大谷、大坂らが契約するFTX社が破綻

 仮想通貨ビットコインが急落するなどの経済面にとどまらず、その影響はスポーツ界にも及んだ。経済的損失を受けた投資家らが「宣伝に加担した」として、バンクマン・フリード前CEOのみならず、米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手や米プロバスケットボールNBA、ゴールデンステート・ウォリアーズのステフィン・カリー、ファッションモデルのジゼル・ブンチェンら“広告塔”となっていた11人の著名人を米マイアミにあるフロリダ州南部地区の連邦地裁に提訴したのだ。米メディアFOXビジネスによると、投資家らは「110億ドル(約1兆4500億円)の損害」を主張し、「数十億ドルの損害における責任」が被告にあることを訴えている。

 大谷がFTXのグローバルアンバサダーに就任したのは2021年11月。22年7月には関東エリアで流れた「FTX Japan」のテレビCMにプレー映像が使用されており、今もYouTubeで閲覧可能となっている。

 翌22年3月には女子テニスの大坂なおみもグローバルアンバサダーに就き、動画広告に登場。仮想通貨で報酬を受け取ることなどがニュースで話題となった。米プロフットボールNFL、タンパベイ・バッカニアーズのトム・ブレイディらも広告契約を結んでおり、米4大スポーツを中心とした世界の一流スターが騒動の渦中に置かれた。

「FTX Japan」のテレビCM(YouTube)

スポーツ界との関わりでブランド価値向上

 FTXは19年にバンクマン・フリード氏が香港で創業し、本社をバハマに置く仮想通貨取引所で、「Binance(バイナンス)」に次ぐ世界2位の取引額を誇る最大手の一つ。22年1月には企業価値の評価額が320億ドル(約4兆2500億円)に達するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大していたフィンテック(金融・IT技術の融合)企業だ。

 その地位を確立する上で、FTXが重視していたのがスポーツだった。仮想通貨は中央銀行の後ろ盾を持たないため、さまざまな要因で価格が大きく変動する傾向にあることから、“投資”ではなく “投機”としてネガティブに見られることも多い。そこで、宣伝を主目的とした契約で米スポーツ界とのつながりを深め、企業の信用を高める手法を積極的に推進してきた。

 例えば、MLBとMLB選手会のオフィシャルパートナーを務め、世界的プロスポーツリーグと仮想通貨取引所として史上初の契約を実現。大谷らスポーツ界のトップスターやセレブと次々と契約を結んできたのも先述の通りだ。21年4月にはプロバスケットボールNBA、マイアミ・ヒートの本拠地のネーミングライツ(命名権)を19年総額1億3500万ドル(約178億円)で取得し、名称を「FTXアリーナ」に変更するなど、ブランド価値向上を図ってきた。

 MITで物理学を専攻したバンクマン・フリード氏は、フェイスブック(現メタ)創業者マーク・ザッカーバーグ氏以来となる20代での個人資産3兆円超えを達成した人物で、「天才経営者」ともてはやされた。しかし、FTXの新CEOに就任したジョン・レイ氏は破綻の原因として、その経営手法に問題があったことを指摘。いわば“砂上の楼閣”だったことが米報道などで伝えられている。

求められる自覚

 今回の訴訟により、選手たち自身が何らかの責任を問われる可能性は低い。FTX破綻の要因は、財務の健全性を疑問視する報道などが引き金となり、いわゆる取り付け騒ぎが起こって資金繰りが急激に悪化したことにあるといわれる。あくまでアンバサダー契約を結んでいた“だけ”のアスリートに、破綻の責任を負わせるほどの強い関係性があったとは言えないだろう。アスリート側も、報酬が受け取れなくなるなどの損害を受けている。

 ただ、投資のきっかけを与える一つの要因として使われてしまった部分はあるだろう。経験の浅い投資家が「あの有名人が広告に出ているのなら安心だろう」と思うのは、自然な成り行きだ。

 過去には、AbemaでのサッカーW杯カタール大会の解説で話題となった本田圭佑やプロ野球・日本ハムの新庄剛志監督らが暗号資産取引所と契約を結ぶなど、日本でも著名人やアスリートが仮想通貨関連企業と関わりを持つ例が増えている。スペインでは、仮想通貨の広告についてリスクを説明する文言の掲載を義務化。出演料・謝礼を受け取って広告に出演する著名人も規制対象に含まれ、J1神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタがツイッターの投稿を巡って注意喚起を受けたこともあった。日本銀行の黒田東彦総裁は、FTXの破綻を受けて11月14日の記者会見で「暗号資産のリスクについては、G7でも指摘されている通り。規制面での対応を早急に進めていく必要がある」としている。

 自ら築いたブランド価値を競技外の要素で棄損するのは、アスリートやスポーツ団体にとって大きなリスク。世界的な経済減速が進む厳しい局面では、よりスポンサー企業・支援団体に対するリテラシーを高めることが求められる。何より、ファンに夢を与える側は、“入り口”となる広告塔としての責任、自覚を周囲のマネジメント含めて強く持つ必要があることを、今回のFTXの問題が浮き彫りにしたといえるだろう。

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VictorySportsNews編集部