つ子供たちだった」と、日本の子供たちとの交流を喜び、ジュニア選手に声をかけて直接アドバイスをするシーンも見られた。

 「ロジャーのテニスを間近で見るというのは、本当に幸運なことだと思うので、彼ら(子供たち)にもいろんなことを味わってもらえたのかなと思います。こういうイベントを、僕自身も経験できてすごく有意義な時間でした」。こう振り返った錦織も、フェデラー氏と一緒にジュニア選手へ熱心にアドバイスをした。

 2019年のイベントに続いてフェデラー氏のダブルスパートナーを務めた国枝は、今もなお“フェデラー愛”が出まくっている。

「フェデラー選手は、ずっと僕の憧れでしたし、引退されてもかっこいいなって、改めて一日堪能させていただきました。また新しい活躍を期待しています」

ユニクロが、「UNIQLO Next Generation Development Program」を発表

 イベントの中では、ユニクロの次世代育成プログラムが、「UNIQLO Next Generation Development Program」という新名称になると発表された。グローバルブランドアンバサダーを務めるフェデラー氏、錦織、国枝、リード、アダム・スコット(プロゴルフ)、平野歩夢(スノーボード)に加えて、メジャーリーグ野球などで活躍したイチロー氏も含めた世界一流のアスリートと一緒にさまざまなプログラムを展開していく予定だ。

 また、国際テニス連盟(ITF)、日本テニス協会(JTA)、日本サッカー協会(JFA)、スウェーデンオリンピック委員会、パラリンピック委員会といったスポーツ団体とも連携していく。

 日本の子供たちへ、「目的を高く持つことです」とエールを送るフェデラー氏は、日本には子供たちのロールモデルとなる存在がいることを指摘する。

「日本には、圭と慎吾というかつていなかった偉大な選手が2人います。その存在が次世代をインスパイアしているでしょうから、2人はまだ自分たちの影響の大きさがわからないかもしれないけど、10~20年後のうちに未来のチャンピオンが現れるのではないでしょうか」

 錦織は、自分に追いつき追い越していってくれるような子供たちの成長を楽しみしている。

「小さい子にはテニスをする楽しさ、スポーツをして得ることも多いと思います。16~17歳ぐらいになったら、厳しさも教えていかないといけない。一つのことを極めるという楽しさは、厳しさはもちろんですけど、同時にすごく大きな幸福感も得られる。僕としては、僕の背中を見て育ってもらえるように、自分自身ももっともっと大きくならないといけないなと思っています」

 さらに、フェデラー氏は次のようにも語り、日本テニスの未来に希望を与えてくれている。

「(子供たちが)続けていくことが大事で、少しずつ進歩していくことです。時には一歩下がっても二歩前進する。ベストを願うし、子供たちの情熱ややる気を見ると、日本テニスから未来のチャンピオンが現れるのは確実です」

 株式会社ファーストリテイリング取締役 グループ上席執行役員である柳井康治氏は、「フェデラーさんも引退後、これまでに比べればお時間があるということなので、一緒に次世代に向けて何かできればいいなと思います」と、今後取り組んでいくジュニア育成プロジェクトの展開に期待を膨らませる。さらに、社会貢献にも寄与できればとユニクロが思い描く夢は大きい。

「競技にすごく愛を持って、活動をしていらっしゃるので、その競技の人口が増えることだったり、もっと世界中で広まっていくことに対して、とても積極的に参加していただけるとわれわれは確信しています。これまで彼(フェデラー)が行きたくても行けなかった所に訪れられるようになる。フェデラーさんの人柄によって、本当にたくさんの人々がインスパイアされるので、スポーツに限らずいろんな場面で活動させていただきたい」

 41歳で引退したフェデラー氏は、「けがを治して、強くなって戻ってほしい」と錦織の復帰も願った。

 12月に33歳になる錦織は、2022年1月に手術した左股関節のリハビリは終了したものの、右足首のねんざによって戦列復帰が遅れ、10月17日以降のATPランキングから錦織の名前は消滅している。彼のランキング消滅は、2010年3月22日以来のことだ。だが、錦織は、38歳になってもなお世界のトップに君臨している国枝の戦う姿に励まされ、刺激をもらい続けており決してあきらめてはいない。

「日本人として国枝慎吾さんが、かっこいい姿を今でも見せてくれていて、その背中を僕も追っているところはあるので、それをバネに僕も頑張っていきたい」

 コロナ禍は未だに続いているが、それでもユニクロとの縁があって、引退してからわずか2カ月のフェデラー氏と再会できた日本のテニスファンは、本当にラッキーだ。イベント終了後には、有明コロシアムの外で待つファンに、フェデラー氏が歩み寄ってサインをするという心温まる場面も見られた。

「アットホームに迎えてもらって感謝しています。イベントの参加者から日本の次世代が出てくることを期待しています。また来年戻ってきます」

 こう語ったフェデラー氏とユニクロ、そして日本のファンとの良好な関係がこれからも長く続いていくことを願いたいし、イベントやプロジェクトをきっかけにして、日本で新しいテニスの芽が育まれていくことも心待ちにしたい。


神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。