議論を呼ぶCS問題の元凶は日程?

「この時期に台風が上陸するのは異常ですよね。でも、ここ10年の日本の天候の変化を考えると、今までの常識にとらわれて考えるべきではないと思います」」

横浜DeNAベイスターズの球団社長を5年間務めた池田純氏は、今回のCSをめぐる問題について、かつて自らが経験した主催者側の視点から「スケジュールの問題」を指摘します。

「天候や気候については、もはやよくわからなくなってしまいましたよね。ベイスターズの社長時代から、『日本の気候が変わった』と試合開催やスケジュールなどを通して実感させられることが多々ありました。これだけの豪雨が降ったり、夏は異常に暑かったりと、とにかく安定しない。過去の天気の感覚がまったく通用しない。しかも毎年毎年安定しない。これだけ気候が変わっているのが現実であり、今まさにさらなる変化の真っ最中なんだと思います。一方、プロ野球のスケジュールは、日本の四季がはっきりしていた頃のままなんです」

つまりそれは、プロ野球のテレビ放映が全盛だった時代の日程でもあります。

80年以上の歴史を誇る日本のプロ野球は、テレビの普及とともに爆発的に全国民の娯楽として広がり、ゴールデンタイムの主役を張れるライブコンテンツとして発展してきました。天候も視聴方法も大きく変化した2017年現在、さまざまな齟齬が生まれるのも不思議ではありません。

「今の気候で考えると、梅雨前の時期って割とすっきりした天気の日が多いですよね。NPBのスケジュールを見てみると、ちょうどこの時期、5月末から6月にかけては交流戦にあてられています。交流戦自体はプロ野球の活性化に一役買っているのは間違いありませんが、リーグ戦が春先に開幕してすぐに交流戦になる印象があり、また決められた試合数を必ず消化しなければいけないので予備日も設けられていますので、気候のよい時期に日程的にも非効率な部分が生じます」

もう一つ、日程問題の主因として池田氏が指摘するのは、オールスターの存在だ。

「梅雨時期にレギュラーシーズンが再開して、7月中旬にオールスターがあるわけですが、近年の天候だと7月に入っても雨が続いたりしますよね。そこにオールスターが2試合あってその前後はオールスターブレイクとしてお休みになってしまう。交流戦とオールスター、この2つでかなり日程が圧迫されています」

予備日も含めた交流戦期間、オールスターに要する時間、この2つがシーズン後半にじわじわ効いてくることになります。

「この2つをどうにか短縮するなどの工夫をし、スケジュールをコンパクトにすることで、ポストシーズンにもう少しゆとりができると思います」

MLBロサンゼルス・ドジャースのダルビッシュ有投手がオールスターの意義、価値の視点から「2試合もいらないんじゃないか」と発言したことも話題になりましたが、ファンの満足感を維持した上で、日程問題をクリアする手立てはあると池田氏は言います。

ファンのためにも観戦しやすいスケジュールづくりを

「台風もそうですが、10月ともなるとこの時期はもう寒いですよね。こんなに寒くて、しかも雨の中で野球を見るというのは、違うスポーツをみているような感覚さえ覚えます。気候が変わったという前提に立てば、一番いい季節にお客さんが見たい試合をできるだけ詰め込むというのも一つの考え方だと思います」

スタジアムに足を運んで、生でプロ野球を観るという体験の価値が高まっている近年、天候を加味した日程変更、そうした前提に立った試合時間、スケジュールづくりが求められていると言います。

「10月10日に公式戦を終えて、3日しか休みを取らずに14日の土曜日からCSのファーストステージが始まってしまう。予備日は1日しか用意されていなくて、18日の水曜日にはファイナルステージを始めなければいけない。26日にはドラフト会議があって、間髪入れずに日本シリーズが開幕するという、本当にもうびっしりと詰まったスケジュールですよね」

池田氏は、試合勘やシーズンの流れの継続感という意味では「スピード感があっていい」としながらも、慌ただしすぎる日程が直接的、間接的に今回のCSに対する疑問や不満の声につながっていると分析しています。

“ケツカッチン”の日程は球団、選手への負担も増加している

「球団側の事情を少しお話しすると、CS、ドラフト、日本シリーズの後には、12球団の合同トライアウトもある。ぎゅうぎゅう詰めの日程の中で球団はチームの戦力も考えなきゃいけないんですよ」

池田氏は自身の経験からこの時期の球団経営の忙しさにも言及します。

「10月1日からレギュラーシーズン終了翌日までが、1回目のいわゆる“戦力外通告”のタイミングになるんですが、レギュラーシーズンが長引けば長引くほど、来季に向けての選手編成が遅くなります。2回目はCS終了翌日から日本シリーズ終了の翌日。その間にはドラフトもあるし、トライアウトもあるので、どのタイミングで編成を固めていくのか、限られた枠をどう有効活用するかを決断するのが非常に難しくなるんです」

編成が長引くということは、戦力外通告を受ける選手にとっても大きなデメリットになります。

「物理的にはレギュラーシーズンの方が忙しいと思いますが、この時期は精神的にタフである必要がありますよね。選手だって突然戦力外通達を受けるかもしれないという最中にチームは大一番を戦っているわけですよ」

池田氏は、CS問題にまつわる議論の前提にはペナントレースとポストシーズンをしっかりと分けて考える “とらえ方”も重要だと言います。

「球団の真ん中にいた人間としては、当然ペナントレースで優勝するかがまずは一番重要なんです。144試合もの長いシーズンを戦いぬくわけで、必然的に球団として最もプライオリティを高く意識せざるをえないのがシーズン優勝です。CSはあくまでCS。それとは別の日本シリーズという大一番。はじめにシーズン優勝を手にしてから、CSにしっかりと勝利できるかどうか。その先の日本シリーズはやはり“日本シリーズ”、セ・パのチャンピオン同士の戦いというわけで“大一番”です。リーグ優勝をしたうえでの連続タイトル奪取で、その2つが揃って『今年の野球のチャンピオン』というふうに感じていました。ただ、CSで下克上があったり、日本シリーズで勝てば日本一であったり、いろいろな仕組みで、数多くのフランチャイズ地域が盛り上がる可能性や、野球ファンが長く野球を楽しめるという意味では、私は何も批判することはないと思います」

さまざまな人がさまざまな立場から賛否、提言を含めた活発な議論を行っているCS問題。池田氏は、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではなく、天候の変化や望まれる日程にアジャストするために変わっていくことが重要だと語ります。

「NPBは『失敗をしてはいけないから変えない』という選択をしがちな組織だと思います。ただ、日本の気候は変わった。天気でさえもこんなに大きく変わっているわけですから、失敗も織り込み済みでどんどん変えていく意識が大切だと思います」

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部