ゴルフシューズもストリート?
「大丈夫です! でも今日は、靴を脱いでやりましょう」
マネジャーの池田さんが連れてきたプロゴルファーの福住尚将さんは、安達さんの厚底靴をチラ見して言った。そして、初めてのゴルフレッスン(ディスパッチ1~5)が始まった。屋内なので、靴を脱いでも問題ないが、次からはそうもいかない。
「スニーカー、どうしようかな」
安達さんが漏らすと、福住さんは軽く言った。
「あっ、なんでも大丈夫ですよ、運動靴であれば。ひとつだけ、極端な厚底だと、身体の使い方が変わってきちゃうので。できれば一般的な厚みのスニーカーで、練習のときには同じ靴を履き続けるのが良いと思います。はい、だから本当、普通のやつでいいんで」
なぜだか、安達さんは不満顔。
と、マネジャーの池田さんが編集者に囁いた。
「アダチ、マジなほうのスニーカー・マニアなんです……」
*
それからしばらく、初めての舞台出演のための稽古とゲネプロ、本番を終えた安達さんが、編集部にやってきた。
「池田さんはまだですか」
「お疲れ様です。もう着いてますよ」
喜色満面の笑みを浮かべ、応接間から池田さんが顔を出す。
「ちゃんと持ってきた?」
安達さんが頷く。後ろ手に、大きなスーツケースを引いている。
「いいね、いいね」
池田さん、大いに喜ぶ。
「っていうか、なんで池田さん、ビクトリーの取材のときだけ、なんにも教えてくれないんですか」
「だって、そのほうが面白いじゃん。今日も、面白い人に来てもらったから。早く、早く」
安達さんは黒いスーツケースを引いて、応接間に――そこには、緑のスウェットにキャップ姿の怪しげな男。
「こんにちは、我孫子と言います」
安達さんのファンにはなんのこっちゃ、本サイトの読者にはお馴染みの我孫子裕一さん。ファッション誌『GRIND』の創刊編集長(2009年~)を経て、フリーランスのクリエイティブ・ディレクターに転身。
2015年頃から活動の舞台に選んだViceジャパンでは、編集執筆にとどまらず、Amazonと共同製作したオーディブルコンテンツ『DARK SIDE OF JAPAN ヤクザ・サーガ』(https://www.audible.co.jp/pd/DARK-SIDE-OF-JAPAN-ヤクザ・サーガ-Podcast/B09HL3QDM2)の企画立案/リポーターも務めるなど、変幻自在の活動を見せている人物だ。
「えっ、あの我孫子さんですか!」
安達さんの表情が明るくなり、眉間のシワが消えた。
「ビクトリーの連載、いつも楽しみにしてます」
我孫子さんは『スポーツとファッション』と題した人気の読み物を本サイトで連載中なのである。
「ちゃんと持ってきた?」
池田さんがもう一度、聞いた。
「持ってきましたよ」
今度は嬉しそうに、安達さんが言った。スーツケースを開けると、箱がずらり。
「ゴルフの練習用の靴、迷ってたじゃん。我孫子さんに色々相談したら面白いと思ってさ。せっかくだから、自慢のスニーカー、ベスト5を持ってきたらって言ったんです」(池田マネ)
というわけで、練習用のスニーカー選びに端を発した、謎の対談が始まった。
『安達ゴルフ』と『スポーツとファッション』
安達「我孫子さんは、おいつくなんですか」
我孫子「1977年生まれなので、いま46歳です」
安達「もともとメンズのストリート誌の編集者だったんですよね?」
我孫子「そうですね。スケートボードを中心に、ヒップホップやパンクなどの音楽カルチャーなど、当時でいうサブカルチャーに根差したファッションがテーマの雑誌の編集者としてメディアの世界に入りました」
安達「シュプリームとかが載っているイメージ?」
我孫子「そうそう、ただ、今のシュプリームは世界中のあらゆる人に認知されているといって良いほど大きなブランドになったけど、当時は、全然アングラで、それこそアメリカと日本のストリートシーンにいる人しか知らなかった、みたいな時代だよね」
安達葵紬 あだちあおぎ
1999年3月4日, 長崎県生まれ. 二人組ユニット「カノサレ」のメンバーとしての活動を中心にモデル, 舞台などで幅広く活躍している.西日本鉄道株式会社のCM「空気イス女子高生」では高い身体能力を発揮. 映画『なつやすみの巨匠』(2015), 『ファンファーレ』(2023)では, 名だたる出演者のなかにありながら独特の存在感を放っている.