セルティックのために世界中を旅するサポーター

 7月18日、来日ツアー中のセルティックFC(スコットランド)が、古橋亨梧、前田大然ら所属する日本人選手5人と、セルティックOBである中村俊輔氏によるトークイベントを、第1戦目の試合会場である日産スタジアムで実施した。

 イベント終了後、スタジアムからJR小机駅に向かい始めたところで、道の向こうから緑色の男女の一団が歩いてきた。6人とも見た目は欧米系の人たち。まさかと声を掛けて呼び止めたら、やはりセルティックサポーターだった。「我々は公開練習を見に来たよ!」と陽気だった。

 うち4人はグラスゴーからやってきて、いつも試合観戦をする仲間だそう。あとの2人はグラスゴー出身でありながらも、現在はオーストラリアで働く親娘だった。日本で行われるセルティックの試合を観るためだけに、日本にやって来た。

 その内の1人、ティムさんは筋金入りのサポーターだった。国内の試合はもちろん、海外の試合もその都度現地に足を運んで観戦するという。

「どこにでもついて行ってるね。(セルティックの試合のために)去年11月はシドニーに行ったよ。日本は今回が初めて。(好きな選手は?)キョーゴ!(=古橋亨梧)」

 ティムさんはその後の公開練習では、中村俊輔氏とのツーショットも撮っていた。セルティックサポーターにとってはまさにレジェンドプレーヤーの一人とも言えるだろう。中村氏のマンチェスター・ユナイテッド戦で見せた圧巻のフリーキックゴールも現地で見たという。

観戦の合間にはディズニーランドや東京タワーなどを観光

 オーストラリアから来たジョーさんとデラさん親子も、セルティック愛が強い。ジョーさんが仕事の関係でオーストラリアに移った時、娘のデラさんは当時まだ2歳だったというが、父親の英才教育の賜物なのか、「私は生まれた時から彼ら(セルティック)を愛して、サポートしてます。なぜなら彼らは素晴らしく、実際にファンのためにサポートも見せてくれる」とセルティック愛が全開だった。

 スコットランドへ里帰りした際には、セルティックの練習場や試合観戦に行っているそうで、デラさんは古橋とのツーショット写真を見せてくれた。そして筆者に対して、「彼のプレーはすごい!」と絶賛していた。また、「(試合会場のセルティックパークは)雰囲気が本当に凄いのよ!」と教えてくれた。

日産スタジアムに駆けつけたセルティックサポーターたち(撮影:大塚淳史)

 デラさんも初めての日本旅行だそうで、滞在中に東京ディズニーランドや東京タワーなどにも観光に訪れたそう。

 大阪での試合後に、改めて彼らに連絡を取って感想を聞いてみると、「日本のセルティックファンが多くて印象的だった。日本人はなんて愛すべき人たちだ!」(ティムさん)、「2試合ともアメージングだった!特に2試合目に関しては、我々は大阪で勝利を収めることができて大満足だったよ。あと、新幹線もクールだった!」(デラさん)と、ともに日本滞在を満喫したようだった。

 ちなみに、ティムさんはセルティックサポーターの間でも有名人らしく、セルティックの公式X(旧Twitter)がジャパンツアーの際に投稿したコメント欄には、「あいつがいる」「またティムが写ってる」と、セルティックサポーターからコメントがついていた。気になって調べてみると、ティムさんのXアカウントのフォロワー数は約5.7万人だった。

ソフィアからやってきた熱狂的インテリスタ

 他の試合でも海外からのサポーターに遭遇した。

 7月27日、インテル・ミラノ対アル・ナスルの試合が大阪・ヤンマースタジアム長居で行われた。開始時間1時間以上前、記者席に早めに座っていると、視界の中にインテル・ミラノの応援フラッグをくくりつけている男性がいた。時間もあったので話を聞きに近づいたら、外国の方だった。

 そのフラッグには「Inter Club Bulgaria」と書かれており、文字通りブルガリアのソフィアから観戦するために来日したという。

 ソフィアで弁護士として働くイワノフさんは、ジャパンツアーを見るために初来日した。イワノフさんはソフィア在住というが、「インテル・ミラノの試合を観るために、年間20試合はイタリアに訪れている。(ソフィアとイタリアの)飛行機代は格安飛行機が出ていて高くないしね」と熱狂的なインテリスタだった。試合前の公開練習や試合中も大声で応援しており、存在感抜群だった。インテル・ミラノの選手やコーチも気がついて手を振っていた。

 大阪、東京での2試合の観戦はもちろん、インテル・ミラノが日本で行ったイベントや、日本のインテル・ミラノサポーターたちとも交流した。

 イワノフさんと一緒に日本に来たニコラさんは18歳の高校生。インテリスタということと、日本文化に非常に興味を持っているということで、自身の父親の友人であるイワノフさんと一緒に日本へやってきた。

