最初の2試合できちんと勝点6を取って余裕を持ってスペイン戦を迎えることができたというのも素晴らしい結果です。そのおかげで、決勝トーナメントのことを考えながらスペイン戦を迎えることができました。

 選手を誰かピックアップして書こうかとも思いましたが、実際のところ多くの選手が与えられた役割をしっかり果たし、チームプレーに徹していると思いますので、誰かひとりの選手を推すのは止めておきます。

 そしてそのみんなが活躍しているというのは、今のなでしこジャパンのいいところです。なでしこジャパンは特定の選手に頼っていません。全員のコンビネーションで相手を崩してゴールを奪うという日本のお家芸を披露しています。

 それが一番よく分かるのは、得点者に偏りがないことです。全員がゴールを目指し、そして得点を挙げているので、これは今後の対戦相手はマークを決めようにも難しいだろうと思います。

 なでしこジャパンが早々にグループリーグ突破を決めたので、僕はグループリーグ第3戦のスペイン戦の勝敗を気にしていません(※本稿はスペイン戦前に執筆)。30日には次の対戦相手になるA組の順位が決まりましたから対戦国をどうするか考えながら試合をすることができますが、でも対戦相手選びよりも大事なことがあります。

 正直に言えば、グループリーグの最初の2試合は当然勝利すべき相手でした。FIFAランクで言えば日本は11位、ザンビアは77位、コスタリカは36位なのです。ですからこの2チームに勝ったからといって大会での成功が確信できるかというと、そうではないでしょう。

 グループリーグ第3戦、FIFAランク6位のスペインとの試合からが本当の女子ワールドカップと考えていいと思います。そしてスペイン戦で、現状のなでしこジャパンの課題が見つかってくれたほうがいいのです。スペイン戦で見つかった課題を修正しながら決勝トーナメントの戦いに臨み、そこで勝利を収めることが大切です。

 もっとも、なでしこジャパンがベスト16で勝利を収めたとしても、まだ考えなければいけないことがあります。それはベスト8になったとしても、はたして日本の女子サッカーにもう一度光が当たるだろうか、という点です。

 2011年、なでしこジャパンは女子ワールドカップで優勝を果たしました。それまで3大会連続でグループリーグ敗退していたチームが一気に駆け上がり、決勝では世界最強のアメリカをPK戦で制するという粘り強い戦いを見せてくれました。

 同年起きた東日本大震災で日本中が疲弊していましたが、なでしこジャパンの活躍は復興に向けた勇気を与えてくれたと思います。その感動があったからこそ、大会後には女子サッカーのメディア露出は増え、当時のなでしこリーグは観客数が増加しました。

 あの戦いから10年経った後にスタートしたWEリーグには、まだ当時ほどの光は当たっていません。なでしこジャパンの成績も次第に落ちてしまったため、日本女子サッカーそのものが苦しくなったと感じています。

 やはり2011年ドイツ女子ワールドカップぐらいのインパクトがないと、今の日本の女子サッカーが脚光を浴びることはないのではないかと思います。ベスト16、ベスト8の戦いには日本女子サッカーの未来がかかっています。

 男子の日本代表はまだワールドカップでベスト8に進出したことがありません。そのため準々決勝以上に進むことができればすごく注目を浴びるでしょう。2022年カタールワールドカップでの称賛以上が集まるのは間違いないと思います。

 ですが、なでしこジャパンは「ベスト8進出」ではまだまだ足りないと思うのです。もちろんベスト16で勝利を収めるのも難しいことです。チームは今、まだその先を考えるほどの余裕は今ないでしょう。

 それでももっと上を目指しておかないといけないのは間違いありません。ベスト8まで上がれば、対戦相手はE組かG組のチームになります。FIFAランクで考えると、1位アメリカか3位スウェーデンとのゲームになりそうです。

 まずはそこまで行くことを考えて、ベスト16の試合に挑んでほしいと思います。グループリーグ突破で燃え尽きることなく、まだまだ自分たちの目標は先なのだ、そしてそこに日本中の女子選手の期待がかかっているのだということを感じ、決勝トーナメントに臨んでほしいと思います。


※本稿はスペイン戦前に執筆したものです。

【なでしこジャパン試合日程(日本時間)・結果】

7月21日 5-0 ザンビア戦
7月26日 2-0 コスタリカ戦
7月31日 4-0 スペイン戦

■ラウンド16
8月05日 17:00〜 ノルウェー戦

■準々決勝
8月11日 16:30〜

■準決勝
8月15日 17:00〜

■3位決定戦
8月19日 17:00〜

■決勝
8月20日 19:00〜

前園真聖

前園真聖

鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。アトランタオリンピック本大会では、チームのキャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」に貢献。その後日本だけでなくブラジル、韓国などの海外クラブでもプレーし、2005年に現役引退。現在は、サッカー解説などメディアに出演しながらも、サッカースクールや講演を中心に全国の子供たちにサッカーの楽しさや経験を伝えるための活動をしている。