文=日比野恭三

スポナビライブとDAZNの誕生

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 昨年、スポーツコンテンツ界は大きな転換点を迎えた。

 3月にソフトバンクが「スポナビライブ」の提供を開始。これは、「プロ野球」「大相撲」「なでしこリーグ」「男子テニス」「MLB」「海外サッカー」「B.LEAGUE」という7ジャンルのスポーツ映像が見放題となるサービスで、利用料金は月額3000円(税抜き・以下同)。SoftBankの携帯電話契約者は月額500円となる。プロ野球には巨人、広島の主催試合が含まれず、海外サッカーはプレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、UEFA EURO 2016に限られるなどの“穴”はあるが、それでも、これだけ多様なスポーツが一つのサービスに包括されるのは画期的なことだといえる。

 続いて7月には、Jリーグが、英パフォーム社が提供するスポーツのライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」と、2017年から10年間にわたる放映権契約の締結を発表。Jリーグに約2100億円いう巨額放映権料がついたことは驚きをもって伝えられた。こちらは月額1750円。海外サッカーでは、ブンデスリーガ、セリエA(2節以降)、欧州主要国のカップ戦などを配信することになっており、スポナビライブを補完する構成ともいえる。プロ野球(DeNAと広島の主催試合)、MLB(1日最大4試合)、ラグビートップリーグ全試合やバレーボールVリーグ、格闘技、NBA、NFL、モータースポーツなど、こちらのラインアップも国内外にわたりかなりの充実度だ。

 冒頭に転換点と書いたのは、双方ともに「電波」ではなくインターネット回線を通じた「通信」によるサービスだからだ。想定される主たる視聴方法はスマホやタブレット、PCなどだが、ネットにつながっているなどの条件を満たせばテレビで見ることも可能だ。

 地上波放送で無料で中継が楽しめるのは、いまやごく一部の注目スポーツイベントに限られている。キラーコンテンツといわれたプロ野球の巨人戦も地上波放送は激減し、Jリーグの試合中継もめったに目にすることはない。テニスの4大大会や海外のボクシングを楽しむならWOWOW(月額2300円)といったように、どうしても試合が見たいという熱心なファンは、BSやCSなど有料のサービスを利用することになる。

「複雑」な日本のスポーツ視聴事情

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 日本では、そのサービスの組み合わせがあまりに複雑化している現状がある。DAZNを展開するパフォーム・インベストメント・ジャパンのジェームズ・ラシュトンCEO(写真左)は、「現在、日本のスポーツファンは、3つのスポーツイベントを見るために3つの有料テレビに月3000円ずつ支払い、合計で9000円を負担することもある。これはスポーツファンにとってありがたい状況ではない」(日経新聞)と語っているとおり、そうした日本の現状を参入の好機と見たのだ。

 しかし、スポーツ観戦のパラダイムシフトはそう急速には進んでいないのもたしかだ。スマホの画面の小ささや接続環境、録画保存ができないなどの問題もあり、サービスの利用者数は期待されているほどには伸びていないという話も漏れ伝わってくる。DAZNがJリーグを中継するのは今年のシーズンからだが、そのクオリティがどれほどのものになるかによっても、「通信でスポーツを見る」という文化の浸透度は変わってくるだろう。

 DAZNについては、サービス開始まもない2016年夏、ネット上で「公表内容と実際の配信内容が異なる」との指摘があった。NFLについてライブで全試合配信予定とされていたはずが、運営サイドに確認を求めると、「全試合ではございません。レギュラーシーズンとプレイオフ、それぞれ1日1試合を配信する予定となっております」との返信があったという。

 そうした話に触れると、「Jリーグは大丈夫なのか?」という懸念もわく。10年総額2100億円という放映権料にばかり注目が集まったが、「J3までも含めて全試合放送」という約束は間違いなく果たされるのか。加入者数の想定外の伸び悩みなどの理由によって契約が途中で破棄されるようなことはないのか。あるいは、Jリーグ側に支払われる金額が途中で減らされるようなことはないのか……。

 時流として、電波オンリーの時代から、ネットの比重が増えていく大きな動きは間違いなく進むだろう。ただ、その速度や移行のスムーズさはまだまだ見通せない。

 スポーツはネットで見るのが当たり前。そんな時代が近い将来にやってくるかどうかは、スポナビライブ、DAZN、そしてそれらに続く参入者が提供するサービスの「質」にかかっているといえそうだ。

日比野恭三

著者プロフィール 日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。