 「日本の漫画やアニメが好き」というニコラさんに、いくつかのアニメの名前を教えてもらったが、筆者の知らない作品名もあった。「高校卒業後の来年夏には、建築を学ぶために日本への留学を考えています」とも話しており、片言の日本語を一生懸命話そうとしてくれたのが印象的だった。

 ちなみに、本人は水泳をしているというが、観戦ではサッカー以外にもバレーボールも好きで「ニシダ(日本代表・西田有志)のプレーが好き!」とのことだった。

 たまたま、この日の取材前に枚方市で西田有志選手のパナソニックパンサーズ入団会見があり、筆者もちょうど取材していた。その際、メディア向けに西田選手のサイン色紙が配布されていたので、ニコラさんにその色紙をプレゼントすると「オーマイガー!」と大喜びしてくれた。

 2人はサッカー観戦以外にも、神戸牛を食べに神戸まで足を運んだり、東京ではスカイツリーや浅草寺といった観光地を訪れたりと、日本滞在を楽しんでいた。

 ここまで紹介したインバウンドのサポーター以外にも、バイエルン・ミュンヘンの試合では、中国人のサポーターグループが観戦のために来日していた。

 ただ、インバウンド向けのチケットサイトが複雑だったらしく、イワノフさんからは「8月1日にあるPSG戦を買いたいのだけど、どこでチケットを買うのか教えてくれないか?」と逆に相談された。

ブルガリアから遥々やってきたイワノフさん(右)とニコラさん(左) (撮影:大塚淳史)

 今回の取材を通じて、スポーツを通じたインバウンド(訪日客)、スポーツツーリズムというのかスポーツインバウンドというべきなのかわからないが、スポーツコンテンツを主目的にしたインバウンド施策の打ち出し方について考えるきっかけになった。

プロ野球観戦を楽しむアメリカ人、バレーボール観戦を楽しむ台湾人観光客

 今回の件、スポーツインバウンド自体は決して目新しい訳ではない。

 日本の大相撲はインバウンドの定番コンテンツの一つになっている。サッカーやラグビーのワールドカップ(W杯)では数多くの外国人が訪日していたし、今回のバスケットボールW杯沖縄ラウンドには、オーストラリア人やフィンランド人など、各国のファンが現地に多数訪れている。

 ただ、W杯、世界選手権、オリンピックのような人気の国際大会ならまだしも、こういったクラブレベルの試合でも、チームの人気度合いや、所属している選手にもよっては、外国人に対して訪日行動までをも起こさせるだけの力がある。そして、観戦のついでに日本での観光も楽しむといった、一連の流れを見込むことだってできる。

 例えば、バレーボールのVリーグ男子では、台湾の人気選手を獲得したチームの試合会場で、日本在住の台湾人だけでなく、台湾から観戦に訪れている人も見かけた。

 また、サッカーJリーグでは、北海道コンサドーレ札幌や川崎フロンターレに在籍したタイ代表チャナティップを見るために、練習場や試合観戦をするタイ人のツアーが組まれているなど、当時大きな話題になっていた。

 最近であれば、日本代表が優勝した野球のワールドベースボールクラシック(WBC)がきっかけで、プロ野球観戦に興味を持ったアメリカ人旅行者が増えたようで、旅行の際の行き先に選ばれ始めている。筆者自身も行きつけの銭湯に行った際、東京ドームで行われた読売ジャイアンツの試合を楽しんだという、巨人のユニフォームを着たアメリカ人カップルに遭遇したこともある。

 YouTubeでは日本のプロ野球観戦を楽しむ動画が以前より増えている。もちろん横浜DeNAベイスターズに今年入団した大物選手トレバー・バウアーの効果もあるかもしれないが…。

 コロナ前のデータではあるが、スポーツ庁は2018年に「スポーツツーリズムに関する海外マーケティング調査報告書」を出している。その報告の中で、『日本で経験してみたい「みる」スポーツツーリズム』(図)という項目において、アンケート対象の国が中国、韓国、台湾、香港、アメリカ、タイ、オーストラリアと、当時のインバウンド上位国に限られたアンケートではあるものの、スポーツ観戦に対する関心があるのは見て取れる。ただ、現場取材での肌感覚では、まだまだ取り込める余地があるのではないかと感じるところでもある。

(図)スポーツツーリズムに関する海外マーケティング調査報告書(スポーツ庁)より引用

 そもそも日本人でも、過去にはイチロー、松井秀喜、現在では大谷翔平見たさに、メジャーリーグ観戦のためのアメリカ旅行を計画している人も多くいるだろう。また、海外サッカー好きなら、例えば、レアル・マドリード、FCバルセロナ、マンチェスター・シティ、リヴァプールなど、欧州ビッグクラブの試合観戦のためにヨーロッパ旅行をする人も多い。

 日本へのインバウンド数は大幅に回復しているが、それでもコロナ前の水準には戻っておらず、消費金額も伸び悩んでいるという。これまであまり力を入れてはいなかった(様に見える)スポーツインバウンドに、もう少し力を入れてみるのも良いかもしれない。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。