堤(23歳)は2016年の世界ユース選手権で日本人ボクサー初の優勝を成し遂げ、高校生ながらシニアを差し置いて同年のアマチュア最優秀選手賞を獲得するなどした逸材。コロナ禍の影響もあって目標の東京五輪代表の座をつかめず、パリを待たずにプロ転向したのが10ヵ月前のことだった。

 堤にとってプロ3戦目のタイトル・アタックとなり、異例の出世スピードも話題になっている。奪取なれば、OPBF王座に限ると世界3階級制覇王者の田中恒成(畑中)らの4戦目を上回る記録である。

初タイトルマッチはABEMA独占生中継

 もとよりプロに入る前に井岡一翔と同じマネジメント会社と契約を交わしたり、周囲からの期待は大きかった。今回の一戦はボクシング中継に力を入れる動画配信サービスのABEMAが独占生中継することが決まっている。

 さらに5月11日には会見を開き、ABEMAとスポンサー契約を結んだことが明らかにされた。これも異例のこと。過去にABEMAがボクサー個人と同様の契約を結んだ例はない。契約期間はまずは1年間とのことだが、井上尚弥(大橋)を追いかける大型ホープとしてABEMAも猛プッシュするつもりだろう。

 「光栄ですし、いいチャンスだと思います」と堤は意気込み、「ABEMAを通して、将来、世界チャンピオンになるまでの過程、道のりをより多くの人にお見せできれば」。プレッシャーにも物おじしていないのだから大したものだ。

非凡なセンスでプロ2戦をこなす

 堤は昨年7月13日、井岡一翔の世界タイトル防衛戦の前座でプロデビュー。特例でいきなり史上10人目となるA級8回戦となり、元フィリピン・チャンピオンのジョン・ジェミノと対戦した。

 この試合で堤は両拳を痛めるアクシデントに見舞われながらもジャッジ2人が満点をつける判定勝ち。また5ヵ月後の第2戦は、前OPBF王者のペテ・アポリナル(フィリピン)に8回判定勝ち。これもジャッジ2者は堤のフルマークだった。

 ここまでプロ2戦2勝。KO勝利はまだマークしていないが、ほぼポイントを失うことなくタフでハートの強いフィリピン選手を退けており、かえって堤の非凡なボクシング・センスをみる思いである。

 次戦のサンティシマもやさしい相手ではない。プロ27戦で22勝19KO5敗のオーソドックス・タイプ。2020年2月にラスベガスで世界挑戦をしたこともある(エマヌエル・ナバレッテ=メキシコ= に11回TKO負け)。直近2試合は日本で行い1勝1敗だが、まだ枯れた選手ではない。日本人ボクサーにないリズムからの強振には警戒が必要だろう。

 ところで、ABEMAとのスポンサー契約の会見で堤はこう語った。

「ボクシングにはいろんな倒し方がある」

 倒そう、倒そうと力で押してノックアウトするスラッガーがいる一方、精巧な技術をベースに相手を崩しつつKOに結びつけるタイプもいる。堤は後者だ。実際プロ2戦ではKOを狙うあまり強引に出たところにヒヤリとするタイミングのカウンターを食らう場面があったが、このたびの堤の発言から、そのあたりの意識改革も進んでいるのではないか。

 サンティシマ戦に備え、堤は4月上旬から約1ヵ月、ラスベガスで合宿を行った。かつて人気を博した中量級の元世界王者フェルナンド・バルガスの三男でライト級プロスペクトのエミリアーノ・バルガス(アメリカ)や、WBC(世界ボクシング評議会)スーパーフェザー級2位のパブロ・ビセンテ(キューバ)ら、自身よりも重い階級の選手たちと手合わせをした。

「(好選手とのスパーは)うまくやれないことが多いので課題が見えるし、必死に考えるので、考える力がつく」

 こうした向上意欲旺盛な面も今後に大きな期待を抱かせる。


VictorySportsNews編集部