「KPMG European Elite 2021」は新型コロナウイルス禍による経済的な打撃を受けた2019/20年シーズンをもとにした時点での分析であり、その点を考慮に入れる必要がある。欧州全体における総クラブ収入はそれまで平均7%程度の成長率で右肩上がりだったが、2021年版ではマイナス11%を記録。2016/17年シーズンのレベルにまで後退したと分析している。

 2位につけたバルセロナはスペイン1部で今季は首位に立つとはいえ、欧州の舞台で影が薄くなっている(直近の2シーズンは欧州チャンピオンズリーグで1次リーグ敗退)だけに、やや意外かもしれない。イングランド・プレミアリーグ勢は5チームが10位以内に入っている。10位のユベントスでも14億8000万ユーロ(約2190億円)。欧州サッカーは米プロフットボール(NFL)と並んで興行として潤っている屈指のプロスポーツであり、世界からの人気に比例するように、そこには大きな価値があると人々が認知している。

 「KPMG European Elite 2021」はトップ32までのクラブを公表している(上位32チームというのは欧州チャンピオンズリーグの本大会出場クラブ数と、くしくも同じ)。リーグごとに見るとイングランド・プレミアリーグからが8チームで最多。以下、5大リーグと呼ばれるスペイン、イタリア、ドイツ、フランスから複数のクラブが入ったほか、ポルトガルやオランダ、トルコからもランクインしており、欧州CLの常連といえるクラブが欧州サッカーの先頭集団を形成している。クラブの分布図を地図に示したものが以下の表2となる。

〔表2〕KPMG European Elite 2021をもとに作成

 リーグごとにまとめたEVの合計額はどうだろうか。トップ32に選ばれたクラブの合計額をまとめたものが表3である。イングランドは8クラブで全体(トップ32)の4割に迫る価値(EV合計額=130億2100万ユーロ、約1兆9271億円)を示している。人気・実力ともに最高峰とされるプレミアリーグの面目躍如といえるだろう。

 興味深いのはドイツ(3クラブ=43億4300万ユーロ)とイタリア(7クラブ=43億3700万ユーロ)の価値(EV合計額)がほぼ同じ点である。これは全体で4位に位置しているバイエルン・ミュンヘンというメガクラブの存在が大きく、ひとつの突出したクラブがあることで、ドイツとイタリアが拮抗した数値となっている。

〔表3〕KPMG European Elite 2021より作成

 クラブの価値を定義する中では、放送権収入などリーグの価値に連動する面もある。ドイツやイタリア、フランスのクラブがプレミア勢に追い付くには、クラブ単体の努力ではどうすることもできない側面もあり、リーグとしての戦略も必要になってくるだろう。

 イングランドのアーセナル、チェルシー、リバプール、マンチェスターU、マンチェスターC、トットナム、イタリアのユベントス、インテル・ミラノ、ACミラン、スペインのレアル・マドリード、バルセロナ、アトレチコ・マドリードの強豪12クラブによる欧州スーパーリーグ構想も、富めるクラブがさらに富を増やそうとした動きの中で出てきたものだった。同じ国内リーグの小規模なクラブに歩幅を合わせるのではなく、ビッグクラブ同士が手を組むことでの相乗効果を狙ったが、地元サポーターらの猛烈な反発にあって実現にはいたっていない。

 収入を見てみよう。KPMGによればレアル・マドリード(2019/20年シーズン)は6億8100万ユーロ(約1008億円)だった。2022年に開示されたJリーグのデータ(2021年度決算)を見ると、営業収入の1位が川崎フロンターレで69億8200万円、2位が浦和レッズで68億9100万円、3位が鹿島アントラーズで66億300万円。過去最高をさかのぼっても、ヴィッセル神戸が2019年度に114億円を超えたことがあるが、欧州とはまさに桁違いで雲泥の差といわざるを得ない。

 それでは、クラブの企業価値と成績の相関関係はどうだろうか。欧州サッカー連盟(UEFA)が過去の成績をポイント化して算出したクラブランキングを以下の表4にまとめた。今季は欧州チャンピオンズリーグ(CL)がまだ終わっておらず、数値が確定しない(4/29時点ではマンチェスター・シティーがトップ)ため、2021/22年シーズン終了時のものを掲載する。

〔表4〕uefa.comをもとに作成

 過去5シーズンの欧州チャンピオンズリーグの優勝クラブなどがずらりと並ぶだけでなく、「KPMG European Elite 2021」のEVのトップ10と9クラブが重なっている。(UEFAのランキングでトットナムは14位、EVのランキングでアトレチコ・マドリードは13位と、トップ10に近い位置にいる)

 大会が欧州CLへと改編された1992/93年シーズン以降、30年間で優勝したクラブは実は13クラブしかない。その全ては、今回の「KPMG European Elite 2021」のトップ32に入っている。つまり、表2の地図に登場しているクラブ以外で欧州チャンピオンズリーグの頂点を狙うのは、非常に困難といって差し支えないことをデータは裏付けている。(トップ32のクラブ以外の優勝例は、改編前の欧州チャンピオンズカップ時代の1990/91年にレッドスター・ベオグラードまでさかのぼらなければならない)。直近の10シーズンに限れば、欧州CL制覇はレアル・マドリード、リバプール、チェルシー、バイエルン・ミュンヘン、バルセロナの5チームしかいないのが現実である。

 KPMGのEVランキングと、UEFAのランキングでどちらのトップ10にも名を連ねているクラブのうち、欧州CLのタイトルを取っていないのは、マンチェスター・シティーとパリ・サンジェルマンの2クラブだけである。中東の豊富な資金力という背景に強化を進めるという共通点を持つ両クラブだが、悲願の欧州制覇も近いといえるかもしれない(マンチェスター・シティーは今季、ベスト4に勝ち残っているが、パリ・サンジェルマンはベスト16止まりだった)。そして、それが成ったとき名実ともに欧州のビッグクラブに肩を並べたといえるのではないだろうか。


土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材